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第3話:初めまして聖貴学園

 祐は今日は制服ではなく私服に着替えて部屋の荷物をまとめていた。既に九割は、まとめ終わっているが段ボールの数は思ったよりも多くなってしまった。机とパソコンとベッドしかない部屋を見て祐は、三年間は最低でも戻ってこないと考えると言葉には表しにくい気持ちになる。

 祐の母親は飛行機が遅れているせいでフライトが一日ずれていた。

 祐の部屋が綺麗に片付けられた頃、家のチャイムが鳴った。


「はーい」


 階段を一段飛ばしで駆け降りてモニターで確認する。モニターに映っていたのはマリアだった。玄関の扉を開けるとマリアが微笑んでいた。


「おはよう、荷物の方はまとまっている?」

「はい、ただ少し多くて……」

「問題ないわ。しっかりと部屋に送っておくから」

「もう既にクラスとかって決まっているんですか?」

「ええ、昨日の電話のあとの一時間後くらいに受け入れる体制はできているよ」


 従者コースなのか主人コースなのかはマリアが持っている封筒の中に入っている。しかし、クラスや学生手帳は部屋にいかないと分からないようになっている。


「とりあえず、はいコレ」


 マリアがすっと渡したのは従者コースなのか主人コースなのか書いてある小さな封筒である。祐は大切そうに抱え、学園長と共にリムジンに乗車した。


「どう初めてのリムジンは?」

「そうですね……思っていたよりも広いですね。ソファーも高そうです」


 そんなことを言っている間にリムジンは動き始めた。祐の家から聖貴学園までは三時間以上かかる。その間に封を開けようと思っていた。


「これってどのタイミングで開けるのがいいんですか?」

「お任せするよ。受け入れるのに時間がかかるんであれば早めにって感じだね。ちなみに最終的な決断を下すのは私じゃないんだよね」


 マリアの言葉に不安を覚えながらも、祐は封筒を開けていく。中には一つ折りされている紙が入っていた。震える手で紙を開けるとそこには“従者コース”とは書かれていなかった。代わりに書いてあったのは“任せる”の三文字だった。


「学園長、コレはどういう意味ですかね……」

「お好きな方をお選びくださいってこと。一度決めてたら卒業するまで変えられないからね」

「でも、普通だったら従者コースなんですよね。だったらお言葉に甘えて”主人コース”で」


 マリアは頷きどこかに連絡をした。しかし、この段階ではまだ分からないこともある。一声に主人コースと言っても階級がある。その階級次第で一人部屋になるか二人部屋になるか変わってくる。


「この任せるって言う言葉も不便ですよね。どこまでが”任せる”の有効範囲なんですかね」

「そうね、コース選択と部屋割りかな。まあ、君の部屋は決まっているよ」


 実は昨日の祐が通話を終了した五分後には、コース、クラス、部屋……その他もろもろ決定されていた。


「そう言えば、俺は目隠しとかされないんですか」

「まあ、君の転入を決意した段階で聖貴学園の生徒だからね。そもそも道順を不確かにしているし、方向感覚は狂わせているはずだし」


 そう言われて祐はハッと外を見ると、既にどこにいるのか分からなかった。


「分かったでしょ。まぁ、部外者は目隠しして耳栓もするけど」

「学園長、もうすぐ学園に到着いたします」

「長時間の運転ありがとう」


 すると祐の目の前に巨大な建物が現れた。それは小さな町のように見えても、おかしくはないほどの大きさだった。聖貴学園が見えてきて五分後、ようやく聖貴学園の正面にあるロータリーに到着した。


「祐様、お荷物は後ほどお部屋に運ばせていただきます」

「あ、すみません。ありがとうございます」


 アスファルトを踏みしめる祐の表情は固かった。そのときマリアの携帯が鳴り出した。マリアは真顔で応答する。


「私だ。何のようだ。私は忙しいんだ。この電話番号にかけてくるな」


 今まで見てきた表情とは大きく異なるマリアの表情を見た祐は開いた口が塞がらなかった。すると、守衛と話している女子生徒を見つけたマリアは彼女を呼んだ。


「夏穂、丁度いいところにいたわ」

「これは、学園長様。如何なさいましたか?」

「君にも紹介しておくよ祐、彼女は生徒会長の暁月(あかつき)夏穂(かほ)

「一年一組の暁月夏穂です」

「山谷祐です」


 祐と夏穂は軽く会釈した。夏穂は綺麗な茶髪の髪が長い女性で、その黒い瞳はどこか寂しい雰囲気を漂わせていた。


「私はこのあと仕事が入ったんだけど、彼の案内を頼めるかな」

「了解しました」


 マリアは再びリムジンに乗り、運転手がドアを閉めて発進した。夏穂は頭を下げてマリアを見届けた。


「さぁ、行きましょう」

「あ、はい」


 正門には左右に二人の守衛が並んでいた。二人とも祐のことを見るとそっけない態度をとった。二人の守衛は拳銃を所持していた。


「この学園には多くの令嬢や御曹司が通っているわ。そんな彼らに危険が及ばないよう、警備に当たる人は銃を携帯しているのよ」

「生徒会長様、お疲れ様です。そのお隣の方は……」

「山谷祐です」

「一般人か、すると転入先は従者コースだな」


 二人の守衛は大声で笑った。その様子を見て祐は別に不快には思わなかった。気に止めるつもりもなかった。しかし夏穂は、あまり機嫌が良くなかった。


「その笑いは祐さんに対するものですか? そもそも従者コースに通う生徒でも聖貴学園の生徒ですよ。私の言いたいことが分かりますか?」

「す、すみません」

「祐さん行きましょう」


 守衛は無言で門を開ける。夏穂、祐の順番で門を通り抜けた。祐は聖貴学園に一歩踏み込んだときから学園の放つ気迫に押し潰されそうと感じていた。


「改めて、ここが聖貴学園です。石畳の両脇にある花は園芸部が育てています」


 聖貴学園の建物の入り口付近には地下にいく階段が存在している。地下鉄が学園内の地下を走っているため、移動がしやすくなっている。しかし、それは従者コースの生徒は基本的に乗ることができない。主人に付いている従者コースの生徒は乗ることができるのだ。


「そう言えば支給されるバンダナは制服のどこかに着けてください。それが主人コースと従者コースの識別になりますので」


 主人コースの生徒には、好みの色が渡される。逆に従者コースの生徒には白色のバンダナを渡される。その意味は、まだ染まっていないことを表している。そして主人が見つかったとき、その主人と同じ色のバンダナをつけることになる。


「分かりました」

「とりあえず、寮に案内します」


 夏穂はすたすたと石畳の道を歩いていく。しかし聖貴学園に人の気配は感じなかった。それもそのはず、聖貴学園の従者コースは授業が始まっているが、主人コースの授業はまだ始まっていない。従者コースと主人コースは別の授業設定で動いている。

 そのため、主人コースの生徒はまだ春休みだ。実家に帰省している人もいる。そのため人気を感じないのである。


「とりあえず、寮に行って軽く荷物をまとめたいな」

「間取りの確認とかも済ませておいてください」


 しかし夏穂はどこか元気がなさそうだった。そのことに祐は気づいてあげられなかった。

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