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『エッジ』(関ヶ原 レヴェレイション)  作者: 勒野宇流
時渡り
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『エッジ』 第9章 時渡り(5)


 願坐韻が亡くなったのであれば、権力者のこと、当然大きな動きが起こる。葬儀は並の規模では済まず、その前提として、まずは一族の者すべてが顔を合わせる場所が設定されることになる。


 礼韻は縁者の中で最も願坐韻と深く付き合った人間で、葬儀には不可欠の人間となり、不在では済まされない。また未成年でもあり、行方不明となれば、捜索願が出されることは間違いなかった。


 そうなれば、極めて面倒な事態となる。警察沙汰となるからだ。しかし礼韻は、おそらくそうはならないだろうと踏んでいた。あのおじいちゃんが、手を打たないわけがない。強い信頼があった。時渡りと自身の死が重なるのであれば、その死をしばらくの間、秘匿しておくように手配を整えているに違いなかった。


 だから礼韻は落ち着いた気持ちで、帷面に従っていった。


 礼韻は、なるほどな、と思った。そのひとつひとつの帷面の行動が、願坐韻に聞かされたとおりだったからだ。願坐韻が時を渡ったときの状況と、まるで違いがなかった。


 彼ら帷面は3人の目を覆い、馬に乗せ、けもの道を進んでいった。


 真夏だが、ひんやりとしてくる。相当奥地に入っていると礼韻は読んだ。しかしそれがどのような場所なのか、皆目見当がつかなかった。


 願坐韻がこの世からいなくなり、礼韻を擁護する人間がこの地に皆無となった。しかし礼韻は気にしなかった。人間は所詮一人だという意識が、幼少の時から根付いているからだ。


 それよりなにより、眠かった。どうしてだか分からないが、異様に眠い。これから時を超える。三成に会える。その興奮が体の中にあり、高揚しているという意識があるのに、しかし眠くて仕方がなかった。


 言葉を発するのは厳禁。出立時に帷面の者から注意を受けていた。だから、眠いので少し止めてほしいと訴えることもできない。もちろんのこと、気晴らしに拈華微笑の術で優丸と会話することも憚られる。拈華微笑の本家、帷面の者たちに複数囲まれているのだ。


 目隠しがまた、眠気を倍加させる。これで視界でも自由であれば、たとえ闇の中だろうといくぶん楽なはずだった。この目隠しも絶対にはずすなと注意を受けていた。


 礼韻は体を抓り、歯を食いしばり、眠気に耐えた。しかしどうにも耐えきれず、馬上からずるりと落ちていった。

 

 


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