『エッジ』 第8章 帷面権現(18)
敵が単身と見るや、礼韻と優丸は拈華微笑の息で互いに離れた。一度に攻撃できないよう、分散するのがいい。
忍びの首がせわしなく左右に動く。言葉なく的確な行動を取りあえることに、礼韻はこの一件の有利を感じた。これが涼香と一緒であったなら、大きなお荷物になったことだろう。
次に問題は、忍びがどちらに向かって来るかだ。礼韻は自分に向かってきたときのために、手近の枝を拾った。もちろん砥ぎこまれた刀に対してほとんど無力であることは百も承知だ。
果たして忍びは優丸へと向かっていった。山肌を上がった礼韻よりも崖の方へ逃げた優丸の方が、刀の威力が出るからだ。
礼韻は敵がそうすることをほぼ読んでいた。すぐさま目を付けていた石を拾い、狙いをつけて投げた。
石は忍びの太腿に当たった。卵大の大きさのもので、全力で投げた威力はそこそこ効く。忍びは呻いた。
そのわずかに動きを止めた相手に、今度は2人で石を投じた。頭の中で声をかけ合い、けっして対角線上にならないよう確認していたので、それぞれが全力で投げられた。
優丸の石は外れたが、礼韻の石が今度はちょうど振り向いた膝に当たり、相手は飛び跳ねた。
忍びは反転するや、転げ落ちるように山を駆け下りていった。
「追うか?」
礼韻が優丸の頭に言葉を送ったが、優丸は腕を伸ばして制し、首を振った。
しばらく、忍びの降りていった山肌を見ていたが、さらなる危険があることを想定して再び登山道を下っていった。
「それにしても、見事なコントロールだったな。はずせないところでよく当てたもんだよ」
「いや、石の大きさと形がたまたまよかっただけだ」
「しかし礼韻が阻止しなかったら、本当に切ってきたのかな?」
「それは分からないな」
礼韻もほんとうに分からなかった。生死を賭けたテストなどやっていては、この現代では隠し通すことなどできない。事件となってしまい、連綿と続く帷面の生活と文化が途絶えてしまうことになりかねない。しかし、あの忍びから受ける「気」は本物だった。たんなる脅しというわけではなかった。
いずれにしろ、まずは急いで小屋に戻ることだ。日が高かろうが、涼香が1人では危険が迫ったときに対処できない。
礼韻は足を速め、その意図を読んだ優丸もピタリとあとを付いた。




