表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/61

プロローグ04

 「働きながら、学校へ通えば良い」

 と、柳井の店へ連れて来られたのは、宣言をしてすぐのこと。

 商店街が切れ、少し入り組んだ場所に、柳井の経営するカフェバーはある。

 木彫でひっそりとした佇まいを漂わせた店を一目見た瞬間、颯太は気に入ってしまう。

 アンティークにまとめられた店内。

 昼間は簡単なランチメニューが出され、夜はバーへと転身する。

 常連客ばかりで、ほとんどが柳井の知り合いである。

 恐縮する天璃を見ながら、柳井は颯太に住み込みで働かせる条件を出してきた。

 学業を優先させること。成績は下げたら、即退去を命ずる。それ以外は、自由にしてくれて構わない。と言うのだ。

 願ったり叶ったりの条件だと、天璃は更に頭を深々と下げ、何度も礼を言う。

 颯太は複雑な思いで、その姿を見詰めていた。

 あまりは正直に、何でも颯太に話してくれていた。しかし、肝心なところを濁していたのは、事実。それを知り、傷ついてしまった颯太である。空回りしていく自分が居た。これ以上、家族の振りなんてできないと……。

 大決心の末の、行動だったのに、どうしてこんなにも悩んでしまうのか、自分でも不思議に思う。

 今でも、本当にこれで良かったのか、颯太は正直迷ってしまっているのだ。


 まことの言葉は正論である。


 身を入れて頑張らなければならない。分かっているのだが、どうしても自分を引き寄せてしまうものがある。

 

 暗がりをドブネズミのように、繁華街を渡り歩き、自暴自棄になっていた颯太は、一人の男に拾われていた。

 禾久保のぎくぼは目つきが悪く、見るからに違う世界の住人と分かった。

 だが、その時の颯太に判然させる思考は失せてしまっていた。

 空腹と孤独に喘ぐ颯太にとって、禾久保の存在は絶対的になるまで、そう時間はかからなかった。

 空腹を満たすのみならず、大人とみなし、酒やタバコの味、女に扱い方をしえたのも、禾久保だった。

 知り合ってひと月、颯太は禾久保の使いをするようになっていた。

 簡単な仕事である。

 指定された場所へ赴き、カバンを取り換えてくるのだ。中身など知らない。ただ言われた通り受け取って来た物を、禾久保に渡す。

 それだけの仕事に、禾久保は万札をくれるのだ。その時の気分で、枚数は違っていた。


 そしてその日も同じように、待ち合わせ場所へと向かった颯太は、待つこと三十分。

 一人の男が近づいてきて、いつものように颯太に尋ねてきた。

 「君、ノギさんとこの」

 いつもと変わらない光景だったが、なぜだか違和感を覚えた颯太は、無意識のうちに後退りを始める。

 角から数人の男が現れ、颯太は反射的にカバンを投げつけ、逃げ出す。

 抵抗も虚しく、すぐに取り押さえられてしまった颯太である。

 その時、手錠をかけたのは相馬だった。

 拘留期間を終え迎えに来た天璃は、颯太の頬を打つ。

 温厚で滅多に声を荒げない天璃がだ。

 目には薄ら涙が浮かんでいた。

 

 後から知った話だが、颯太を捕まえた相馬と天璃は知り合いだったらしい。

 颯太が無罪放免で釈放された背景には、証拠品であるバックの中身がからだった。

 おそらく、どこかから情報が漏れ、颯太は囮にされたのだ。 

 居場所を聞かれたが、黙秘を続けた。

 実際、禾久保がどこに居住しているのかを、颯太は知らずにいたのだ。

 連れて行かれたのは、知り合いの女性の店で、そこで働くホステスの部屋で暮らさせてもらっていたのである。

 颯太の初めての相手も、その女性である。

 その日からその女性も禾久保も、街から姿を消している。


 「この子には、俺にも責任がある。更生、頑張ってさせましょう」

 引き取りに来た天璃に、相馬はそう宣言したそうだ。

 その意思表明がいかなるものだったのか、颯太はすぐに思い知らされることになった。

 如何なる場所にも、相馬は現れ、颯太を補導しにやって来る。

 逃げても逃げてもおってくるのだ。

 どうしてそこまで、と腹を立てる颯太を見て、相馬は歯を見せ笑う。

 「これが俺の仕事だからだ」

 にしても、たかが非行少年一人に、ふつうここまでしない。警察は、そこまで暇ではないはず。

 だが、相馬は止めようとはしなかった。

 自分が動けない日は、用意周到に、別の者が配備されていた。

 完敗である。

 非行は止めたものの、それからというもの、颯太は部屋へひきこもるようになっていた。

 現実逃避をしする颯太の前に、やはり相馬は立ちはだかったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ