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第三章 ホントの気持ち02

 「颯ちゃん。コーヒーブレンドで一つだって」

 不審者情報がまだ続いていた。

 一人で留守番をさせるわけにもいかず、また居候させてもらっているのだ。

 家庭科の時間、自分で作ったというエプロンを付けた璃杏が、店内をこまめに動き回る。

 働かせるわけにはいかないと言う柳井に、璃杏は満面の笑みで許しを請う。

 璃杏の笑顔に刃向えない柳井は、昼間の二時間だけ、手伝ってもいい許可を出した。

 「参ったね。美形兄妹のおかげで、店は大繁盛だ」

 キッチンで、てんてこ舞いになっている柳井が、苦笑する。

 住宅街の一角でひっそりと建っているカフェである。

 仲間内で盛り上がれる店。そんなつもりで初めて、もう六年になるが、この忙しさは嘗てなかったことなのだ。 

 やっと客がはけ、一息ついていたところでドアが開く。

 友菜だ。

 颯太に会いに来たと知った、璃杏がもの凄い目で睨む。

 「ここじゃなんだから、どこか別なところへ行って話してこい」

 素直に応じて、出て行く二人の後を追って行こうとする璃杏を、柳井が捕まえる。

 「璃杏、お前は留守番だ」

 「放して、あの女から私颯ちゃん守るんだ」

 「璃杏っ」

 暴れまくる璃杏を抑え込む柳井の顔は、少し、複雑な色を見せていた。


 隣を歩いて行く友菜の様子が気になった。

 「どうかしたのか?」

 「うんまぁね」

 いつもと違って、歯切れの悪い話し方をする友菜。

 「何か、今日のお前、おかしいぞ。なんかあったのか」

 ずっと俯いたまま歩いて行く友菜である。

 駅前までやって来た二人は、ファーストフード店の一角に落ち着いていた。

 「曽根谷?」

 上げられた顔が、どことなく緊張しているように見えた。

 「颯太のこと、呟かれているの知っている?」

 聞かれた颯太は、一拍置いてから頷く。

 「そっか……。でも酷いよね、人の過去とか暴くとか」

 「ちょっと何それ」

 慌てて自分の携帯で検索した颯太は、青ざめる。

 「ごめんなさい。古溝、止められなかった」

 その言葉の意味を、颯太は理解できずに、友菜の顔を見詰める。

 「あいつ、あんたが進路指導室から親と出て来るところ見ちゃったみたいで」

 颯太は愕然となる。

 帰ろうとする颯太たちに、学年主任である川端が、声を掛けてきたことを、颯太は思い返す。

 颯太が新入生代表を断った以来、生徒指導である川端から目をつけられているのは、分かっていた。

 上級生たちに絡まれている時、数名の生徒から訴えが出ているのにもかかわらず、それをもみ消したこともだ。

 この時ばかりと、人としての在り方を解き伏せる川端は、それだけでは物足らず、帰って行く颯太たちを呼び止めていた。

 「乳井室さん、待って。これ、彼の成績表です。あのですね、いくら成績が良くても、社会的ルール―が守られないというのは、どうでしょ? 諄いようですが、そこのところ、きちんとご家庭で指導してください」

 と、嫌味たっぷりに言ってきたのだ。

 「……そっか。じゃあ今までのもあいつが」

 「分からないけど、たぶん」

  言葉を失ってしまった颯太は、黙々と記事に目を通して行く。

 「黒田って子、知っている? その子がね見知らぬやつに、乳井室のこと聞かれたから、全部教えてやったって、友達に話しているの朱里が聞いちゃったらしくって。朱里から連絡しづらいから、私から伝えてくれって頼まれたんだよね」

 すべてが繋がった気がした颯太は、友菜を残し、柳井の店へと戻る。

 これで全部説明が付くのだ。


 怖い顔で帰ってきた颯太を見て、柳井が眉を顰める。


 「柳井さん、俺、璃杏連れて、家へ戻ります。今までありがとうございました」

 「えっと」

 困惑している柳井に目もくれず、簡単に荷物をまとめた颯太が頭を下げる。

 「どういうこと? 何か、あったのか?」

 「俺、晒されちゃったみたいです」

 差し出された啓太画面を覗き込んだ柳井が、目を大きくして顔を上げる。

 「なるほどね。それで、店がこんなに繁盛していたってわけか。それならそれで、俺としてはありがたい話で」

 柳井は言いかけて、そのあとの言葉を飲みこむ。

 璃杏を庇うように抱き寄せる目が、すべてを物語っていた。

 今度こそは、璃杏を巻き込みたくはないという、意思表明をする颯太を、柳井は苦笑で見つめる。

 柳井が、嘆息を吐く。

 「で、学校はどうする気?」

 「辞めます。もともと行く気がなかったし、また騒ぎになるのは面倒なので」

 「と、言うかさ、別に親が芸能人とか、普通に沢山いるわけだしさ、学校名が出されたのは、ちょっときついかもしれないが、分かるのはごく一部の奴らだし、あんまり気にすることないと、俺は思う。騒ぎたい奴には騒がせておけば良いじゃないの」

 「でも、俺の場合は、違うから」

 きっぱり言い切る颯太を見て、柳井は首を竦める。

 「待って。篠原君が学校、辞めることないと、私は思う」

 心配になって、後を追いかけて来た友菜が、ドアの前で叫ぶ。

 颯太は聞く耳を持たずに、璃杏を連れて帰って行く。


 愕然となっている友菜を、険しい顔をした柳井が店の中へと促す。


 それから間もなく記事はすべて削除されたが、颯太の意思は変わらずにいた。

 

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