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プロローグ

テレビとコンピュータは君たちの友達じゃないことを覚えておくんだ。

~中略~

教育を受け、思いやりのある人々だけが、記憶に留める価値があり、愛し続けることができるものを他人に教えることができる。コンピュータとテレビには無理だ。

~中略~

悪い男どもが望むのは君たちの体だけだ。テレビとコンピュータは君の金しか狙わないわけだから、より悪辣だ。人間扱いさえされていない!


カート・ヴォネガット

 高校を卒業し、栄養士の資格を取るため専門学校に入り、2年生になる彩夏は、身長165cmとやや背の高い女で、背の高い女性によくあることだが、比較的長い脚をしていた。モデルのように、矢鱈滅多ら痩せて角材のようになっているわけではなく、太ももから尻にかけてはそれなりの―魅力を損ねない程度に―肉がついていて、しかしふくらはぎは足首に向かって細くなっていた。曲線的な脚線美をもった脚をしていた。上半身は平均的で、肩幅はほんの僅かに平均よりあるようで、そのことが顔を小さく見せていた。顔色の良い顔は丸顔で、鼻は低くかったが、目は二重だった。概して平凡な作りと言えたが、パーツの配置が良く、左右の均整が取れているので、好感の持てる顔だった。


 実入りの良いアルバイトとして、リフレクソロジーと称して、男性と個室で着衣で密着しながら会話をする、特殊な水商売をやっていた。風俗はやりたくないし、キャバクラは酒の飲めない未成年では今一つ儲けが良くない。煙草も嫌いだった。バイト中は何故か制服を着させられていた。客は永遠に失われた青春の幻影を求めてここを訪れる。

 安直に選んだアルバイトで、中には生理的嫌悪感を催すような客もいたが、それでも実入りの良さは確かだった。顔採用のシアトル発喫茶店チェーンで働いて得られるものが、虚栄心を満足させることだけであるのを考えれば、下らないという意味では同じことだった。


 就活に失敗したら、きっと水商売で暮らすのだろうと思っていた。


 タイマーが鳴って、マニュアル通りに最期の客の手を取って出口まで連れて行き、

「またね。」と手を振って見送る。私は待機室で高校時代の制服から私服に着替えて、帰宅する。


 部屋に戻るとスウェットと替えの下着を持って、すぐに風呂場へ向かう。そうやってバイトのあった日は、すぐにシャワーを浴びる。生臭さを洗い流してしまうために。両親も弟もバイトのことはもちろん知らない。弟は高校生だ。三つ下の弟が、バイト仲間の女の子たち―顔だけは確かにかわいい彼女たち―に、あの狭い部屋でハグされているところを想像すると、そうなる前に、兎に角弟には愛情を注いでおこうと思う。弟にはまともで可愛い彼女が出来てほしい。最近、弟の帰りが遅いと聞いて不安だ。


 部屋は若者の一人暮らしとは思えないような、堅実な部屋だった。全然主張のない、廉価性と実用性の塊のような家具、あまり大きくないテレビにプレステ、レポート作成に必要なノートPC、小さな衣類タンス。わずかな本。あえて主張があるとすれば、キッチン用品は多めだった。フライパン大小、ソースパン、深鍋、薬缶、三徳包丁、ペティナイフ、他大小20種類のツール。野菜室のある250リットルの冷蔵庫。


 バイト代の使い道は、冷蔵庫と友達との旅行くらいで、割が良いからとあまり入っていないので、そんなに金はなかった。学校へ行って、週末にバイトして、それ以上に何かしたいと思わなかった。


 お風呂から上がって、部屋に戻ると、机の上に見慣れない白い物体が載っていた。美術の授業でデッサンに使った、牛の骨にも似た、何かの頭骨。牛に似ているが、牛ではなく、額に角がついていたと思わしき穴が開いている。骨に触れて、それがほの温かいのを掌で感じると、私は気を失った。

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