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4章「ノーマネーでフィニッシュです」

「ふーん。この世界は『ハッカン』って言うのか。面白い名前だな。

んで、この国は『アブダ国』ね。

ハッカンはアブダ国も入れていくつぐらい国があるんだ?」


俺は街に向かう途中、ルナからこの世界の国について教えて貰っていた。


「ハッカンは、8つの国で出来てる。アブダ、ニラブダ、アタダ、カカバ、ココバ、ウバラ、ハドマ、そしてマカハドマ帝国」


ルナの話では、この世界は大陸は2つ。八つの国に分かれている。

1年は13ヶ月で1ヶ月は28日。

ここ、アブダ国は気温が低く、夏は短い。


今は春→夏の時期で、かなり暖かいそうだ。


「ついた。ここがアブダで一番小さい街。アゴン」


小さいと言っても、俺から見ればかなり大きい街に感じた。

密集した住居や城壁、見張り塔も見える。

大小様々な建物が、この街の繁栄を表していた。


「やっぱ、あれか。

街に入るのイベントっつったら、門番とかにチェックされたり、ギルドとか行ったりするのか?」


「城じゃないから、門番は居ない。

ギルドは知らない。知らない物は教える事出来ない」


えー。ギルド無いのか?

異世界なのに?

何か違う名前で存在してるかも…


「お尋ね者を見つけたり、外敵から街を護ったりしないのか?」


「街中には警備の兵が居るから問題ない。

モンスターの来襲なら、魔法使いが力を合わせて対処する。

だからこの街は安全」


あれか、俺の世界で言うと、警備の兵は警察みたいなモンだな。

言われてみれば、派出所っぽい建物も見受けられた。


「俺の居た世界と治安システムは似てるな」


「警備の効率を考えれば、システムが似ても不思議じゃない。

人口が多数流動する街で、門番を配置するなんて非効率」


そういう事だよなー。

発展した街を塀で囲ったり、門番を配置して出入りチェックしてたらキリないよな。


「ただ、入出国の場合だけ、検問でチェックを受ける。国内外は別だから」


ここも日本と似てるな。外国に行くときはチェックを受ける。ふむ。

実に似ている。


「しかし、ギルドが無いのは痛いな。金が稼げないぞ。

金が無いと不自由極まりない」


「侘助に質問」


「何かな」


「お金って何?」


「え?」


お金を知らない?

貨幣が無いなんて考えられないのだが…


「ルナ…逆に質問していいか?」


ルナはコクリと頷いた。


「お店から物を譲って欲しい時は、どうしてるんだ?」


「物の価値に見合った魔力を支払えば譲ってくれる。

物々交換も出来るが要相談」


またしても魔力か。


「魔力か…それって、どうやって支払うんだ?」


「実際、買ってみるから見て」


ルナは目の前の店に入る。


「いらっしゃいませー」


服屋か…


「この人に合う服を選んで欲しい。安くていい」


「お、おい。ルナ、俺払えないぞ」


「侘助の今の格好、目立ちすぎる。

服ぐらい私の魔力で買える。気にしないでいい」


えぇー。結構気に入ってるのに。この格好(ツナギ)

しかし異世界で青いツナギは目につくかぁ。


「この服などが宜しいかと」


店員は素早く服を一式揃えると、俺に差し出してきた。

地味だが布が厚く丈夫そうだ。


「お客様の着ていらっしゃる服は、かなり生地がいいようなので交換でも構いませんよ。

決めの細かい生地で丈夫。しかも高価な青色をふんだんに使っていらっしゃる。どこかのご貴族とお見受けしますが」


目ざとい店員は、俺の(ツナギ)に目をつけたらしい。

しかし、ルナがそれを制止する。


「余計な詮索はしないで欲しい。交換はしない。私が払うから問題ない」


成程、俺の着てきたツナギは思いの他、高価な物らしい。


店のカウンターで服を受け取とると、ルナはカウンター横の大きな石に手を置いた。


「これが支払い石。こうやって魔力を送り込むと、石に蓄積される」


石の表面が赤から青く光る。


「はい。結構です。有難うございました」


青くなるまで魔力を送り込めばいい訳だ。

購入する物によって支払う魔力量は自動的に変更される。


あー。これは…この世界での『レジ』だな。

購入に必要な魔力量は、商品に付けられたタグで分かるらしい。


正に、お金=魔力って事だ。

って事は、魔力が無い俺って…今、一文無しじゃねーかよ。オイ。


「魔力量が少ない人が、大容量の魔力を受け渡す時はどうするんだ?」


ルナは、俺が何を考えてるか理解したようだ。


「財魔石に魔力を詰めて(チャージして)、持ち込めばいい。

例え魔力無し(・・・・)でも誰かに魔力を入れて貰えばいい」


チャリンと、鉄製のカードに似た物を見せてくれた。


「これが財魔石」


カードの真ん中に、石が入っている。そこに魔力を込めるらしい。

石を店員に渡せば、必要な魔力だけ店の支払い石に渡せる仕組みだ。


「込められた魔力量で、石の色が変わるから残魔力量もすぐ分かる」


これは…お金…だな。プリペイドカードみたいにチャージ出来るタイプだ。


「個人の魔力の受け渡しも出来るのか?」


「問題ない。財魔石同士で魔力の受け渡しが出来る」


なるほどなー。良く出来てる。

俺は試着室に入ると、購入したばかりの服に着替えた。

袋には青いツナギを大切にしまっておこう。


「うん。似合ってる」


ルナにそう言われると悪い気はしない。

ルナが新しい財魔石(カード)を渡してきた。


「これ渡しておく。10000レイキ込めておいた」


はい。また分からない事が出てきました。


「レイキって、何?」


「魔力の単位。今買った服一式が1000レイキ。かなりお買い得だった」


えーっと。もし某ファションセンターで購入したら2000円ぐらいと考えると、分かりやすいな。10000レイキは、20000円ぐらいと考えておこう。


まぁ、この世界の洋服が高かったりしたら物差しにならないな。

とりあえず、仮の価格として定義しておこう。


とにかく、俺は少女に服とお金を恵んでもらってる状況な訳だ。


なさけないが、どうしようもない。

全くの無一文よりマシだ。

働いて、魔力を財魔石(カード)にチャージして貰って、返すしかないよな。

とりあえず今は、有り難く借りておこう。


「ルナ、ありがとう。すまない。必ず返すからな」


「うん。無駄遣いしちゃダメ」


あれだ。お姉ちゃんにお小遣い貰う弟みたいな言われようだ。


「これで買い物も出来る。少しの間一人で街を見て回るといい」


え。


「私はちょっと済ませたい用事がある。アベリィに頼まれた。

だから少し時間を潰して欲しい」


えー。連れてってくれないのか。

少し不安だが、しょうがない。


「用事が済んだら、財魔石で連絡する」


え。連絡って…これ、携帯みたいな使い方出来るの?

凄くない?チャージ出来て、買い物できて、電話出来るなんて…って、スマホじゃん。


財魔石から声がしたら返事するだけで通話出来るらしい。

コチラから掛ける時は、相手の顔と名前を思い浮かべて財魔石に話し掛けると呼び出せるらしい。

番号いらないなんて凄すぎ。


「侘助は魔力無いから、自分から掛けると財魔石に蓄積された魔力から引き落とされる。掛けない方がいい」


通話の支払いも魔力かよ。


「分かった。掛けないようにする」


「それが懸命。呼び出しは結構高い。無駄に使うと魔力枯渇になる」


そうか。通話料は高いのかー。


「呼び出しに出る分は、魔力いらないのか?」


「うん。いらない。掛ける方の払いになる」


その辺も電話と同じなんだな。

そのうち、価格破壊がおきたりして。


「さて、じゃあ俺はその辺散策してくるわー」


そう言って、俺は街へ繰り出した。


「さー。何するかなぁ」


辺りをキョロキョロしながら、目的も無く彷徨う。

露天売りの店を覗くが、見ても何だか分からない商品ばかりだ。


と、数人の子供達が大きめの建物から飛び出してきた。


「怖かったよぅ」


「どうしよう、夜寝れないよ俺」


「ヒック。ヒック」


泣いてる子も居るぞ。


「おい、どうした?」


思わず声を掛けてしまった。

元の世界なら、子供に声掛けて事案になるな。


「凄い怖い映画を観ちゃって」


「映画やってんのか?」


あるんだ。映画。

胸が高鳴る。

異世界だと精々演劇ぐらいしか楽しめないと思っていたのだが、なかなかどうして侮れんな。


「うん。今日は怖いお話だから観ない方がいいよぉ」


子供達は、キャーキャー言いながら去っていった。


怖い映画…か。大好物だぞ。


「はい。おにーさん。200レイキだよ」


約400円か。や、安いぞ。映画。


俺はドキドキしながら、支払いを済ませ館内へ入った。

さっき終わったばかりで、今はスクリーンに何も映っていない。


俺は、入場時に貰ったチラシに目を通す。

文字ばかりのチラシでよくわからないな。


カランカランカラン。

鐘の音が、上映開始の合図らしい。


映写室が無いのに、スクリーンに映像が浮かぶ。

よく見るとスクリーン自体が発光してるようだ。

まるで有機ELだ。凄いぞ魔法。何でもアリだな。


スクリーンに映し出される映像は、かなり高精細だ。


「がぉー」


え。何これ。

物凄いチープな血糊付けた男が、ど下手くそな演技で、次々に人々に襲いかかる。

おゆうぎかな?


なのに、会場は絶叫の渦だった。

恐怖で失神する者まで出る始末。

どうやらこれでも、衝撃的な恐怖映画らしい。


俺には違う意味で衝撃的だったがな。


ストーリーは単純で墓場から蘇った死体が、人々を襲う。

まぁ、ゾンビ映画みたいなモノだ。

直接噛み付いてるシーン等は映されないので、ゾンビが女にモゾモゾしてる風にしか見えない。


最後は美しい真珠の魔女様が呪文を唱えると、簡単な特撮で死体はパッと消えた。


いやいやいや。これ…金返せっ…いや、魔力返せってレベルだぞ。おい。


これのドコが怖いのか…分からないなぁ。

まぁ、感受性の違いが有るって事だな。こりゃ。


折角、異世界ホラームービーを堪能しようと思ったのに。

つまらない時間を過ごしてしまったな。


さて、次は何するかな。


表通りは飽きたし、ちょっと路地でも歩いてみるか。

思わぬアンダーグラウンド発見したりして。

美味しい食べ物とか見つかるといいなぁ。


俺は、人気の少ない裏路地を歩いてみた。

どの店も閉まってるようだ。看板の絵は…酒とか、女の絵ばかりだ。

酒場や色街って感じかな。


まだ日が出てるし、どの店も開いていない。


と、そこにガラの悪い男達が声を掛けてきた。

数は3人。


「おい。兄さん。

この辺はまだ営業してねぇぞ。こんな時間じゃ楽しめないぜ。

それよりどうだ、俺達と遊ぼうぜ」


アーーーッ!!


遊ぶって何を?

あれか、アレのお誘いなのか?


ヤベぇ。

ここはクールに装って、この場から離れなければ。


「いや、この街初めてでね、道分からなくて迷い込んだだけだ」


俺は適当な事を言って、回れ右して来た道を戻ろうとすると…。


「ノリの悪いヤツだな。まぁいい。

おぃ。道案内してやるから、少し魔力を寄付してくんねぇかなぁ」


これは…そっちの遊ぶじゃなくて、暴力的な遊ぶって意味か。

タカリか恐喝狙ってんな。

クールクールクール。ここはクールに。


「いや。結構だ。連れを待たせてるんでね。早々に立ち去るよ」


COOLCOOLCOOOL!!

どうだ、全然ビビってる風に見えないだろう。ふふん。


「何かスカした兄ちゃんだなぁ。道案内がいらないなら通行料払っていけよ。持ってる魔力全部でいいぜ」


通行料ですって。奥さん。

この手の人達、どの世界でも居るんだなぁ。


「さーて。充分震え上がっただろうから、ここらで実力行使させて貰うぜ」


男はゴニョゴョと呪文を唱えた。

俺の足元に魔法陣が現れる。


「くくく。全身が熱くなってきただろ。高熱の魔法さ。

すぐには燃やさねぇよ。ジックリ温度上げて、蒸し焼きにしてやんよ」


お、お料理かな。


男は口角が上がり、嫌らしい笑みを浮かべた。

完全に勝者の顔だ。


しかし…俺は…


「済まない。全く熱くないんだが…」


全然熱くないー。

思わず、笑ってしまう。


「え。そんな馬鹿な。ひ、ひぃっ。コイツ、笑ってやがる。

お、お前ら魔力貸せっ。コイツはヤバいぞ!!」


「うぉぉぉぉぉ」


「3人掛かりの最高出力だ。すぐに消し炭にしてやんよッ」


「ぐぁぁぁぁー」


周りの男達も変な雄叫びを上げる。

しかし、やはり熱さは何も感じない。


足元の魔法陣が、強く光ってるぐらいしか変化を感じない。

夜だったら綺麗かもなー。ふふふ。

と、ここでまた思わず笑ってしまう。


「ひぃぃぃぃ。ま、まだ笑ってやがる。ありえんっ!!」


「バハラの呪文だぞ、効かない筈ないだろ。弾いてるようには…見えない…」


「魔法陣が展開してるんだぞ、効いてない訳ないだろッ」


効いてまてぇーん。てへ。


魔法が効かないってのは本当みたいだなぁ。

異世界から来たから魔法効きませんー。なーんて言っても信じ無さそうだしな。


大体、この手の奴らは、人の話をちゃんと聞かないタイプなんだよな。

どうする?


適当なジョークでも飛ばして、此の場を和ましてやるか。


「おい。お前ら。幽霊に魔法掛けたって効かねぇんだよ」


一瞬の間。


俺は冗談のつもりだった。


「ぎゃぉぉぉぉをををぁぅぁっ」


1人の男が失禁してその場にへたり込んだ。


残った男達も絶叫しながら、走り去っていた。

よく見ると失禁した男は意識を失っていた。

失神ってやつですな。


何だよ。何が起こったんだよ。


パチパチパチ。


パチパチと拍手の音。

その音の先にはルナが居た。


「あんな怖い事言われたら、普通の人は恐怖で戦意喪失する。

侘助の事知ってる私も、一瞬怖かった」


よく見ると、ルナの手が震えている。


「何が?え?

何が怖かったんだよ」


「魔法効かない。しかも本人が幽霊を名乗った。そんなの怖すぎる。

こんな効果的な脅しをすぐに思いつくなんて…侘助は策士だ」


あー。さっきの映画といい、この世界の人って…もしかして極端な怖がりなのか?


「まぁ、無事に帰れるって事で、そんなに気にするな」


「ヤツ等が使った呪文はバハラの呪文。低レベルの魔法使いでも比較的使いやすい魔法。

一気に体が高熱になって、場合によっては死んでしまう」


ルナの魔法解説から想像すると、体の水分を振動させて温度を上昇させる…つまり電子レンジって訳だ。


「あの魔法は低レベルだから、中級魔法使いなら掛けられてもキャンセル出来る」


ルナの言葉に疑問が湧く。

キャンセル出来るなら、何であんなに焦ってたんだろう。


「侘助の場合は足元に魔法陣が展開してた。キャンセルしたなら魔法陣は展開しない。

つまり魔法が掛かってるのに、侘助は平然としてた。これはありえない」


「なるほどなー」


そこで俺の幽霊発言か。

信じちゃったんだろうなぁー。可愛そうなことをした。


まぁ、退屈しないで済んだし、良しとしよう。

それにしても、ちょっと疲れたな。


「わかった。そろそろ帰ろう。アベリィが待ってる」


ちぇっ。折角『財魔石通話』出来ると思って楽しみにしてたのになぁ。


俺とルナは帰路についた。

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