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「ちわぁーす――あれ、鞘歌先輩だけ?」
「オー朱輝君~夢ちゃんはちょぃとロボットアニメのイベントに往ってしもうておらへん」
彼の頭の中ではイベントでキャッキャと喜んで楽しんでいる姿が容易に浮かぶ。
今度来た時にはお土産などを持ってきてくれるのだろう。
「薺ちゃんは肉まんの大食い大会があるってことで目をキラキラさせて休む言う届け出したら速攻で往ってしもうたわ」
肉まんには目がない薺の事だから本当にキラキラしていたように見えていたのだろう。
そしてその大食いしたものはすべてどこへ行くのだろうか。
それはもしや自分の体にある肉まんなのだろうか……
「阿利洒ちゃんは補習やって」
特に驚くこともない。
阿利洒は部活をまとめる力はあるのに勉強ができない。
なんか勉強に興味がわかないらしい。
頭はいいのにバカな人なのである。
「んで、鞘歌先輩は?」
「特になんもないからここでの―んびりしとる。家におると親がうるさいからなぁ~」
「親かぁ~うち、親が海外赴任で両方往っちゃっていないんですよねぇ~」
「へ~煩くなくてええけど何かと不便やろ?」
「レシピ通りに作れば料理もできますし、掃除も軽くする感じでやってますよ」
「ほぉぅ」
意外そうな顔をしてズイッと彼を彼女は見上げる。
じっと見るその顔に彼は顔を赤らめた。
それを見ると彼女はクスッと笑う。
彼は顔をブンブン振りながら椅子に座る。
「すごくもなんもないすよ!」
「ほほぉ~う。いってくれんなぁ~。見た目に反して繊細なこと」
「せっ、繊細なんかじゃないっすよ! おれはしっかり心は強いです!」
「それはそれは……」
すると彼女は机の下に潜る。
彼が不思議に思うと……
「こんなことされても負けん鋼の心もっとんかぁ!」
「えわぁおわぁいえあっ!?」
彼女は彼の下からずるりと入ってくる。
そして彼の膝の上にポンッと座る。
ニヒっと笑いながら手に持っていた本を読み始める。
「な、何をさ、されておるるんですかやっ!?」
「アッハッハハ。うろたえんでええやん? ただ、膝の上に座って本読んどるだけやん?」
なにも気にしていないように彼女は本を読み始める。
彼は顔を赤らめながら頭を押さえる。
ペラペラとページをめくりながら見ている漫画の内容が目に入る。
(べ、ベットシーン!? 読んでる本は全年齢向けの本――だよな? 何でベットシーンが存在しているんだ!?)
鞘歌が呼んでいる本は全年齢が読めるようなところで販売されている女性向けの漫画である。
最近……昔からあるのかもしれないが、過激な内容が描かれているものもあるのである。
彼はそんなものを見ることに耐性が全くなかったため、さらに興奮して顔を赤らめる。
「おや? おやおや? 何か感じんやけどなぁ~下から――」
「だらっしやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!」
その叫びとともに鞘歌の下から感じた何かが消えていく。
すると鞘歌はするりと机の下へと消えていき、初めにいた椅子に戻る。
そしてニヤリと笑った。
「ハッハー! 確かに強い強い!」
「ムググ――分かってもらえれば結構ですっ!」
「あいあい」
大人が子供にたしなめられるような状況に少しムラムラとした感覚を覚えながら彼は鞄からプリントを取り出す
「お? 宿題か?」
「おれは阿利洒じゃないんで……」
「君は部長には容赦ないなぁ~」
「小さい頃って言っても一緒に遊んだ期間は長かったですしね……」
そう言いながら彼は筆箱を取り出し、そこからシャープペンを出し宿題を始めた。