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舞台の背景が海にかわり船の絵がぐらぐらと動きながら進んでいく。
絵の上にいた桃太郎達が数度海に落ちてしまってはいたが舞台裏の面々は特に気がつかづに進んで行く。
そして鬼が島に到着すると船の絵が消え、おぞましい陸地になる。
「鬼が島に到着した桃太郎は船を浜辺の石にくくりつけ、鬼がいるであろう城の前までやってきました」
そう言うとバッと大きな鬼の顔をもしたような城の絵が出される。
「『太郎さん。私が中に入って鍵を開けてきましょう』そう言って猿が壁をよじ登り、中に入り小門の鍵をあけてくれました。桃太郎はそこから中に入り、総大将がいる部屋を探しました」
場内の絵に背景が変わると幼稚園児達はワクワクドキドキとした顔になる。
「『桃太郎さん! ここから少し違う鬼の臭いがします!』犬にそう言われた桃太郎はそっと部屋の中をのぞきます。すると中には総大将と書かれた大きな紙が壁に貼ってあり、その前の机に偉そうに座っている鬼がいました。桃太郎は確信してその部屋に入りました」
舞台の背景の絵がめくれ、部屋の中へと入り鬼の人形が現れる。
「『鬼の総大将! 私がお前を成敗する!』桃太郎がそう言うと、鬼は驚いたように『貴様は太郎か! 始末したはずだったのに!』と言いました。桃太郎は首をかしげましたが鬼に攻撃を仕掛けました。無論鬼も応戦してきましたが、犬・猿・雉の協力もあって桃太郎が有利でした。鬼は気づつけられた胸を押さえながら下がりました。『化の昔われら鬼を痛めつけた桃太郎の子孫――やはりこうなるのか』桃太郎はそれを聞いて驚きました。どういうことなのかと。鬼は語りました。昔同じように村々を襲っていた時、同じように宝を取り返しに来た桃太郎によって退治され、その後は苦しい生活を強いられていたことを。そのための復讐として子孫を亡くならせたうえで再び宝を奪いに行こうとしたことを。桃太郎は驚きました。その時にカメが犠牲になったことも聞きました。桃太郎は貧困な生活を強いられたことにはかわいそうだと思いましたが人を襲うことは許せませんでした。とどめを刺そうとしたとき鬼は壁を押しました。すると鬼は突然できた穴に落ちていき姿がなくなってしまいました。すると突然城が揺れ始めました。桃太郎は記事の助けをかり、白から滑空して脱出しました。すると壊れた城の中から大量の鬼のロボットが現れました」
六体の鬼のロボが現れる。
幼稚園児達はザワザワとし始める。
「それを見た桃太郎は驚き離れるように走りますがロボットは逃がしてくれません。もはやダメかと思った時、犬・猿・雉が前に立ちました。『実は我々はあなたと共に戦ったお伴の子孫です』『我々はあなたを守るために力を持っています』と言うとそれぞれが光だし、止めていた船も光だし桃太郎の頭上へと現れました。すると犬・猿・雉は巨大化し機械的な姿となりました」
そうナレーションが入ると巨大化して機械化した3匹の絵が背景に現れる。
「そして船の中に桃太郎が取り込まれるとそれらは一つに合体していきました――と」
そう言うと黒子の朱輝は部隊の方に移動し、舞台裏から黒子のかぶり物だけかぶった鞘歌が出てくる。
そして彼の代わりにナレーションを始める。
「えーっとやな――合体した犬・猿・雉・船が一つになり、大きなロボットになったんや。んで、桃太郎はそれを自分のからだのように動かしてバッタバッタと鬼を撃退していって、すべて倒すことに成功したんや」
巨大な人形が小さな人形をバッタバッタと舞台裏に落としていくと、男の幼稚園児達がワァワァと叫び喜び始める。
「戦いはあっけのぉ終わった。だから桃太郎は盗まれた宝と食料を持って帰ろう思ったんや。けどな持っていこうとしたら小さな鬼が石を投げてきたんや。桃太郎はそれを見て何となく鬼がこんなことをした理由が分かったんや。少し申し訳ないところがあるけど全部持って帰ったんや」
そして場面はおじいさんたちの家に変わり、ロボットの人形も下げられ桃太郎の人形、犬・猿・雉の人形に戻る。
そして再び鞘歌と彼が入れ替わる。
「盗まれた宝や食料は街の人たちに返されました。おじいさんおばあさんも大喜びでした。ですが桃太郎の心の中にはもやもやが残ったままでした。この物語はここで終わりますが、なぜ桃太郎がこんな気持ちなのかを理解してくれるように成長することを我々は願っています」
そう言うと人形劇は終わり、舞台に幕が下がり見えなくなる。
そして先生方の拍手から幼稚園児達の拍手へと続いた。
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「いやー結構真面目な話やったね!」
「ふっふーん。子供に分かりやすくいろいろなことを教えられるように作ったのよ!」
「今時の子は進んでるって言うけど分かってもらえたのでしょうかね?」
体育館に設置されている小さな個室で今日の人形劇について談笑を始めていた。
夢は威張り散らしたように高笑いをしている。
「子供向けにしようとしていろいろ失敗かなって思ったところもあったんですけど――」
「子供向けのためにロボットを出したりしたんでしょ! 戦隊みたいなものよ!」
「まぁ、確かに……」
すごい説得力を感じたので朱輝はおずおずと引き下がる。
「朱輝は背が大きいのに弱すぎですよ。もっと言い返さないんですか!」
「いや、説得力があるしね……」
「説得力ですか。わたしにもあるですかねぇ~」
そう言いながらパクパクと肉まんをほおばる。
「まぁ、あたしのお話のおかげで今回は成功したのよ!」
「はいはい。結局は桃太郎ってものがあったからできた作品ですよ」
「とにもかくにもこれで依頼達成やね!」
「初代部長に文句を言われずに済みますよ……」
阿利洒はほっと一息ついた。
それを見て彼はクスッと笑った。