02 焼きそばと黄色い花
10時半に家を出て、ちょうどお昼くらいに最初の目的地に到着しました。
2つ目の目的地と合わせてぶらぶらし、3時くらいに帰ってきました。
B級グルメはツーリングの定番です!
なにしろ、お財布に優しいですからね(^^)
2月の良く晴れた休日。
10時過ぎからぽっかりと予定が空いてしまった。
妻と子供達は、人気アニメのイベントに行くと言って先ほど出掛けていった。
自宅には私1人だ。
時計に目をやり、窓の外の空を見上げてから、ジャケットとヘルメットを手にとった。
まだ間に合う。
昼食を食べに出るつもりでちょっと出かけよう。
私は駐輪場からバイクを引っ張り出し、跨ってエンジンをかけた。
軽く暖機運転をしてから自宅を出発する。
15分後には埼玉県道371号線を西に向かって走っていた。
県営権現堂公園の桜堤の前を通る。
シーズンになれば淡いピンク色が目にまぶしい景色となるのだが、今はまだ枝だけの桜が寂しそうな佇まいだ。
歩道にいくつも立てられた水仙まつりののぼりが目に入る。
信号待ちの車道から、桜の足元に植えられた水仙の花が見えた。
水仙の小さな白い花もキレイだったが、今日はそのまま通過して国道4号線に出る。
進路を北へ。
車通りの多い4号線の流れの中を走り、利根川橋を渡って茨城県古河市へ入る。
橋を渡り終えた先の分岐で左にウィンカーを出し、4号線を離れた。
畑と店舗が交互に並ぶ景色の中を、北に向かって進む。
古河市総合公園の前を通過し、国道354号線との交差点に出た。
左ウィンカーを点灯させてバイクを館林方面に向け、直後の信号で今度は右にウィンカーを出して渡良瀬遊水地の方向に進路をとりなおす。
直進方向も国道354号線のバイパスで、結局は同じ場所に出るのだが、渡良瀬川を渡ってからも遊水地の横を走る本線の方が私は好きだ。
しばらく進むと渡良瀬川にかかった橋を渡り、遊水地の脇を進む道は国道354号線から県道9号線に変わる。
私は道路のアップダウンの度に遊水地の土手の向こうに顔を覗かせる、谷中湖の広い水面を横目にバイクを走らせる。
この道はバイクも多い。
道の駅きたかわべの駐車場にはたくさんのバイクが停まっているのをよく見かける。
今日は休憩にはまだ早いので、そのまま通過して先を目指す。
信号の分岐で道路標示が県道9号線から11号線に変わり、今度は遊水地に流れ込む前の渡良瀬川を渡る橋を通過した。
道路脇の案内表示がいつの間にか栃木市に変わっている。
この辺りは県境が入り組んでいて、走っている間に表示が茨城県から埼玉県にかわり、群馬県を通って栃木県になる。
この栃木県栃木市も平成に入ってからの市町村合併で随分と広くなった。
渡良瀬遊水地の脇を走っていた辺りは旧藤岡町、遊水地を離れて景色に山が見え始めると旧岩舟町に入り、県道の左手の山の斜面にブドウ畑が見える頃には旧大平町だ。
道路案内の表示にかつての地名が入っていなかったら、全て栃木市になってしまい迷子になる。
道路が、片側2車線の整備が行き届いた道に変わる。
車の流れも速い。
私はバイクの速度を周囲の流れに合わせて加速させた。
大型バイクが後方から加速してきて、気持ち良さそうな音と共に追い抜いていく。
今日は風も少なく、よく晴れて絶好のバイク日和だ。
車線の増えた道路を気分良く走って行くと、県道11号線は309号線に変わり、太平山への入り口の前を通過する。
さらにしばらく走っていくと左手に目的の赤い看板が見えてきた。
『じゃがいも入り焼きそば 380円』
ウィンカーを出し、バイクを駐車場に入れる。
栃木県のB級グルメとして聞いたことがある方もいるだろう。
文字通り、蒸かしたジャガイモが入っている焼きそばだ。
店の名前は『大豆生田商店』。
同じようにバイクでツーリングを楽しんでいる方から教えてもらった。
バイクを停め、ヘルメットを脱いで入り口のガラス扉を押す。
「いらっしゃーい」
と、お母さんと呼びたくなるような感じの女性が、元気な声で迎えてくれた。
メニューは『じゃがいも入り焼きそば』の並と大盛り、『じゃがいも入り焼きそばのイカ入り』の並と大盛り、それと『イモフライ』というシンプルなもの。
私はイモフライとじゃがいも入り焼きそばの並盛りを注文した。
イモフライはしょっぱいソースと甘酸っぱいソースの2種類があるとのことで、甘酸っぱいソースをお願いする。
お茶を飲みながらしばらく待つと、まずはイモフライが運ばれてきた。
なかなか大きい。
一つ一つが温泉まんじゅうくらいの大きさがある。
早速、噛り付く。
サックリとした歯ごたえとソースの味が口の中に広がった。
甘酸っぱいソースというだけあって、しょっぱさと酸味の他にフルーツのような甘味がある。
イモフライを半分ほど食べたところで、メインの焼きそばがテーブルに置かれた。
この焼きそば、具はジャガイモとキャベツのみだが、やはりソースがしょっぱいだけではなく、甘味もあってフルーティーだ。ホクホクとしたじゃがいももソースとよく合う。
腹もちも良さそうだ。
あっという間に2つの料理をたいらげ、「ごちそうさまでした」と会計を済ませると、金額はなんと合計で460円。500円玉でお釣りがきてしまった。
味はもちろん、財布にも優しいのは実にありがたい。
私は口の中でソース味の余韻を楽しみながら店を出、ヘルメットをかぶり、バイクに跨った。
県道11号線をさらに北上する。
北に進むにつれてそれまでよりも交通量が増えた。
道路案内に緑色の標識が現れる。
栃木IC。
私もそちらに向かって交差点を左折した。
こちらの道路も片側2車線の真っ直ぐな広い道だ。
しばらく走ると東北自動車道栃木IC入口と案内が出てくるが、高速道路には入らず、そのまま県道32号線を直進する。
国道293号線との交差点を通り過ぎ、道路は山と田んぼの間を延びていく。
この道路は、私が20代だった頃は293号線との交差点までで一度国道に合流し、500mほど南西に進んでからまた右折して県道が延びていた。
国道を渡って真っ直ぐに進める新道はまだ出来てから10年程度しか経っていない。
国道との交差点からこの先の星野地区までは比較的新しい道路なのだが、大型車両が通るせいか、路面状況はあまり良くない。
轍にタイヤをとられないように注意しながら進んでいく。
10分もかからず、左手の田んぼの向こう、山裾を縁取るように黄色い花が咲いている景色に出会った。
『四季の森 星野』という看板が出ていて、『蝋梅の小径』という表示も見える。
地元の方らしい老人が反対車線の路肩に立っていて、車を駐車スペースに案内していた。
私もそちらにバイクを入れてヘルメットを脱ぐ。
ここは蝋梅と福寿草の群生が見られるということで、思ったよりも訪れる見物客が多かった。
蝋梅の下を歩く。
日陰にはところどころ雪が残っていて、危なく凍ったところに足を滑らせて転びそうになった。
足元に注意しながらカメラを取り出し、黄色い花を下からファインダーにおさめる。
太陽がカメラを向けた枝の先にあって、花弁を通して陽が透ける。
黄色がいっそう鮮やかだ。
歩きながら何枚か写真を撮り、ブーツの底についた土を落としてからバイクのそばに戻った。
時計を見ると午後1時30分。
まだ時間は早いが、あまりのんびりしている訳にもいかない。
なにしろ、妻や子供達には何も言わないで出てきている。
今から帰れば3時くらいには家に帰り着けるだろう。
私はヘルメットをかぶり、エンジンをかけて、サイドスタンドを解除した。
ヘルメットの中はソースの香りに変わって、蝋梅の甘い春の香りがする。
春が少し近づいた気がした。
来た時と同じ道を走り、2時間かからずに自宅に着いた。
駐輪場にバイクを入れた時点での走行距離は約120km。
妻と子供達はまだ帰ってきていない。
がらんと静かな自宅の玄関でヘルメットを抱えながら、ソース味の余韻と、ゆっくりと近づいてくる春を改めて感じた。
黄色い蝋梅の花の香りが、まだ鼻孔の奥に残っている。
妻と子供達が出かけて帰ってくるまでに全てを済ませた完全犯罪(?)です。
何もなかったかのごとく、家族におかえり~と言ってあげました。