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問題発生!

馬車に揺られて何分経過しただろうか。

俺はフィアナにこの世界について様々なことを教えてもらった。

この世界には大きく分けて二つの大陸があり、今俺たちがいるガリア、もう一方の大陸をブリタニアと呼んでいるそうだ。ガリア大陸にはユリウスという人間のような種族が国を築いており、ブリタニア大陸ではエルフと呼ばれる種族が国を築いているらしい。

なんでも、この二種族は大昔から幾度と魔法による戦争を繰り返し、領土権を争っているとか。

つい何十年に二間で平和協定が結ばれ、未だに関係は宜しくないものの一応は仲良くしているという。


そして一番気になっていた魔法についてだが、この世界では生まれた時から人によって体内に蓄積できる魔力というものが決まっておりそれを消費して魔法を使っている。魔法には様々な種類があり、勉強すれば攻撃から回復、召喚魔法まで放てるようになるんだとか。


もちろん俺のいた世界の話もしたがフィアナは目を丸くしていた。なんでもこの世界では魔力を持たない種族を奴隷とし、魔力を持っている種族がそれを扱うという決まりらしい。

要するに俺はこの世界では奴隷と同じ身分だということだ。


まさか自分が奴隷同然の身分だとは・・・。頭痛が痛い・・・


「お嬢様、もう街に到着いたしますわ」


馬車を操っていたロランの声が聞こえてきた。


「タケル、あれが第二王国ジオだ」


馬車から顔を覗かせると、天に届かんばかりの城壁がその姿を現した。大きな城門が開いており、人々が吸い込まれるように出入りしているのが見える。

隣の道には馬車と並走して、見たこともないぐらい大きなトカゲが荷物を引っ張っている。一体これはなんという生物なのだろうか。スター〇ォーズで見たような気がしたがあれはCGだ。今、目の前にいるのは紛れもなく本物の生物だ。


俺は本当に異世界に来てしまったのだ


「うおーーーーーーーーーーーーーー!!!」


不安と興奮に耐えられず、雄叫びをあげてしまった。突然の事だったので一緒に景色を眺めていたフィアナが華奢な体をビクンと震わせた。

・・・少し調子に乗りすぎてしまった。やばい奴だと思われていなければいいのだが。


(やっぱりさっき殴ったときにおかしくなったのかな・・・?)

(・・・マジでイカれた野郎ですわ。お嬢様さえお許しになれば即消し炭にしてやりますわ)


馬車を停留所のようなところに預け、馬車を降りた。再びフィアナが馬に手をかざすと、見る見るうちに馬は小さくなり消えてしまった。

改めて近くで城壁を見るがとんでもない高さだ。どうやって築き上げたのかが気になって仕方がない。やはり魔法の力で建造しているのだろうか。


「す、すごい!!」


巨大な城門を抜けると綺麗に舗装された大通りが姿を現した。その両サイドには赤や黄色に彩られた煉瓦で造られた建物でひしめき合っていた。


「はぐれないようについて来て」


先導するフィアナとロランについていくが、ついいろんなところに目が行ってしまう。

道行く様々な種族の人達、服装もそれぞれが鎧兜であったり、背中に巨大な剣をしょっていたり、ローブを身に着けている。まるでファンタジー映画の中に入ったような、そんな景観だった。

俺はフィアナから手渡されたローブを普段着の上に着用していたため、割と空気に溶け込めていたが、もしローブが無かったらとんでもなく目立っていただろう。

見るものすべてが新しく、美しい。化学者としての血が騒いでしょうがない。先までの不安は遥か彼方へ飛んでしまった。


「とりあえずここに寄ろう」


フィアナが足を止め、メイン通りの一角にある巨大な建物の中へ入っていく。俺も後に続き中へと足を踏み入れた。

中は吹き抜けのようにできており、椅子やテーブルがセットになって置かれていた。ウエイトレスがせっせと飲み物や食べ物を運んでいる。西部劇なんかに出てくる酒場のような雰囲気だ。


「いらっしゃい!三名様でよろしいですか?」


猫耳をつけた女ウエイトレスが俺たちを空いている席に案内してくれた。

スカートの中から尻尾が垂れ下がっている。・・・となるとあの耳はつけ物ではないらしい。


「ごゆっくりどうぞ!」


辺りをきょろきょろと見回す俺を見てフィアナはくすりと笑った。


「本当に別の世界から来たんだな」

「どんな野蛮な世界から来たのか是非お聞きしたですわね」


ロランが皮肉を言っているが今の俺にはそんなことにつっかかるような気分ではない。とにかく探検してみたい気持ちでいっぱいいっぱいだった。


「感動している時に悪いけど本題に入ろう」


フィアナの発言で俺は我に返った。そうだった、俺はただ見学をしにここまで来たわけじゃない。これからの人生が掛かっているのだ。

この世界での市民権を早く得なければ今の俺は不法入国者と変わらない。


「もし市民権を持ってなかったらどうなるのか是非教えてほしいんだけど・・・」

「・・・もし何かの犯罪を犯して衛兵に捕まった場合、一発で死刑になりますわ」

「犯罪をしていなくてもバレたら漂流刑だな」


今俺の置かれている立場は想像以上にヤバかったらしい。漂流刑というと島流しみたいなものだろうか・・・。

どっちにしろ市民権を持っていないのが誰かにバレたらアウトだ。辺りを見回すが、俺たちの話を聞いてそうな人物はいなかった。


「ぐ、具体的に俺はどうすればいいんだ?」

「何もするな」


余りに簡潔な回答に驚いたが、実際その通りだ。要は目立たなければいい。学生時代からヤンキーの暴走、友達の万引き等々の厄介ごとを避けるのが上手かった俺にとっては簡単なことだ。こんな時に今までの経験が生かされるとは・・・。人生とはわからないものだ。

とにかくフィアナ達が何とかしてくれるまで息を潜めていよう。

まさかこんな少女に自分の運命を委ねる日が来るとは思ってもいなかった。

しかし、幼い見た目とは裏腹に凄まじい行動力だ。口調も大人っぽいし、お付きのメイドもいるし、ひょっとしたら凄い子なのかもしれない。


「とりあえず私が政府に問い合わせてみる」

「そんな!お嬢様、ここは私に任せて下さいませ!」


さすがメイドだ。忠誠心に富んでいる。


「いや、私が行こう。そっちの方が話が早い。それにタケルの場合は少し訳が違うからな」

「お役に立てず申し訳ございません・・・」


ロランは悲しそうな表情をした。だがフィアナは政府になんと言うつもりなのだろうか。突然人が湧き出て、そいつを研究したいので市民権をください。なんて理由がお役所に通じるわけがない。


「そうだ、ロランにはタケルを見ててもらおう」

「・・・お嬢様がそうおっしゃるなら」


なんで嫌そうな顔をするんだ!このメイドはどれだけ俺のことが嫌いなんだ!


「ロラン、頼んだぞ。ひょっとしたらタケルには凄い価値があるのかもしれない」


そう言い残し、フィアナは酒場から出ていった。


「お嬢様はああおっしゃっていましたけど、この変態にそんな価値があるとはおもえませんわ」


やっぱり全裸登場を根に持っていたのか!確かに人の家に全裸で倒れていたら警戒するよな・・・。やはりそう考えるとフィアナの冷静さは凄い。

ここは社会人として何とか場を和まさなければ・・・。話せばきっとわかってくれるはずだ!


「いやー・・・ホントにまいっちゃうなぁー。俺、天然記念物並に価値があったりして、あはは・・・。」


・・・やらかしてしまった!!

そう言えば俺、向こうの世界でも人付き合いが苦手だったんだ・・・。すっかり忘れていた。


「・・・喧嘩売ってますの?価値が無いとわかったら即ぶっ殺しますから」


ギロリとロランが睨む。なんという凄みだ、到底女とは思えない。俺は死にたくない。とにかく黙っておくことにした。


・・・この時、俺たちの話に聞き耳を立てている人物がいたとは思いもしなかった。


何分経っただろうか。周りのテーブルでは楽しそうな話し声や笑い声が飛び交っている。

俺たちのテーブルは相変わらず沈黙が続いていた。この静けさ・・・叔父の葬式以来だ。

ロランは目を瞑り完全に自分の世界に入っている。時々ニヤリと笑みを浮かべるが、恐ろしいほど不気味だ。一体このメイドは何を考えているのだろうか・・・。

どっちにしろ、とても話かけられる雰囲気ではなかった。

馬車に乗っていた時より時間が流れるのが遅い気がする。


ガタン!


突然ロランが椅子から立ち上がった。


「ど、どうしたの!?」


思わず声を上げる。何かあったのだろうか。


「・・・お手洗いですわ。一々聞かないでくださる?それと、絶対動かないでくださるかしら!」


何だトイレか・・・。心配して損した。ホッと胸を撫で下ろす。俺に強く念を押してロランが店の奥へと消えていった。

緊張をほぐすため、椅子から立ち上がり大きく背伸びをする。


「あの!」

「うわっ!何だいきなり!?」


突如見知らぬ少女に話しかけられた。猫耳が頭についているがここのウエイトレスではなさそうだ。

息を切らし、酷く狼狽した様子だった。


「あたしのパパが倒れたの!!お願い助けて!!」

「いや、でも・・・」


ロランが帰ってくるのを待とうとしたが、猫耳少女はその体格に見合わない力で俺を無理やり引っ張った。


「このままじゃ死んじゃうよ!」

「ちょ!ちょっと待って!!」


そのまま少女に引っ張られ店の外へと連れ出されてしまった。腕を捕まれ、ずんずん連れていかれる。少女の手を放そうとするが鋭い鍵爪が腕に食い込み、不可能だった。ロランに殺される・・・


「ちょっと!君のお父さんってどこにいるの!?」

「すぐそこだよ!」


ようやく猫耳の少女が手を放してくれたのは建物と建物の間の薄暗い裏路地に着いてからだった。


「はぁ・・・はぁ・・・お父さんは?」

「いないよ」

「・・・へ?」


考えるのもつかの間、俺の後頭部に凄まじい衝撃が走った。雷に打たれたかのような衝撃。

俺は力なくその場に倒れると、そのまま意識を失ってしまった。



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