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ゲンと源太(改訂版)  作者: 麗 未生(うるう みお)
別離
6/20

別離①

  二.別 離


 ゲンが来てから、半年という月日が流れていた。ゲンはいつでもどこでも源太と行動を共にし、片時も離れることはなかった。源太もまた、ゲンが来てからというもの、土間に寝床を移し、ゲンと並んで眠るようになっていた。


 母親はそんな二人の姿を見て、冗談めかして「源太をゲンに取られちゃったわ」と口にするが、その声音には半分ほどは本音が混じっていた。ゲンが来るまでは、源太はいつも母親の傍らに眠っていたからだ。


 ある日のこと。源太は、ふと父親の言葉を思い出して、母親に尋ねた。


「おっ母、下の部落で狼を飼っていた人に何があったの?」

「ああ、その話ね……」


母親は少し顔を曇らせ、声を落として語り始めた。


「随分前のことなのだけれどね。狩りに行った部落の者が、祠の中で狼の子供たちを見つけて、その中の一匹を持ち帰ってしまったのよ。ちょうど飼っていた狩猟犬を失ったばかりだったから、その子狼を新しい狩猟犬にしようと思ったらしいの」

「家族がいたのに連れて帰ってきちゃったの?」

「その年は天候のひどい日が続いて、山も荒れていたのね。もしかしたら母狼は死んでしまっていたのかもしれないわ。ただ、周辺に狼たちの足跡はあったそうだから、子供達を置いてエサでも探しに出てんじゃないかしら」

「それでどうなったの?」

「飼い始めて一週間ほど経った頃、狼の群れがその家を襲ったの。子を取り返しに来たのね。その家には、生まれたばかりの赤ん坊がいたのだけれど……その赤ん坊は狼に噛み殺されてしまったのよ」

「そんな……!」


源太は息を呑んだ。


「それ以来ね、狼の子を人が持ち帰ってはならない、と言われるようになったの。だからおっ父は反対したのよ。もし仲間がやってきたりしたら……そんな悲劇が繰り返されるかもしれないと思って」

「でも、ゲンのおっ母はもう死んでいたし、ゲンは一人ぼっちだったんだ。他の子もいなかったよ。だから取り返しになんて来る狼はいないよ!」

「そうね。おっ父も、群れはもう滅びてしまっただろうって言っていたわ。母狼が一匹で死んでいたということは、(つがい)の雄も既に命を落としていたということだろう、ってね」

「そうだよ。今のゲンの家族はおいらなんだし」

「それでも、やっぱり不安はあるのよ。狼は本来、人に飼われて生きるものではないから。いつか大地へ帰りたいと思うかもしれない。仲間を見つけたら野性の血が呼び覚まされるかもしれない。そうなった時、源太や私に危害を加えるかもしれないって」

「そんなことない!ゲンは優しい子だよ。この間も、おいらが転んで怪我をした時、心配そうに舐めてくれたんだ」


母親はふっと微笑み、源太の傍らに眠るゲンへ視線を移した。


「そうね……おっ母もそう思うわ。ゲンはとても優しい目をしている。源太とも仲良しだしね」

「うん、ゲンはすごく優しいよ」


源太はそう言って、横たわるゲンの腹に頭を乗せた。


「ゲンの心臓の音がする……」


囁くように呟いたまま、源太は眠りに落ちていった。半年の間にゲンはぐんと大きくなり、まだ完全な大人にはなっていなかったが、仔狼の面影はすでに薄れていた。腹の上で眠る源太の顔を見下ろしたゲンは、小さく喉を鳴らし、安堵したように瞼を閉じた。

お読みいただきありがとうございます。

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