自己統一
「なあ、華」
「なーに?」
「聞いて欲しいことがある」
「いいよーいくらでも聞いちゃうよー」
そうやって自然に会話ができたのはいつ以来だろう。
会話自体はいつでもしていた。
むしろ毎日のようにしていたくらいだ。
授業中だってわからないところがあれば聞いていたし、昼休みに一緒に昼ごはんを食べるのは既に恒例行事となっていた。
けれどそれが生きた会話かと聞かれれば、自信を持ってイエスとは言えなかった。
上辺だけの会話をなぞり、上辺だけの関係を保つ。
ビジネスの付き合いなどではそれでいいのだが、中学校の友達同士という関係性にそんな上っ面の会話を持ちだされても、何も得られるものはない。
全くの無駄骨だ。
だから、こうやって相手を変に気遣うこともなく、場の空気を無理に読むこともなく、それでいて信頼は崩れない、そんな気負わない会話は本当に久しぶりだった。
「いつから俺の恋愛症候群のこと知ってた?」
「うーん、確信を持ったのは修学旅行の時だけど、なんとなーくその前から、強いて言えば病院で青葉くんに会った時からかな? あの時『あれ、この人なんか他の人と雰囲気違う』って思って。それで色々考えたらこの人私の事好きなんだ! って気付いたの」
「違うとは思わなかった?」
「全然。もう心でわかったっていうか、この人絶対こうだ! って。だって病院にいたのも恋愛症候群のためでしょ?」
全て見抜かれているということか。
はは。
知らずに踊っていた道化はここだよ。
誰に踊らされたわけでもなく、自分で勝手に踊り狂って、赤い靴を脱げるまでこんなにかかってしまった。
はじめっからこれだけ楽に考えられたらどれだけよかったか。
「ねえねえ青葉くん、私からも一つ聞いていい?」
「なんだ?」
この際だから答えられる限りは答えてやろうじゃないか。
「青葉くんて、なんで私のこと好きになったの?」
「それは……」
あれ?
そもそもなんで俺は華のことが好きなんだ?
確かに顔は可愛い。
ネイティブだから当然顔の造形に関しての遺伝子操作など行っているはずがないのだが、それにしたって可愛い。
それと楽しい。
会話のネタが面白いとかそういうことではないのだが、話していて楽しい相手であることは間違いない。
じゃあそれが華を好きな理由になるかというと、それもまた違う気がする。
うまくは言えないのだけれど、違うから違うのだ。
なら理由ってなんだ?
きっと何か理由があってもいいはず。
そう思って思考を巡らせるのだが、さっぱりと思い浮かばない。
うんうん唸っていると、見かねた華がまた声をかけてきた。
「思い浮かばない?」
「正直全然。ああいや、華のことが好きじゃないってわけじゃなくて、なんで好きになったのか理由がわからないっていうか、その」
ここで「理由が浮かばないのなら、本当は好きじゃなかったのかもな」とでも言っておけばもっともらしく華から離れる理由ができたのかもしれない。
だが俺は嘘がつけなかった。
これ以上華と離れるのが単純に嫌だったということもあるけれど、今までついてきた嘘がここにきて俺を嘘から遠ざけた。
まっすぐに向き合えと、そう言われた気がした。
軽蔑されるだろうか。
こんな宙にぶらさがった返答で納得されるとも思わない。
俺が華の立場だったら、なんだこいつぐらいのことは思うはずだ。
「なら仕方ないよね。好きになるってそういうものなんだろうし」
その答えが返ってきたとき、2つの意味で驚愕した。
1つ目は当然華があっさりと受け入れてくれたことに対して。
あれだけあっさりと告白してきた華なのだから、その可能性は考えて然るべきだった。
どこかで無意識のうちに華の優しさに甘えないように、そんな自制心が働いていたのかもしれない。
そんなチンケな自制心など、華への信頼があればどこかへ放り投げてしまうべきだというのに。
そして2つ目。
これは言葉の中身そのものだった。
好きになる理由がわからない。
わからないならわからないままでいい。
無理に言葉にする必要はない。
理屈っぽい俺の感性に、華の言葉は稲妻を落とした。
「仕方ないのか」
「そ、仕方ないの」
そうやって自分で口に出して、すっと心に染み込むのがわかった。
好きなものは好きだから仕方がない。
それ以上の答えはないし、必要もない。
「華、聞いて欲しいことがある」
「またー? さっきもそう言って、結局質問だったじゃん」
「今度は聞きたいことじゃなくて、聞いて欲しいことだ」
「なら聞いてあげましょう」
だから、素直な気持ちで言うことができた。
「俺は、華と恋人でいたい」
その言葉に、華は満面の笑みで返してくれた。
言葉は必要なかった。




