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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第四章
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浮動性めまい

黒磯にも恋愛症候群がバレていた。

意外なことに、その事実には不思議とショックを受けなかった。

橘はまだしも、華にバレていた時点で、心の何処かでそんな覚悟はしていたのだろう。

もう俺と華の両方を知っている者なら、誰が知っていてもおかしくない。

俺はその事実を受け入れる必要があった。



「あー何もしたくねえ」


何もしたくない。

偽らざる俺の本音だ。

ベッドの上で今日までのことを思い返していた時、自然とそんなセリフが口をついて出た。

人間気が抜けた時にこそその人の本性が現れると誰かが言う。

別に気が抜けた時に限らねえだろ、とは思うものの、もっともらしいその説は深く心の底に残っている。


「後悔しないように、か」


橘には2人で恋人同士になれと言われた。

芽衣には好きな様にしろと言われた。

一真にはどちらにせよ恋愛症候群に決着をつけろと言われた。

そして黒磯には後悔しない選択をしろと言われた。

全く他人事だと思って好き勝手言ってくれる。

俺だって考えるべきことは色々考えているさ。


だがそんな俺の苦悩なんざ周りの人間は知ったこっちゃない、というのもまた事実だ。

共感は求めても、理解を求めてはいけないのだ。

ならばそんな無責任な他人の意見なぞ放っておけ、とはならない。

岡目八目、人1人の視点には限界がある。

他人の意見を無視した先に待っているのは、利己的で閉鎖的な自我の衰退だ。

ことこの問題に至っては、人生を左右すると言っても過言ではない決定だ。

他人の意見はいくら求めても足りないくらいだ。

だからといってその量にも限度はある。

信用出来ない人間の意見なぞいくら聞いても意味が無いし、責任を持つのは最終的には自分自身。

流されるのではなく意見を活かす方向であるべきだ。



…………まあ考えても出てこないものは出てこないな。

華と、恋人に。

現実感ないなあ。


いや待てよ?

そもそも俺は何のためにこうやって悩んでいるんだ。

恋愛症候群になったから?

いやそれだけじゃない。

ただそれだけのことなら、精神科に通い続けて病気を治すという選択肢以外が浮かび上がってこないからだ。

ならば俺の迷いを生じている最大の要因は何なのか。

華だ。

華が俺の恋愛症候群を受け入れるという意志を表明したからこそ、こうやって迷いが生じているのだ。

あれ以来俺は華と2人きりで話していない。

この問題の行き着く先は俺と華の関係に尽きる。

それを華抜きで考えること自体不毛だ。

そう考えると俺のやるべきことは自然と見えてくる。


華に会いに行こう。




「なあ華、今から会えるか?」


一秒だって待っていられなかった。

夏至が近いとはいえ、辺りはすっかり暗くなっている。

冷静に考えればこんな時間に会いたいなどと言うのは非常識にも程がある。

だが抑えることができなかった。

気持ちが溢れ出た、などという言い訳をする気はない。

ただ俺の身勝手な希望を言っているだけだ。


「いいよー。どこ行けばいい?」


だから、そうやって快くオーケーをもらうとは思ってもみなかった。


「それじゃあそっちの家に一番近いコンビニまで行くから、そこで待ってて」


焦った頭で辛うじてそれだけは言うことができた。

あまり夜道を歩かせるわけにもいかないので、手近なコンビニの場所を聞き出し、そこを待ち合わせ場所に指定する。

ひとまず最低限の身支度を整えて、夜へと飛び出した。



コンビニに着くとすぐに、雑誌の立ち読みをしている華を見つけた。

その場で話をするわけにもいかないので、連れ立って外に出て近くの公園を目指す。

もう夏は間近とはいえ6月前半。

着の身着のままで出てきたので少しだけ肌寒さを感じる。

華のほうはいつもの制服で、特別寒さを感じているというわけでもなさそうだ。


「理由は聞かないのか」

「別にいいよ。結構焦ってる雰囲気は伝わってきたし、話したかったんだなって思ったから」


こんな急に呼び出したというのに、焦って理由を聞き出そうという風はない。

正直言い訳の余地もないので何も聞いてこないのはありがたいのだが、同時に不気味さすら覚えてしまう。

自分で呼び出しておいて勝手な話だ。


「悪い」

「別にいいのに」


公園にはベンチがなかった。

座る場所といえばブランコぐらいか。

並んだ2つの揺れるブランコに、それぞれ腰掛ける。

話をすることを考えたら向い合って座れるほうがいいのかもしれないが、今はこうやって直接顔を見ないで話せるという、そのことが少しだけ救いだった。

腰掛けた時の衝撃でブランコが揺れる。


「今日はどったの?」

「ああ」


一息に言ってしまえばいいのに。

そんなことは自分でわかっているはずなのに、一呼吸置かないと切り出せそうになかった。


「恋愛症候群について、聞いて欲しいことがある」


揺れ動いていたブランコは、既に止まっていた。

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