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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第四章
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多発性単ニューロパチー

「キミたち2人とも相思相愛なんだろう? 何をためらうことがあるんだ。余計なことは考えずに付き合ってしまえばいいじゃないか」

「他人事みたいに言うけどなあ」

「そりゃ他人事だもの」

「おい」

「はは、冗談だよ」


こいつの場合全く冗談に聞こえないのが困りモノだ。

むしろその「冗談だよ」という言葉が冗談だったりするんじゃないだろうか。

いやいや「冗談だよ」という言葉が冗談であるように見せかけた高度な冗談でありその実言葉の裏に更なる冗談を内包していて……

バカなことを考えるのはやめよう。


「そうは言っても恋愛症候群のほうはどうするんだよ。もし恋人同士になるとしたら、もう治らないって言われてるんだぞ」

「それってそんなに不都合なのかい?」

「は?」

「そんなに無理に治す必要がある病気なのかなって思ってさ」


さっきからこいつは何を言っているんだ。

今まで散々話が通じないとは思っていたけど、ここまで噛み合わないとは。

病気が治らなくてもいい?

いいわけがないだろうが。

この病気のおかげで俺がどれだけ面倒な思いをしてきたと思っているんだ。

思い返せば…………



…………あれ?


我ながらいったいどうしたっていうのか。

具体的な不利益がまるで思い浮かばない。

確かに病院に行くのは面倒だし、病院代だってバカにならない。

華の近くにいると動悸が激しくなったり考えが散ったりする。けれど

それだって別に必ずそうなるわけでもなければ、ましてやそれが気持ち悪いなどとは思えない。

病院だって恋愛症候群を受け入れてしまえば、何も行く必要のないものだろう。

先生だって「受け入れてしまえば、一生治らない代わりに恋愛というものを享受できる」と言っていた。

ならば。

実は恋愛とは悪いものではないんじゃないだろうか。

率直に言って恋愛症候群そのもので困った記憶はまるでないのだ。

俺の気持ちが華を中心に大きく揺さぶられ安定しないということをデメリットととれば、なるほど確かに間違いではない。

しかしわざわざ殊更に恋愛をあげつらうべきなのだろうか。

何も恋愛に限らずとも、人の精神を不安定に陥らせる因子など日常の中にいくらでも転がっているだろう。

だったら。

橘の言う通り、無理に治す必要はあるのだろうか。


「考えても見てごらんよ。キミは華のことが嫌いなのかい? 違うだろう、むしろ大好きなはずだ。華だってそうだ。さっきキミと将来一緒になりたいと言っていたじゃないか。相思相愛相互の恋慕。結構なことじゃないか。キミたち2人が一緒になることの何が悪いんだ」

「聞こえてたのか」

「耳はいいほうなんでね。安心しなよ。多分ボク以外には聞こえていないはずだから」

「え。兄ちゃんそこまで話進んでたの?」

「正直俺も今日初めて聞いた。あいつ結構思い込んだら猪突猛進なところあるみたいだ」

「意外ー。周りに気を遣って自分のこと後回しになるタイプだと思ってた」

「俺もだよ」


俺は芽衣以上に驚いたけどな。

そして橘も華のその言葉を聞いたからこそ、こうやって最終勧告に来たというわけだろう。

2人の気持ちが同じなら、もう何も恐れるものはないと、橘はそう言っているのだ。

だがそれならそれで1つ気になることがある。


「なあ橘」

「なんだい?」

「それをしてお前にどういうメリットがあるんだ」


それを聞いた瞬間、橘はニィっと口角を釣り上げた。

短い付き合いの中でこいつの性格はもうそれなりに把握できている。

自分に何のメリットもないのにこんな提案はしてこないだろう。

ならばそのメリットといえば何かなど、当然決まっている。


「そっちのほうが面白いからさ!」


そういうやつだよ。


「言うと思った。じゃあお前の意見は特に考慮しなくていいってことだな」

「どうしてそうなるかなあ。例えもしボクの意見が不純な動機からもたらされるものであったとしても、その内容に罪はないだろう。少なくともキミは華とこれからどう接するか、決めなくちゃいけないんじゃないのかい? それに関してボクのささやかな意見を述べたまでさ。その裏にある意図を読み解こうとしたところで、どの道キミにメリットなんてないのさ。だったら『あくまで一つの意見として』ボクの言葉を聞いておけばいいんじゃないかな。意見そのものには貴賎など存在しないのだから」


おうおうよく口が回りなさる。

ええと、橘の話を要約するとだ。

「理由はどうあれ華と恋人同士になることは考えておけ」って感じか。

言葉の裏を読みこめばもっと色々と情報を掘り下げることができるのかもしれないが、ここは本人の言う通り上っ面のアドバイスだけを受け取ってよしとするのがモアベターだろう。

面倒くせえなあ。


「やっぱり橘さんってすごい頭いいんですね! ちょっと難しい言葉もありましたけど、すっごいわかりやすかったです!」

「ありがと、素直に受け取っておくよ」


妹よ、うっとりした顔で橘を見つめるのはいいが、今の話のどこにわかりやすさがあったというのか。

むしろ迂遠婉曲間接表現のオンパレードだった気がするのだが。

まあ、恋は盲目アバタもエクボということわざもあるくらいだしなあ。

尊敬する橘さんの言うことは絶対なのだろう。

ちなみにこの恋は盲目ということわざ、恋愛が否定された現代ではそぐわないとして廃止する方向に話が進んでいるらしい。

なんか言葉狩りみたいでつまらないなあとは思う。


「はいはい貴重なご意見ありがとうございます。ご指摘の事項に付きましては真摯に受け止め慎重に考慮し結論を出そうと思います。本日はまことにありがとうございました」

「前々から思っていたけど、青葉くんは喧嘩売るのはなかなか上手いよね」

「そうか、褒めるなよ」

「少なくともボクといい勝負できるんじゃないかな」

「それはマジで嬉しくないんでやめてくださいすいませんでした」


そんなことで勝っても何も得られるものがないだろうよ。


「それで兄ちゃん、結局どうするの?」


ザ・中立といった立ち位置から芽衣がジャッジを催促する。

芽衣が恋愛症候群の治療を諦めさせる側に立っていないのはまだ救いだが、周囲の他の人間の意見はどうも諦めさせようという方向に偏っている。

この傾きに流されるままに決めていいのだろうか。

今カードを切るべきなのか。



上機嫌な橘と、さして興味のなさそうな芽衣。

2人を前にしてどれだけの時間が経っただろうか。

実際のところものの数分しか経っていないだろう。むしろそれすら長過ぎるかもしれない。

それほどまでに、決断を迫られた沈黙は時間間隔を麻痺させる。

だが、答えは出た。

今はこれ以上ないであろうという答えが。

それを今言わなければ。




「もう少し考えさせてくれ」



……正直これ以外どうしろっていうのだろう。

おわかりかと思いますが結構グダグダ悩む優柔不断な主人公です

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