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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第四章
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夏型過敏性肺炎

待ちに待った土曜日。

雲は遠くに見えるばかりの快晴の空の下、俺は校門の前で1人佇んでいた。

時刻は13時ちょうど。待ち合わせの時間にはまだ早い。

何故こんな時間に1人寂しく暇を持て余しているかというと、その説明のためには今から数時間前に遡る必要がある。



「兄ちゃん、掃除終わった?」

「終わってるわけねえだろ……」


朝7時。いつもならば寝ている時間だ。土曜日なら尚更である。

だが今日は妹に家中の大掃除をさせられている。

それというのも芽衣が


「お客様を迎えるのに掃除もしないなんてありえないでしょ!」


と言ったことに始まる。

まあその言葉自体は全く持って正しいし、客人を迎えるおもてなしの心は古き良き日本の伝統とも言えるだろう。

だが物事には適切なタイミングというものがある。

少なくとも当日の朝6時に兄を叩き起こして言うセリフではないことだけは確かだ。

遠足当日の子供じゃないんだから。

いや、一大イベントという意味では遠足以上か。


「まだ終わってないって今まで何やってたのさ」

「そうは言ってもこっちは眠い目こすりながら頑張ってんだから、もうちょい大目に見てくれよ」

「そうやって言い訳しないでほら、ハリーハリー! さっさと手を動かす!」


せかされるままに俺は水回りの掃除を続ける。

両親ともが忙しいこともあって我が家はあまり掃除が行き届いているところが多くない。

つまりいざ掃除を始めればいくらでも掃除すべきところが見つかるので、やればやるだけ増えていく。

良く言えばやり甲斐があるが、悪く言えば際限がない。


「なあ、台所とか風呂の掃除なんて後でよくないか? どうせこんなところに呼ばないだろ」

「甘い! 砂糖の何百倍も甘い!」

「はあ」

「いい? 当然兄ちゃんは皆様にお茶やお菓子をお出ししなきゃいけないの。だから台所も使うし、華さんは優しいから手伝おうとして台所に来るかもしれない。ってことは台所は絶対に掃除しておかなきゃいけないのよ。お風呂もそうね。今は晴れてるけど急な夕立が降るかもしれないし、もしお茶をこぼしてびしょ濡れになったりしたらお風呂を貸す展開だってあるわ。そう考えるとやっぱりお風呂だって綺麗にしておかなきゃいけないのよ」

「は、はあ」


わかるようなわからんような。

納得できたわけでもないが、やってること自体は悪いことじゃないのでただもやもやが残る。


「あ、それと掃除が終わったらちょっと家から出てってね」

「え、なんで」

「私にも色々と準備するものがあるのよ」

「それって俺がいたらダメなのか?」

「んー、まるっきりダメってわけじゃないけど、ちょっと恥ずかしいし、何より邪魔臭いし」


あの、そういう休日のお父さんを追いやる娘みたいなさあ。

そういうの、ほんとよくないと思う。

そして素直に従っちゃう俺ももっとよくないと思う。




…………というわけで、俺はこうして1人ぼっちでぼけっと無為な時間を過ごしているわけだ。

まあ家に居たところで有意義な時間になったかというと、そうでもないんだけど。


あー暇だなー。

こんな暇な日は隕石でも落ちてきて世界が滅亡してしまえばいいのに。

益体もないことを考えながらぼんやりと校門にもたれかかっていると、不意に視界に影が差した。

お、ついに隕石がすぐそこまで来たのか?


「やあ、随分と早いんだね」


違った、橘だった。

隕石のほうがマシだった。


「妹に家を追い出されてな。そんなわけだから、今から行ってもまだ入れてもらえないと思うぞ」

「構わないよ。早めに来て本でも読んでいるつもりだったから」

「それにしたって早すぎないか」

「人を待つのも好きなんだ」

「変わった趣味だな」

「今更だね」

「それもそうか」


6月の昼といえど、風が吹けばまだすこし肌寒さを感じる。

夏がもうすぐそこに迫っているとはとても感じられないが、そうこう言っているうちに夏はやってくるのだろう。

俺達の知らないところで、そうやって季節が巡っていく。


その後、結局全員が揃ったのは長針が再び天を指して少ししてからのことだった。

きっかり10分前に到着した一真と、14時ちょうどに来た華。そして遅刻した黒磯。

一言言ってやってもよかったのだが、本人も反省しているようだし今回は不問になった。

ま、この青空に免じて許してやりますよ。

ここでクドクドと時間をかけて芽衣の言うように夕立でも降り出したら話にならんしな。


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