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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第四章
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ベクター

「いい加減困ったらわたしのところに来るのやめたほうがいいと思う」


眼前におわすは世界の妹芽衣様。

いや俺だけの妹だわ他所にはやらんぞ。


「そうは言っても一番いいアイデア出してくれそうなのが芽衣なんだもの、仕方ないだろ」

「おだててもアイデアは出てこないけどね」

「そこをなんとか」


こうやって芽衣に頭を下げるのも何回目だろう。

今ではもう流れるような動作で土下座まで完遂する自信がある。

プライドと引き換えに妹との団欒を手に入れたのだから、後悔はない。


「はあ……で、今回は何が起こったわけ?」

「それがな……」


持つべきものは妹。

何度反芻しても良い言葉である。

そんな名言を肌身で実感させてくれた芽衣に感謝しつつ、事のあらましを伝えた。


「珍しく今回は兄ちゃんそんなに悪くないね……」

「感想がそれか」


非常に不本意な第一声が返ってきた。

まるで普段は俺が原因でややこしいことが怒っているみたいじゃないか。

俺が原因になったことなんて…………いや、過去を無闇に暴くのはやめよう。

ツタンカーメン王の墓を暴いたものには死の呪いが訪れるという伝説だってある。

誰だって詳らかにひけらかしてはいけない過去の一つや二つあるのだ。


「でもさ、ぶっちゃけ今回どうしようもなくない? もう私は兄ちゃんの恋愛症候群が治るのは諦めたし、いっそ華さんと恋人になっちゃうしかないでしょ」

「お前なあ、他人事だと思って」

「そりゃ他人事だし。ていうか兄ちゃんだってわたしにどうにかしてほしいなんて思ってないっしょ」

「それは……そうかもな」


事実芽衣の言葉通り、解決を期待して相談したわけではない。

こうやって相談に乗ってくれるだけで十分ありがたい、というのも理由の一つだが、今回のような厄介事に関してほぼ無関係である芽衣を連れてきたところで事態が好転するとはとても思えないというのが一番の理由だ。

ならば何故相談したか。


「でも芽衣なら華が何考えてるか想像できるんじゃないかなーって」

「は? 無理に決まってんでしょ」

「ですよね~……」

「第一会わせてくれないのは兄ちゃんのほうでしょ。私は前から華さんとあと橘さんに会いたいって言ってんの。それを我慢してこうやって修学旅行のお土産すら満足に買ってこれないような兄の相談に乗ってあげてるっていうのに、華さんの気持ちを想像しろとか言われてもねえ。兄ちゃん私にエスパーにでもなれって言ってんの?」

「いやさすがにそこまでは」

「じゃあ無理」


正論の上に正論を塗り固められて手も足も出ない。

おまけに修学旅行のお土産の話まで持ちだされると、こちらとしては返す言葉もない。

妹に頼りすぎかなあ。

一瞬反省の言葉が頭をよぎったが、次の瞬間差し伸べられた福音にそんな言葉はどこかへ飛んでいってしまった。


「ということで、わたしを華さんと会わせなさい」

「と云いますと」

「『と云いますと』じゃないよ。言葉通りの意味に決まってんでしょ。わたしが華さんと会って、どうにかならないか考えてみるって言ってんの」

「マジで?」

「マジもマジ大マジよ」

「ありがとう! ほんっとうにありがとう! やっぱり持つべきものは妹だ!」

「ちょっ、気持ち悪いから離しなさい」


思わず憧れの有名人に出会ったときのように芽衣に握手を求めてしまった。

有り難いの一言に尽きるが、妹がここまで俺のためにしてくれると考えると感動もひとしおだ。


元々全くの疎遠な兄妹というわけでもなかったが、華が転校してきて以来、正確には俺が恋愛症候群になって以来、随分と芽衣とは仲良くなれたと思う。

よく思春期の男女の兄妹は下手をするとややこしい関係になり、その後もずっとそれを引きずってしまうという話を聞く。

もし俺の恋愛症候群がなければ芽衣とはそんな未来もありえたのかと思うと、ただ病気だからという理由で恋愛を否定することはできそうになかった。

少なくとも恋愛症候群は兄妹の仲を取り持ってくれる媒介として、重要な役割を担ってくれた。

恋愛症候群は絶対悪ではない。

それはれっきとした事実だ。

そしてその事実こそが、俺が簡単に華から離れられない理由の一つである。



「それで、華さんの都合のいい日とか知ってる?」

「ああ、それは聞いてないな。特別何かのレッスンとかしてるわけじゃないはずだから、放課後と土日なら大丈夫だと思う。明日にでも聞いてみるよ」

「そう。わたしは土日じゃなきゃダメだから」

「え、なんで?」


俺が何かのレッスンや習い事をしていないのと同様に、芽衣も特に何かしているわけではない。

放課後だって中学生と比べたら小学生はそれなりに暇なはずだ。

一体何をそんなに忙しいことがあるというのだろう。


「BLを見る時間を確保する」

「あ、はい」


さいですか。

そう言われたら言い返す言葉もないわけで。



しかし、ついに芽衣と華のご対面か。

感慨深い、という表現が適切かどうかはわからないが、あっさりと流せるほど平坦な道のりだったわけでもない。

結局問題を解決するには自分だけが動いたって仕方がないのだ。

この場合華にもある程度は動いてもらう必要があるし、俺が華を動かさなければならない。

人が動けばまた別の人が動く。

その連鎖が、今芽衣を通して始まるのだ。


ベクターといえば真月零を思い出しますね

(こちらは蚊やダニ、ファージなどのベクターで、あちらはフェクダのもじりですが)

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