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恋愛症候群  作者: 真殿悠
幕間二
51/67

rapid eye movement

何時の世にも人々の心のなかには夢がある。

それは時を経て姿形を変えつつも、絶えることはない。

あるときは童話として少年少女の心のなかに。

あるときは英雄譚の伝承として大人たちの希望の中に。

いつだってそうやって夢を見てきた。

今宵も一人の少女が夢を求めて彷徨い歩く。

それはまるで、シンデレラを探す王子のように。



「ねえタマちゃん、白馬の王子様って信じてる?」

「白馬の王子様?」


親友に話しかけた少女の視線は、一応はその親友を向いてはいるものの、虚空を見つめるかのように現実から離れたどこかを見ている。


「そう、白馬の王子様! 困ったときには颯爽と現れて私を助けてくれるの。それでその後は『麗しの姫君よ、どうか我が妃になってはくれないだろうか』……ってキャー! ヤダー!」

「中1にもなってそんな夢みてるほうがヤダー! だよ……」


タマちゃんと呼ばれたその少女は呆れた様子で読んでいた本へと視線を戻す。

だがそんな素気ない態度は少女のお気に召さなかったようだ。


「ねーねー、タマちゃんだって王子様好きでしょー。小学校のころは一緒に本読んで泣いてたじゃんかー」

「小学校って言ってももう5年か6年前でしょうに。だいたいそうやって変に夢見てたらすぐ裏切られるわよ? 悪い人ってのはそうやって王子様の皮を被って近づいて来るもんなんだから」

「ほんと夢がなさすぎー。タマちゃん嫌いっ」

「はいはい」


何度となく行われ、もう既に慣れっことなったやりとりだった。

その証拠に、5分と経たずに少女はまた親友へと話題をふる。

やはりこれもお互いに慣れっことなった光景であった。


「ねーねー、タマちゃんてもうサンタさんは信じてないのー?」

「中1で信じてる子なんていないわよ。まあ天然記念物級に純粋な子なら、日本に一人くらいサンタを信じてる子がいてもおかしくないかもね」

「そうだよねー。私も去年までは信じてたんだけどなあ」

「……あなたも十分天然記念物級ね」

「でもさーわかっていても信じたくならない? サンタさんもトナカイさんも、実際にいるかいないかじゃなくている! って強く思えばほら、ね?」

「何が『ね?』なのかわからないけど、トナカイはいるでしょ」

「え、もしかしてタマちゃん、トナカイは信じてるの?」

「信じてるって……そりゃいるものはいるのよ」

「ダメだよタマちゃん! 私が夢見るのは勝手だけど、タマちゃんは現実を見る頭がいいキャラなんだよ! トナカイさんを信じるのは私の心のなかだけで十分なの!」


構図だけ見れば先程とは立場が逆転した二人。

流れに押され一瞬何が正しいかわからなくなる親友の少女であったが、いやいやそんなバカなと冷静になり少女へと向き直る。


「あなた、トナカイって何か知ってる?」

「そりゃサンタさんと一緒にいてクリスマスにはプレゼントを運ぶソリを引く、鹿みたいな動物だよね? ユニコーンとかペガサスみたいな」

「はあ……」


例示された動物がどちらもこの世界には存在しない動物であるということで、彼女の疑念は確信に変わった。


「いい、ちゃんと聞いてね。トナカイは、いるの。現実に存在しているの」

「またまたー。タマちゃんてば嘘が上手いんだからー…………え?」

「いい? 私は嘘を言ってもいないし、頭がおかしくなったわけじゃないの。これを見て」


そう言って彼女は手持ちの端末にトナカイの写真を呼び出した。


「いい? これがトナカイ。北欧に住む鹿の仲間で、実際に存在しているの。日本でも動物園で見ることができるわ。わかった?」

「え……じゃあサンタさんと一緒にいる動物は……?」

「それもトナカイ。サンタさんはあなたの心のなかにいるかもしれないけど、トナカイは動物園にいるの。おーけー?」

「お、オーケー……」


先ほどまでのテンションはどこへやら、すっかり少女の後ろ姿には影がさしてしまっている。

本来なら実在しないと思っていたものが存在していたのだから喜ばしいはずなのだが、より一層空想と現実の境目がはっきりとしてしまったように思えたのだろう。

そんな少女を不憫に思ったのか、親友は心にもない言葉をかけることにした。


「ま、まあサンタさんはいないかもしれないけど、白馬の王子様はどこかにいるかもしれないわね。トナカイだって現実にいたわけだし」

「そ、そうだよね! トナカイもいたんだし、白馬の王子様もいるって考えるほうが現実的だよね! さっすがタマちゃんはいいこと言うなあ」

「…………純粋って幸せね」

「何か言った?」

「ううん、あなたはいつも楽しそうだなって思って」

「えへへ」


褒めてないわよ、と口に出して言うほど彼女は厳しい人でもなかった。


この少女はいったいどこへ行くのだろうか。

純粋さは時として諸刃の剣となる。

願わくばこの純粋さを悪用する相手と出会うことのないように。

できるならば彼女の望み通り白馬の王子様と出会えるように。

親友の行く末を祈るばかりであった。

トナ回は聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。

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