偽性症候
「えっといきなりごめんね、私わかる? ほら、今日転校してきた転校生の四条院華!」
「あ、ああ、大丈夫。わかるよ」
「そう! えーっと、私まだクラスの人の名前覚えきれてなくて、ほんとごめん! 名前教えてくれる? ってなんだか謝ってばっかりだね」
わかるも何もさっきまでずっとお前のこと考えてたんだよ。
などと言えるわけもなく、しどろもどろの返事になってしまう。
しかしなんだって急にこんなフレンドリーに話しかけて来たのか、まるで身に覚えがない。
いや、もしかして授業中ずっと見ていたのがバレたのか。
さすがにそれはないか。
「俺は沖青葉。沖縄の沖って書く」
「ほー、なんだかカッコいいね! 苗字が漢字一文字ってなんかいいよね」
「そう、なのかな」
「うんうん。私の勝手な好みではあるんだけど、ちょっとカッコいい気がする」
自分が特別何かをしたわけでもないけれど、褒められて悪い気はしない。
これでなんか裏があったりしたらやだなあ。
「なんか、ちょっと意外だった」
「どこらへんが?」
「気を悪くしないでほしいんだけど、四条院さんてちょっと冷たい人なのかなって。いやほら、今日は教室であんまり人と喋ってなかったから」
「……まあ、そだね」
どことなく歯切れが悪い。
もしかして、地雷を踏んでしまったか。
そりゃ理由もなくわざわざ孤立しようなんて物好きはいない。
まだ自分の中でこの恋愛症候群が整理できていないのに、早速気まずい空気ができるのはありがたくない話だ。
「ああうん、あんまり気にしないでね。私、どうにもデザイナーズチルドレンの人達が得意じゃなくてさ。ほんと悪い人じゃないってのはわかるんだけど、ね」
「そういうことなら仕方ないか」
「そういうわけですよ」
ネイティブから見てもやっぱり俺らデザイナーズチルドレンはあまり気持ちのよいものではないようだ。
逆に、俺がネイティブの集団に一人放り込まれたら。
確かにそれは最高に居心地が悪い。
なるほどね。
…………はて?
そうなると、どうにも不可解なことが一つある。
さっき四条院は「デザイナーズチルドレンが苦手」だと言った。
ただでさえ転校初日で不安だろうに、デザイナーズチルドレンに囲まれてさぞかし心細かっただろう。
それはわかる。そこまではよくわかる。
じゃあ、なんで彼女はこんなに親しげに俺に話しかけて来たのだろう。
このデザイナーズチャイルドである俺に。
これはどうにも嫌な予感しかしない。
「それにしても沖君が居てほんとよかったー! 一人で超不安だったんだよー。あ、青葉君て呼んでいい?」
「お、おう。で、良かったって」
「あ、そうだよね……。私が青葉君と会うまで一人ってことは、青葉くんはずっと一人だったんだよね。ごめんね、私勝手に舞い上がっちゃって。そっか、青葉君すごいなあ……」
これは、まずい。
とても、まずい。
非常に、まずい。
どう考えても話がまずい方向へ転がっている。
俺の予感が正しければ、おそらく壮大な勘違いが発生している。
「なあ、その一人って」
「あれ、もしかして他にもネイティブの子いるの? 他のクラスとか? そっか、そうだよね、そりゃそうだよね。ほんとのほんとにひとりぼっちだったら、寂しくて死んじゃうよね。そう、だよね……」
いやいや俺うさぎさんじゃないし。
ちょっとぐらい寂しくたって死にゃせんよ。
って突っ込みどころはそこじゃないな。もっと大切なことがある。
「兎にも角にも、同じネイティブ同士仲良くやっていきましょう! よろしく!」
ああ、そうだよな。知ってた。
どこをどう間違えたのか、四条院は大きな勘違いをしている。
俺がネイティブだと。
数少ない気軽に話せる同類だと。
勘違い。
それ自体は恥ずかしいことじゃない。
誰かがちゃんと正しい知識でその勘違いを訂正すれば、それでおしまいだ。
誰も悪くない。
問題は誰かがそれを正さなければならないということだろう。
この場合その役目は俺が担うべきだ。
わかっている。
そして俺がとった行動は。
「よ、よろしく」
ただ黙って、差し出されたその手を握り返すことだった。
嘘はいけません




