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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第一章
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偽性症候

「えっといきなりごめんね、私わかる? ほら、今日転校してきた転校生の四条院華!」

「あ、ああ、大丈夫。わかるよ」

「そう! えーっと、私まだクラスの人の名前覚えきれてなくて、ほんとごめん! 名前教えてくれる? ってなんだか謝ってばっかりだね」


わかるも何もさっきまでずっとお前のこと考えてたんだよ。

などと言えるわけもなく、しどろもどろの返事になってしまう。

しかしなんだって急にこんなフレンドリーに話しかけて来たのか、まるで身に覚えがない。

いや、もしかして授業中ずっと見ていたのがバレたのか。

さすがにそれはないか。


「俺は沖青葉。沖縄の沖って書く」

「ほー、なんだかカッコいいね! 苗字が漢字一文字ってなんかいいよね」

「そう、なのかな」

「うんうん。私の勝手な好みではあるんだけど、ちょっとカッコいい気がする」


自分が特別何かをしたわけでもないけれど、褒められて悪い気はしない。

これでなんか裏があったりしたらやだなあ。


「なんか、ちょっと意外だった」

「どこらへんが?」

「気を悪くしないでほしいんだけど、四条院さんてちょっと冷たい人なのかなって。いやほら、今日は教室であんまり人と喋ってなかったから」

「……まあ、そだね」


どことなく歯切れが悪い。

もしかして、地雷を踏んでしまったか。

そりゃ理由もなくわざわざ孤立しようなんて物好きはいない。

まだ自分の中でこの恋愛症候群が整理できていないのに、早速気まずい空気ができるのはありがたくない話だ。


「ああうん、あんまり気にしないでね。私、どうにもデザイナーズチルドレンの人達が得意じゃなくてさ。ほんと悪い人じゃないってのはわかるんだけど、ね」

「そういうことなら仕方ないか」

「そういうわけですよ」


ネイティブから見てもやっぱり俺らデザイナーズチルドレンはあまり気持ちのよいものではないようだ。

逆に、俺がネイティブの集団に一人放り込まれたら。

確かにそれは最高に居心地が悪い。

なるほどね。


…………はて?

そうなると、どうにも不可解なことが一つある。

さっき四条院は「デザイナーズチルドレンが苦手」だと言った。

ただでさえ転校初日で不安だろうに、デザイナーズチルドレンに囲まれてさぞかし心細かっただろう。

それはわかる。そこまではよくわかる。

じゃあ、なんで彼女はこんなに親しげに俺に話しかけて来たのだろう。

このデザイナーズチャイルドである俺に。

これはどうにも嫌な予感しかしない。


「それにしても沖君が居てほんとよかったー! 一人で超不安だったんだよー。あ、青葉君て呼んでいい?」

「お、おう。で、良かったって」

「あ、そうだよね……。私が青葉君と会うまで一人ってことは、青葉くんはずっと一人だったんだよね。ごめんね、私勝手に舞い上がっちゃって。そっか、青葉君すごいなあ……」


これは、まずい。

とても、まずい。

非常に、まずい。

どう考えても話がまずい方向へ転がっている。

俺の予感が正しければ、おそらく壮大な勘違いが発生している。


「なあ、その一人って」

「あれ、もしかして他にもネイティブの子いるの? 他のクラスとか? そっか、そうだよね、そりゃそうだよね。ほんとのほんとにひとりぼっちだったら、寂しくて死んじゃうよね。そう、だよね……」


いやいや俺うさぎさんじゃないし。

ちょっとぐらい寂しくたって死にゃせんよ。

って突っ込みどころはそこじゃないな。もっと大切なことがある。


「兎にも角にも、同じネイティブ同士仲良くやっていきましょう! よろしく!」


ああ、そうだよな。知ってた。

どこをどう間違えたのか、四条院は大きな勘違いをしている。

俺がネイティブだと。

数少ない気軽に話せる同類だと。


勘違い。

それ自体は恥ずかしいことじゃない。

誰かがちゃんと正しい知識でその勘違いを訂正すれば、それでおしまいだ。

誰も悪くない。

問題は誰かがそれを正さなければならないということだろう。

この場合その役目は俺が担うべきだ。

わかっている。

そして俺がとった行動は。


「よ、よろしく」


ただ黙って、差し出されたその手を握り返すことだった。

嘘はいけません

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