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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第三章
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奇異性上昇

「それで、今日も昨日の格ゲーやる? いいよーもう青葉くんボッコボコにしちゃうから」

「お手柔らかに頼むよ」


昨日の今日で華の実力は散々思い知ったので、真摯に教えを請うつもりでいこうと思う。

接待だなんだと相手を下に見る心は捨てて、あくまで稽古をつけてもらうつもりで。

実力が隠したなのは事実なわけだし。


「でさー青葉くん」

「どうした?」

「今日どうだった? おっと危ない」

「どうだったって何が? おいハメだろそれ」

「みんなで遊んで楽しかったかなって。すぐ補正かかるからハメじゃないよー」

「まあ楽しかったな。補正かかる前に火力で死んだ……」

「ならよし!」


そう言って華は立ち上がり、端末をスリープモードにした。

よくよく時間を見ればもう1時間近くは2人で遊んでいたことになる。

もうここで終わりということなのだろう。


「なんでそんな変なこと聞いてきたんだ」

「んー? 青葉くんがちゃんと楽しめてるかどうかほんと心配でさー。だってこのところ何かの計画立ててる感じしたし、なのに私にはその計画は教えてくれないし。一応結衣ちゃんにも聞いてみたんだけど結衣ちゃんも知らないっていうし」


やっぱりバレてたのか。

一応は俺の意図の通り、と言っていいのかな。

何せできるだけショックを与えないように、和らげて和らげて段階を踏んで事実を伝えようという計画だ。

華が全く気付いていない状態ってのもそれはそれで困る。

春の陽気にまどろむ人を薄氷が張った湖に放り込もうなんて言ったら、その人は心臓麻痺で最悪死んでしまう。

まあそこまでどぎついことをやろうなんてわけじゃないが、アフターケアも事前の準備もない暴露なんざ趣味じゃないしな。


「でもねでもね、結衣ちゃんはなんか知ってるっていうか心当たりがあるっぽいんだよね。『どうしてボクに黙ってそんな面白そうなことをしようとしているんだ』って怒ってたし」

「あいつの言う『面白いこと』ってろくでもないことな気がしてならないよ」

「そうやって他人事みたいに言う。ほれほれ~、この四条院さんに何を隠しているのか教えなさいな」

「えぇ~」


思わずなよなよしい声をあげてしまった。

遠からず言うことになるとはいえ、この流れで言うのもなあ。


「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃなしに」

「そういう場合って大抵神経が磨り減るよね」

「え、そんな危ない橋渡るようなことしてるの! ちょっとやめてよー。私テレビに出てインタビューで『彼はほんとそのうちそういうことをやるとは思ってました』って言わなきゃいけなくなるじゃん」

「そこは擁護してくれないのね……」

「冗談冗談。でもほんとに危ないことしてないよね?」

「それは保証する」

「それなら聞かないことにしてあげましょう。四条院さんは優しいのです」


余計な心配をかけてしまったようだな。

俺からしてみればある程度土台を固めてそこから一気に、という具体的な方策と最終目標が見えているが、傍から見れば何やら一真とコソコソよからぬことをしているようにしか見えないのかもしれない。

よかれと思ってやったことが相手を不安にさせるようじゃまだまだだ。

今度からはもう少しわかりやすい方法を取れるといいなあ。

その今度がいつかはわからない。



「それで話は変わるけど、昨日先祖返りの話したよね?」

「また随分話が飛ぶな」

「まあまあ。確か青葉くんの友達に先祖返りがいるって話だったっけ?」

「そうだな。最近はそこまで連絡取り合ってるわけじゃねえけど」


あまり良い空気で出てきた話題じゃなさそうだ。

もし俺の作り上げた架空の友達に華が興味を示した場合、根掘り葉掘り聞かれてそのうちポロッとボロが出てしまう可能性がある。

あんまり深く掘り下げないで流して欲しい話題だ。


「そうなんだー。ちょっと残念かも」

「悪いな。最近は向こうも忙しいみたいだし」


我ながら悪くない返しだと思う。

会いたくても会えない空気を醸し出しつつ実質的には断っているも同義。

しかも最近疎遠気味というおまけつきだ。

嘘を嘘で塗り固めるのは心苦しいが、一度ついた嘘は最後まで突き通す優しさも世の中には存在していい。

というかできればそれがいい。

俺がネイティブだという勘違いは絶対に後で退っ引きならない事態に追い込まれるのが目に見えているから言わなきゃいけないのであって、俺一人が良心の呵責に苛まれるだけで済むなら喜んで嘘を心の奥底に守りぬくさ。


「うーん、それじゃあ仕方ないか。あと先祖返りの話なんだけどさ、青葉くんが昨日先祖返りに対して言ってたことってなんだっけ?」

「え、俺なんか変なこと言った?」

「ううん、そういうんじゃないけど、もう一回聞いておきたくてさ」

「先祖返りに対して、って言われても、『もし先祖返りの奴がそれを理由に俺に友達になろうって近付いてきたら断るし、そうじゃないなら普通に友達になる』って話でいいのか?」

「そうそう、それそれ。青葉くんの気持ちはそれで間違いない?」

「やけに念を押すな……。特に前言撤回するつもりもないが」

「むー、そうなるとよくわからないことになるんだよねぇ」


どこぞの明治の文豪のように、顎に手を当てしかめっ面で考えだす華。


「わからないって何がだよ」

「青葉くんのこと。先祖返りに対してはそうなんだよね。じゃあネイティブとかデザイナーズチルドレンに対しては? それを理由にして近付いてきたら断る?」

「そりゃとうぜ……あ」

「気付いた? やっぱりそこは矛盾してるからほんと気になっちゃってさ。どっちが正しいのかなーって」


言われてようやく気がついた。

俺の態度には明らかに一貫性がなかったのだ。

俺は『先祖返りやネイティブであることを理由にしてくるなら断る』とはっきり言った。

だが華との出会いを思い返してみればどうだっただろうか。

華は最初なんて言っただろうか。


「同じネイティブ同士仲良くやっていきましょう!」


彼女はこれ以上ないってぐらいにネイティブであることを理由に俺に近付いてきた。

そして俺はそれを大した拒絶もせずに受け入れた。

言ってることとやってることがちぐはぐだ。


「ねえねえ、もう一回改めて聞かせてほしいんだけどさ」


そう言う彼女の口調は普段と変わらない。

表情も変わらない。

声色だって変化はない。

ただ、緊張感だけが違っていた。


「青葉くんは、ネイティブとして私と友達になったの?」

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