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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第三章
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後ろ向き研究

あの後黒磯姉と別れ、今日のホテルへと向かうことになった。

双子はまるで今生の別れを惜しむかのように大袈裟に泣いていたが、最初に月一度は会うという話を聞いてしまっていたので、何も共感できるところがない。

悲しいは悲しいんだろうけど、俺と芽衣に置き換えて考えてみるとうまく共感できそうにないなあ。

気軽にじゃあまたなーとか言ってわかれそうだ。ていうかあの両親が離婚することになる未来がまるで想像できない。

まあ女子の双子だったり両親が離婚してたりでだいぶ状況は違うが、その後随分あっけらかんと別れた辺りただのノリだったんじゃないだろうか。

全員と連絡先を交換したところを見るに、またこっちに来てみんなで遊ぼうとか言い出しそうだし、楽観的に構えて大丈夫だろう。



「ねーねー青葉くん、今日の夜暇?」

「夜って飯食ったあとか? 特にやることないけど」

「え、お風呂も入らないんだ。不潔~」

「あのなあ。文脈ってもんがあるだろうに」

「うそうそ冗談。じゃあ昨日みたいにお風呂入ったらロビー集合でいい?」

「ん」


もしかしたら鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたかもしれない。

いくらなんでも展開が急過ぎる。

「昨日それなりに話できたし今日は別に頑張らなくていいかなー」とかそういう後ろ向きなこと考えてたのに、まさかチャンスが転がってくるとは思ってもみなかった。

果報は寝て待てというのは本当だったのか。

いや、これは昨日俺がゲームに誘ったことを受けての今日の誘いか。

口ぶり的にもそんな感じだし、そう考えたほうが自然である。

つまり正しい意味での果報は寝て待てということだったか。

計画通りにいかないことも多々、というより計画通りにいったことのほうが少なかったけど、その度に計画を立ち上げなおして今までよりも今を信じ頑張った甲斐があったというものだ。

達成感もひとしおである。


しかしそう考えてみるとだ。

これは最大のチャンスであり同時に最大のピンチなのではないだろうか。

正直この修学旅行中に華に嘘を告白することができるというのはかなりの希望的観測が含まれているものだとばかり思っていたが、今の様子を見るに全く滑稽な話というわけでもないらしい。

少なくとも2人きりでそういう話をしても特に咎める誰かはいないと思っていいだろう。

となると俄然嘘を告白するということが現実味を帯びてくるわけなのだが、その段階に至ってようやっと気付くことがあった。

果たして俺は華の楽しい修学旅行を邪魔する権利があるのだろうか。

まずこの告白は俺の後ろ暗さを解消するためのものであり、華本人にはまるで責任がない。

原因の一端は華にもあるかもしれないが、責任はないのだ。

そんな華に対して楽しい修学旅行を台無しにすることが許されるのか。

もしかしたら華のことだから表面上は「そんなこと別にいいのに、勘違いしてごめんね」なんて言ってくるかもしれない。

いや、むしろその可能性は高いとさえ言える。

だが心の奥底に残ったしこりは消えるわけもなく、あと1日の修学旅行の空気を大きく左右するだろう。

俺はそれに対して切り札になるような解決策も持っていないし、ましてや華に期待するのはいくらなんでも筋違いというものだろう。


それでもいい、何が起こっても受け入れられると言えるほど、俺は図太く生きてはこれなかった。

俺にとってはチャンスでも、何も知らない華にとってはピンチなのだ。

そんな相手の無知を逆撫でするようなチャンスを活かすことは、俺にはできそうになかった。



そして、昨日と同じように夕飯を食べ、昨日と同じように風呂に入り、昨日と同じようにロビーで華を待つ。

華も昨日と同じように黒磯と会話をし、昨日と同じように3人で風呂に向かったらしい。

今更一真に何をお願いすることもないだろう。

聞けば昨日は橘や黒磯と温泉卓球で盛り上がっていたそうだ。

きっと今日も3人で何かゲームでもするのだろう。

華も特に何も言ってこないのだから、きっとやることは昨日と同じ。

たった2日間の日課ではあるけれど、日課を崩してはいけないのだ。

日課を崩せば心が揺れる。心が揺れれば決心が鈍る。

修学旅行前はどうやって言おうどのタイミングで言おうということばかりに悶々としていたのに、いざそのタイミングになってみるとここで言わないほうがいいという結論に達している。

本当に不思議なものだ。

だが特別ヘタれてこの選択をしたわけでもなければ、誰かに強制されて選んだ選択肢でもない。

自らの自由意志で選んだこの決断に後悔はないし、修学旅行が終わったらすぐにでも言おうという新たな決意を生む切欠にもなった。

ずっと胸に描き続けてたストーリーが実現することはなかったけど、その時を待っていた心は、今は凪のように落ち着いている。

昨日と同じように、ドライヤーで乾かしたものの少しだけ濡れている髪をまとめながら、華はロビーに現れた。


「やっほー。今日も早いね」


戦う準備は、できている。

自分で書いておいてなんですが、後ろ向きの決断を前向きに行うって行為は結構好きです

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