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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第三章
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第Ⅰ神経


「なあ華、飯食ったあと暇?」

「んー、結衣ちゃんと葵ちゃんとお風呂に入りに行くけど。何かあった?」

「暇だったらゲームでもしないかと思ってさ」

「いいね! 何のゲーム?」

「だいぶ昔に流行った格闘ゲームっていうジャンルのゲームなんだけど、わかるかな」

「知ってる知ってる! お兄ちゃんがやってるのにたまに付き合ってた!」

「なら話が早いな。風呂上がった後ロビーで待ってるわ」

「インストールに時間かかったりする?」

「ちょっとかかるかも。今のうちに落としておくといいよ」

「わかったー。なんてゲーム?」

「"聖騎士達の宴"って奴。ゲーム自体は無料だから」

「ふむふむ。結衣ちゃん達も誘っていいかな?」

「あー……格ゲーだから2人用なんだよね」

「あ、そっか。それなら仕方ないか。それじゃあまた後でねー」

「おう」



スムーズに事が運び、ほっと一息胸を撫で下ろす。

作戦とは単純にゲームしながら話をしようぜ! ってことだ。

単純な上に確実性もないけれど、あの短時間で立てられる作戦といったらこれぐらいしかないのだ。

それに、ゲームの効果を馬鹿にしてはいけない。

もし誰かと仲良くなろうとしたら一番効率の良い方法は何か、それは「共通の作業をする」ということである。

その作業がより達成感のあるものならば尚更都合がよく、いわゆる「吊り橋効果」もこの共同作業を極端にした例の一つだ。

もちろん不快なものをシェアした場合にはその仲が冷えきることは言うまでもなく、あくまで終了後に楽しく語れるものに限る。

その点ゲームはコミュニケーションツールとして非常に有用だ。

多少の例外はあるものの、だれでも楽しく遊べて共通の作業をこなすことができる。

それに今回に限って言えば、格闘ゲームというジャンルを選んだことで自然に2人きりで話す状況を作り出すことができた。

正直華がのってくれるかどうかは未知数だったけど、結果オーライだ。

せっかく修学旅行に来てわざわざレトロゲームもどうなのよとは思わなくもないが、2人に限定できるゲームなんてそこまで数が多くないのだから仕方がない。

それに資料館での会話で、華がそういうゲームに多少なりとも造詣が深いという可能性を思いついたが、それもどうやらビンゴのようだ。

華のお兄さんには感謝しておかないと。




夕食後、華は橘や黒磯と連れ立って行ってしまった。

言葉通りこれから風呂に入るのだろう。

とりあえず、俺も風呂に入ってこよう。


風呂から上がると、ロビーにはそこそこ生徒が集まっていた。

当然といえば当然だが、うちの班の面子はどこにもいない。3人はまだ風呂にいるはずだしな。

一真には華を誘ったことを話したら、じゃあ俺の方でもなんとかしてみるという心強い返事をもらったが、盲目的に過信してはいけない。

軽くありがとうとは言ったものの、本当の感謝の言葉はことが終わった後でも遅くはないはずだ。

今は華が無事1人でここにやって来てくれることを祈りながら待つばかり。


30分ほど待った頃だろうか、果たして華はその姿を見せた。

特に誰かと一緒にいる様子もない。

見えないように小さくガッツポーズを決めると、できるだけ何気ない仕草を意識して手を振る。


「お待たせ!」

「全然待ってないけどね。じゃやるか」

「おっけー!」


まだしっとりと濡れた髪を撫で付けながら、華が隣に座ってくる。

こいつはどうしてこんなにもいい匂いを振りまいているのだろう。

同じ風呂あがりでも、芽衣に対しては何も感ずることはないというのに、華は全身からぼーっとするほどのオーラを沸き立たせてくれる。

頭では恋愛症候群のせいだとはわかっていても、心はそう動いてくれはしない。

情動が表情に出ないようにするだけで精一杯だった。


「どったの?」

「ああいや、なんでもない。やろうか」

「そうしよそうしよ。キャラどれにすればいいのかな」

「初心者はこのアーサーってのかガウェインってのが使いやすいよ」

「なるほどー。他にはどんなのがいるの?」

「ゲージ貯めなきゃいけないけど貯まれば強いランスロットとか、飛び道具が結構つよいパーシヴァルとかも悪くないんじゃないかな」

「じゃあランスロット使ってみる!」

「おっけー。じゃあ俺はこいつかな」

「あ、私のキャラ見て決めたでしょー」

「そんなことないって。とりあえずやってみようぜ」


俺が選んだキャラはユリエンス。

魔法攻撃が得意だが近付かれると耐久は紙なので、そこそこ上級者向けのキャラといえる。

ぶっちゃけ俺はこのキャラをほとんど使ったことがない。

だがまあそんなものでいいのだ。

初心者相手に自分の得意キャラを使ってボコボコにするのは後味が悪いし性格も悪い。

いわば接待ゲーム。

買った負けたのシーソーゲームを繰り返したほうがより会話も弾もうというものだ。



「……お、入った」

「…………あぶなっ」

「もうちょっとだったのになあ」

「いやいやまだまだ……あ、死んだ」

「よし。もう1戦いこうか」

「よっしゃ」


「……あれ、繋がらないか」

「……やたら発生早いな」

「ゲージ貯まってるからね」

「げ、ほんとだ。あー入っちゃった」

「いえーい連勝! もっかいやろうもっかい」

「次は勝つぞー」


「……よし決まったっ!」


「あ、これ繋がるんだ」


「ゲージ貯まってないと火力ないなー」


それからおおよそ30分後、そこには勝者と敗者の明暗がくっきりと分かれていた。


「……なあ華」

「どったの?」

「ちょっと格ゲー強すぎやしないですか」

「そんなことないよー。お兄ちゃんには全然勝てないぐらいだもん」

「お兄さんどんだけ強いんだ……」


10戦ほど対戦した結果は、それはもう見るも無残な結果だった。

1勝9敗。

しかも最初の1勝は、どうも華は1戦目を調整用に捨てていたらしく、1戦目の後半からは怒涛の追い上げで辛くも手にした1勝であった。

別に無理に勝つつもりはなかったけど、これは聞いてねえよ……。


「よし、リベンジ、リベンジだ!」

「いいよー。同じキャラでやる?」

「いや、俺はこいつを使わせてもらう」


そう言って俺が選んだのはロット王。

重量級で動きは遅いが、その分強烈な投げを繰り出す一発屋的なキャラだ。

その挙動は初見殺し的な側面もあり、初心者相手に使うのはマナー違反とも言える。

だがそれはあくまで初心者相手なら、という言葉に限る。

俺の手応えが正しければ、華はもう既に初心者の域にはいない。

ならば全力で相手をするのが筋というものだろう。

いざ尋常に、勝負!



「……勝てない、だと」

「あぶなかったー。そいつ一撃がすごい重いね。逃げるので精一杯だったよ。もっかいやる?」

「いや、いい……」


このゲームで一番うまい人間などと自惚れる気はないが、それでもそこそこにはできる自信があった。

しかし結果はどうだろうか。

画面の中には力尽き倒れ伏すロット王。

これが四条院……つよい。


「ほんっと楽しかったね! またやろうよ!」

「その時は手加減よろしくな……」

「えー、青葉くん結構強いから下手に手加減したら負けちゃうもん」

「そう、か」


百獣の王は小さな兎を狩る時にも全力を尽くすという。

手を抜かないことこそが華の強さの秘訣、なのかもしれない。


さて、いささか予想外の展開はあったものの、格ゲーは話題の前座作りという点では非常に有効な働きをしてくれた。

ここからは俺の舞台(ステージ)だ。



「そういや華、先祖返りって知り合いにいたりするか?」


あくまでさり気なく、本題を切り出すことにした。


相変わらず話は進みません

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