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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第三章
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ミトコンドリア


「まず何から乗る?」

「あんまり揺れない奴。昼飯が逆流したら大変だし」

「じゃああのフリーフォールなんかいいんじゃないですか! 今なら空いてるからすぐ乗れますよ!」

「お前は何を聞いていたんだ」


それに今すぐじゃなくても待ち時間なしで乗れるぞ。

だって人っ子一人いやしないもの。

いや、人がいないというのは言い過ぎか。訂正しよう。

客が俺たち以外にいないのだ。

従業員はいる。

一応各施設の入り口に一人ずつは立っているのが見え、ようやく営業中だとわかる程度にはいる。


しかし客がいない。

客がいないので当然乗り物やアトラクションも稼働していない。

普通、あまりに寂れたこういうテーマパークに対して人は言い知れぬ恐怖を覚える。

何もないからこそ何かある。

人を寄せ付けない何かがあるからこそ、こうやって寂れているのだと本能的に知っているからだ。

しかし一度中に入ってしまえば、そんなある種の恐怖はどこかへと飛んでいってしまった。

俺達がいなくなればすぐにでも本日の営業を終了してしまっても良さそうなほどに閑古鳥が鳴いているというのに、ただひたすらに客を待ち続ける従業員。

施設のところどころに老朽化は見られるものの、肝心の部分はしっかりと手入れがなされておりすぐにでも動き出そうとしている。

園内にはゴミ一つ落ちておらず清掃が行き届いていることも伺える。

寂れた施設であるとはいえ、いやむしろ寂れているからこそだろうか、従業員の仕事にはこだわりが感じられる。

そしてそれを見た俺の感想は、「つらい」の一言に尽きる。

なまじっか仕事が丁寧なだけに、それを見せる相手がいないというこの状況が見ていてとてもつらく悲しいのだ。

どうして夢をもらい遊んでストレスを解消する場所であるはずのテーマパークで、こんな得も言われぬ感覚を味わわねばならんのだ。

もうその事実ですらつらい。


「それじゃあボクらはそこら辺で休んでようかな」

「あ、そうだったね。うーん、それじゃせっかくだし、時間が無くならないうちにホラーハウスに行っちゃおうよ」

「まあ、それが目的だしな」


当初の予定通り一真と橘はお留守番だ。

実際のところわざわざホラーハウスに行かなくても、この遊園地そのものが下手なホラーハウスより怖いんじゃないだろうか、という疑問は置いておくとしよう。

ここにあるのは作りものではない恐怖なのだから。

なんでまだ営業できてるんだろう、ここ。


「それじゃあどこから行こうか? さすがに全部は回れないよねー」

「頑張っても4つが限界ですよねぇ」

「青葉くんはどこか行きたいところないの?」

「特にねえわ。黒磯とか目付けてたところあるんじゃねえの」

「正直なところ、全部回りたいぐらいなんですよぉ」


まあそうだろうな。

わざわざこんな辺鄙な場所を選んできたのだし、回れる限り回りたいというのが人情だろう。

とはいえ集合時間のことも考えるとそうそうのんびりもしていられない。

早いところ決めてしまわなければ。


実は事前のプランで回る場所を3箇所は既に決定していたのだ。

しかしこの予想外にガラガラな状況を見る限り、待ち時間は考慮に入れなくてよくなったのであと1箇所余分に回れる計算になる。

こうなると「どこに行くか」ではなく「どこに行かないか」を選ぶことになり、元より全てのホラーハウスに興味があった黒磯からすると、苦渋の選択を強いられることになる。

5種から1種選ぶところなんかまさに苦渋の選択っぽい。



それら5つの施設は次のようになっている。


・「江戸百物語」

400年前の江戸の昔、強い怨念に囚われたまま死に幽霊となったものがいる。彼女はその怨念により怪談として現代に蘇る、かもしれない。

 

・「ブラドの呪い」

東欧の吸血鬼が住むと言われる城を舞台に、串刺しになった死体をかき分け進まなくてはいけない


・「死立髑髏病院」

不祥事や医療事故により多数の患者が亡くなったと言われるその病院では、今もどこかで患者のうめき苦しむ声が聞こえるという


・「サルガッソーの番人」

闇夜の海に浮かぶ幽霊船は、数多の船を沈めていった。そしてその船もまた幽霊船となり、道連れの仲間を探し夜な夜な航海を繰り返しているのだ


・「墓荒らしの報い」

その墓に番人はいない。何故なら死者たちが自らの身を自ら守ることができるため、必要ないのだ。一度邪な考えを持ったものが墓に足を踏み入れるなら、彼らも黙っていないだろう



なんというか、意外と凝っている。

そりゃ一時期はホラーハウスで有名になったぐらいだから当然っちゃ当然なのだが、軽く説明を読んだだけでそれなりに興味が湧いてくる。

確かにここから一つ行かないところを決めろっていうのも酷だよなあ。


「ねえ、一つワガママ言っていいですか?」


それまでずっと考え込んでいた黒磯が、意を決したようにスッと立ち上がった。

もうこのファナティックランドに来た事自体が最高のワガママなのだから、今更といえば今更だ。

横目に華を見ると、深く納得した様子で嬉しそうに頷いている。

お前にはこれからこいつが言うことがわかるとでも言うのだろうか。

いや、俺もなんとなく予想はついているのだが。


「とりあえず言ってみろよ」

「いいんですか!?」

「聞いてから決めるさ」

「それじゃあ……全部回りたいです!」


まあそうだろうな。

結局そういう結論を出すしかないだろう。それが人情ってもんだ。


「でもどうすんだ? 時間的に4つが限界だろ?」

「走ります!」

「走る」

「ダッシュで探索します!」

「ダッシュ」

「それでそれで、頑張って時間を短縮します!」

「頑張る」

「ダメ……ですか?」


なんという脳筋理論。

走る! ダッシュ! 頑張る!

そりゃ全力で走ったら5つくらい余裕で回れるかもしれないけどさあ。

そういうあざとい上目遣いされてもなあ。


「華はどう思う?」

「私も頑張る!」


あ、ここにも脳筋がいた。

もう2人は臨戦態勢に突入してしまっている。

よーいどんの掛け声さえあれば今にも走りだしてしまいそうだ。

これ、俺が断ったら完全に悪者だよね。


「しゃーない、行くか」

「ありがとー! 華ちゃんもありがとー!」


そう言ってブンブンと握手で腕を振り回す黒磯。

こいつもこいつでパーソナルスペースが狭い。


「そうと決まったら早速行くぞ、はいよーいどん!」

「え、え、ちょっと待ってよー!」

「華ちゃんも早く早くー!」


そう言って俺たち3人は一番近くのホラーハウスへと走り出していく。

青春、してるなあ。



ちなみに当初の目的である華とゆっくり話す時間を取ることは出来ませんでした。

そりゃ終始ダッシュしてたら無理に決まってるよね。


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