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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第三章
36/67

空の巣症候群

出鼻を挫かれたように見えるが、まだ旅は始まったばかりだ。

新幹線では辛酸を嘗めることになったが、何もチャンスはそこだけではない。

むしろ誰も最初から成功するなどとは思っちゃいない。

数ある選択肢の一つが潰れただけで、残りの選択肢はそれこそこの修学旅行の時間分だけ残っている。

残り2泊3日、その残りのチャンスで結果を出せば良いのだ。


新幹線を降りた次のチャンスはバスでの移動。

初日の午前中は地元の郷土資料館に行き、午後から自由行動でのファナティックランドだ。

資料館まではバスで30分程度。30分もあれば十分話ができる。

次こそは。


「……なんでこうなったんだ?」

「何の話だ?」

「俺は華と話をする予定だったんだけど」

「しゃあないっしょ。黒磯が『華ちゃんと一緒がいい!』って言い出したんだから」

「納得いかん」

「諦めろ」


2人掛けのバスの座席は、俺と一真が並んでいた。

いや一真が嫌ってわけじゃないけど、もうちょっとこう、あるでしょ。

せめて勝負の土俵に上がらせてくれないか。

だいぶ前の方の席に見える華と黒磯。

ぶっちゃけ見なくてもキャーキャーと黄色い声で大騒ぎしているので大変わかりやすい。

てか黒磯は酔いやすいから前の方に座ったんじゃなかったのか?

あの調子で喋り続けられるなら、どこに座っても車酔いとは無縁そうに見えるが。

ちなみに橘は先生と2人掛け。

さすがに楽しそうには見えないが、かといってつまらなそうというわけでもない。至極いつも通りの表情だ。

イメージ通りどこへ行ってもやっていけるタイプか。


どこへ行ってもやっていけるタイプってのは2種類居て、自分が変わらず環境を変えるタイプと環境に合わせて自分を変えるタイプの2種類がいる。

まあそれぞれで長所短所もあるからどちらがいいとも言えないのだけど、華と橘はまさに対照的なその2つのタイプだ。

こうして見ると華も出会った時とは相当印象が変わってきている。

当初はデザイナーズチルドレンに怯える内気なネイティブという印象だったのに、今じゃそんなことはお構いなく誰とでも気軽に会話できている。


これ、今更俺要らないかもな。


そう思ったら急に3つの感情が心を駆け巡った。

一つは安心感。

華がネイティブ(だと思っている俺)に対してしか心をひらいてこなかったことに対して、今回の友達作りは始まった。

それが今じゃ自分から積極的に話しかけようという気概すら見える。

もう心配することはないだろう。

そしてそれと同時に二つ目は寂しさ。

まるで、独り立ちした子供が居なくなった我が家を見て急激に寂しさを覚える中年期の親、とでも言えばいいか。

とにかく自分の手を離れていくその姿に寂しさを覚えないほうが無理ってものだ。

そして三つ目。

これは……まあ、相当ネガティブな感情だ。

緑色の目をした魔物が、心にじっとりとまるで一体化しているかのように張り付いている。

ほんと、恋愛症候群ってのは厄介だ。



さて、バスでは失敗したが次は資料館の見学だ。

これは班行動であり、同時に昼食も兼ねているため喋るチャンスはいくらでもある。

いざ参らん。


「ねえねえ見てよこれ、昔の人こんなパソコン使ってたんだって!」

「なになに?

『当時のPCは重量にして10kgほどであり、とても持ち運び出来るものではなかった。その後重さが1kgほどの新型PCが誕生したものの、その大きさからやはり持ち運びには相当不便であったという。現在のような仮想空間にインターフェイスを出現させる方式は、たった50年ほど前に開発されたばかりである』

 だって」

「ほんとすごいねえ~」


正直何がすごいのかがよくわからん。

歴史的に価値があるらしい骨董品のPCが展示されているが、目まぐるしくモデルチェンジが行われているせいでどれがどれだかよくわからないのだ。

PCなんざ使えればいいやと思っているし、自分が生まれる前に起きた技術革命にも正直興味はない。

歴史の授業でテストの時に覚えておけばそれで十分だろうさ。

そして俺が見るべきはそんな過去の遺物よりも今の現物である。


「なあ華」

「んー」


華はもう班員そっちのけで20世紀から21世紀の歴史的資料に興味津々だ。


「そういうの好きなのか」

「うちの家って結構古い家系だからさ、こういう感じの物がまだ残ってるんだ。おばあちゃんちで見た奴とかまさにこういうのでさ、懐かしくなっちゃった」

「楽しそうだな」

「そうだねー。確かに懐かしいってのもあるけど、私ほんとはこういうの好きみたい。あ、こっちは電話だよ! テレビ電話ってこんな昔からあったんだー」

「それで華」

「見て見て、これスマートフォンってやつじゃない? うわ昔の人はこんなすぐ壊れそうなもので電話してたんだ。すごいなあ……。あれ、そういや青葉くん何か言った?」

「……いや、華が楽しそうならそれでいいよ」


知的好奇心を邪魔してはいけないな。

こんなにも楽しそうにしている華に対して俺のどうでもいい話をしようというのは憚られる。

引き際を見極めるのも名将の条件である。

まあ昼ごはんの時にでも話してみればいいや。



そして昼飯。…………さっきのは嫌なフラグだったのかなあ。


「それで何よりすごいのがゲーム機でさ、おばあちゃんちにあるゲーム機、21世紀のなのにまだ動くんだよ! この資料館にも壊れちゃったのしか置いてないのに」

「華ちゃんの家ってすごいんだね! そのゲーム機って150年前とかだよね。なのにまだ動くって、よっぽど大切に使われてたんだねぇ」

「そんなことないよ~。お父さんとか小さい頃いっつもゲームしてておばあちゃんに怒られてたって言ってたし、きっといっぱい使いまくったのが逆によかったんじゃないかな」

「でもでも、それならそのおばあちゃんの家、もしかしたらこの資料館よりもすごいお宝が眠ってるかもしれないよねっ!」

「たしかに……! 今度探してみなくちゃ!」


女3人寄れば姦しい、とは誰が言ったか。

確かに女が3人いるが橘はほとんど、というか全く会話に参加していない。

当然俺と一真もだ。

波長が合ったのかどうかは知らないが、華と黒磯がひっきりなしに喋っているせいで口を挟む余地がないのだ。

これ、段々雲行きが怪しくなってきたな。

果たしてホテルに着くまでに、まともに華と会話できるのだろうか。




不安を抱えたまま本日のメインたる目的地、ファナティックランドへと到着した。

事前に話を聞いていた限りでは特に何の変哲もないテーマパークであるらしいのだが……。


「なあ黒磯」

「なんですかぁ?」

「本当にここで合ってるのか?」


目の前に広がる風景は、ゴーストタウンそのものだった。


「もちろんです! この寂れた空気がいいんじゃないですかぁ」


いや、ここ寂れたっていう以前に営業してんのか?

まず俺たちを出迎えるのは錆付き色褪せた看板。

最近の加工技術なら100年は錆びない金属なんて余裕で出来るはずなのだが……。

100年前に作られた? いやいやまさか、ね。

そして平日ということを考慮したとしても、人の声が全く聞こえてこない異様なまでの静けさ。

本当にここは現代の日本なのだろうか。

来る途中にくぐってきたトンネルで100年くらいタイムスリップしたんじゃないだろうな?


しかし、ある意味納得したこともある。

そりゃこんなテーマパーク、クラスで話題にも上らねえよ。

ホラーハウスがテーマになっていると聞いているが、これはもうホラーパークと呼んでも差し支えないだろう。


「……ほんとにここ入るの?」

「もちろんです!」


先程と一言一句変わらぬセリフを、やはり先程と同様自信満々に答える黒磯。

なあ、その自信はどこから来るんだ?

俺達が本当にこのファナティックランドを気に入ると思ってるのか?

思ってるんだろうなあ。

残りの3人を見ると、だいたい俺と似たような感想を抱いたらしい。

ただし橘に関してはぼそりと「本当に安全なのか……?」と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

その気持ち、痛いほどよくわかるぜ。


とはいえこのままランドの入り口で突っ立って居ても何も始まらない。

どうやら受付にはスタッフがいるようだし、一応営業してはいるようだ。


「じゃあ、入りますか」


誰からともなくそう声に出して、俺達4人は恐るべき魔窟へと足を踏み入れることになったのだった。


油断すると23世紀という設定を忘れそうになるので確認の意味も込めて

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