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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第三章
33/67

Fight or Flight

巽ファナティックランド。

俺達が修学旅行で向かう巽市にあるテーマパークだ。

創業は2180年と結構な老舗で、累計来場者数は3000万人を超えている。

22世紀終盤に起きた「テーマパークルネッサンス」に乗じて客足を伸ばし、日本のテーマパークの中でも五指に入る程の来場者数を叩きだした。

目玉は世界最大のホラーハウスや廃病院をそのまま移築したホラーハウスなどを含む5つのホラーハウスだ。

ファナティックの名の通りそこを訪れるものは熱狂的なリピーターとなり、時には狂信者として誰に言われずとも自ら宣伝して回ったという。

そのおかげか広告費に割くべき費用を園内の施設の拡充に回せたため、より一層動員が増えるという好循環を生み出した。

しかし23世紀に入りオーナーが引き継がれると、先代のオーナーを追うように段々と評判も衰え、今では閉園寸前とまで噂されている。


以上ネットの検索サイトから拾ってきた情報より。



だいたいの話は黒磯が話してくれたが、さすがに俺たちが生まれる前に衰えだしたテーマパークなんて知っているわけがない。

というかなんで黒磯はこんな変な場所を知っていて、あまつさえここに行きたいなどと言い出したのだろう。

これが創作物の中のお話なら「実は生き別れになった家族と最後に言った場所が~」とか「死んだ妹がずっと行きたいと言っていた場所で~」とか、そういう理由があるかもしれない。

だがここはそんなフィクションの世界でもなければ語り継がれる史実でもない。

もうちょっと現実的な予想を立ててみるべきだ。


「黒磯ってホラー好きだったんだ」

「そうなんですよぉ。ホラー映画とか見るとすっごい怖いんですけどー、でもそれでも見ちゃうっていうか。あ、もしかして青葉くんもホラー好きだったりします!? 仲間ですね!」

「いや別に」

「そうですか……」


そんな残念そうな顔をされても興味が無いものはないから仕方がない。

ひとまずこれで黒磯がファナティックパークに行きたがる理由も判明した。

正直わざわざ修学旅行の自由時間を使ってまで行く場所か? という疑問は残るが、元々大した予定もなければ絶対に行きたくないというわけでもない。

ひとまずこのファナティックパークを中心に行動計画を立てるのがいいだろう。

しかしそうスムーズに物事が運ばないのがこのメンバーである。

話を聞いていた中から二つの声が上がった。


「俺はホラーハウスはちょっと……」

「ボクもできれば遠慮したいかな」


一真と橘だ。

正直言って意外も意外だ。

一真のほうはわからなくもない。

誰だって苦手なものの一つや二つあるだろうし、一真みたいな武闘派は幽霊に弱いものと相場が決まっている。いやそれが一真が怖いもの苦手っていう理由になるわけじゃないけど。

まあとにかく、ホラーハウスを怖がる様は普段の一真から想像できるキャラクターとそう違わない。


だが橘はそうじゃない。

普段見せる「ボクは世界の仕組みなんてあらかた知っているよ」みたいな態度は影を潜め、本気で嫌そうな顔を見せている。

なまじ演技力があることを知っているだけに、こういう時も演技じゃないかと疑ってしまうが、他の誰かが怖がる様なんてどう考えても彼女の大好物だ。

演技をする理由が見当たらない。

超常現象の類は全部プラズマで説明できるとか言い出しそうだし。


「へー、結衣ちゃんが苦手って意外だなー」


華も俺と同じ感想を持ったらしい。

やっぱり華から見ても橘はそういうキャラということでいいようだ。

しかしそのキャラクターを把握している割には、よく今までと変わらない態度を続けられるな、と疑問にも似た感心を覚える。

少なくとも俺は、あんな裏表を見せられた日には以降の態度がガラッと変わること請け合いだ。

初めは橘の裏の顔しかしか知らなかったからこそ、そこそこに付き合えているというのに。


「苦手というか興味がないというか……だいたい人間が恐怖を感じる仕組みなんて既に交感神経系の過剰な興奮ということで話はついてるし、同時に分泌される脳内麻薬で高揚感を覚えているに過ぎない。そんないくらでも代用できそうな刺激に頼るなんて実に非効率的じゃないか。第一ボクらはお金を払ってそこに入るんだ。それの対価が恐怖だなんて正直納得行かないね。だって恐怖なんて感情は人間が太古の昔から外敵より逃れるために発達させてきた感情だ。それなのにわざわざその外敵を想起させる恐怖を自分から味わいにいく? 全くこれは非効率を通り越して不条理だ。理解に苦しむよ」

「怖いの?」

「……どうしてキミはそうやってせっかくオブラートに包んだボクの言葉をそうバッサリと切り捨てるかな」


随分と脂っこいオブラートもあったもんだ。



しかしそうなると少し困るな。

せっかく5人で班員が決定したと思ったのに、早速意見が真っ二つに分かれてしまった。

人数的にはホラーハウスに行く派が3人と有利だが、たった5人の中で多数決をしても正直意味が無い。

多数決が効力を発揮するにはある程度の人数が必要だし、衆愚を避けるためにもあまり多人数でもいけない。5人は少なすぎるのだ。

それにいくら橘に一泡吹かせられるチャンスとは言っても、向こうに完全に非がない状態で嫌がるホラーハウスに連れ込むなんて良心の呵責に耐えかねる。

何より一真が嫌がっているのだから、俺はそれを強制したいなどとは思わない。


「結衣の言葉に乗るみたいで申し訳ねえけど、俺もきついわ」


一真もこう言っていることだし、仕方がないので黒磯には諦めてもらうしかないだろう。


「なあ黒磯、そういうわけだから別のところにしないか?」

「えぇ~やだ! 絶対行くって決めてたんだもの!」

「でも一真も橘も嫌がってるし、連れてくの可哀想だろ」

「そんな怖くないから! 絶対大丈夫だよ!」


玄人の言う「簡単だよ」ほど信用してはいけない言葉もない。

ホラーものに慣れ親しんでいるであろう黒磯の言う「怖くない」なんて、激辛料理で舌が壊れた人間の言う「辛くない」と同じ扱いでいい。


それにしても、事態がどんどん面倒な方向へ傾いていく。

当初は華と2人きりになれる状況を作るために班を作ろうと思っていたのに、いつの間にかホラーハウスに入る入らないで揉めている。

計画を立てている段階でこれなのだから、実行段階に入ったらまたいくらでも厄介事が湧いて出てくるだろう。

もちろんその全てに対処する必要もなければ余裕もないのだが、ある程度の数は処理しなければならない。

その処理しなければならない厄介事の質が今の話のようなものばかりなら、正直神経がどれだけ図太くとも擦り切れて無くなってしまう。五劫の擦り切れだってそう長くは持たないだろうさ。


そんなにっちもさっちもいかない状況に対して「ほんとに俺がこんだけ頭を悩ませる必要なんてあるのか?」と疑問を浮かべていた時に、華が何気なしに提案した解決案はコロンブスの卵もかくやという内容だった。


「それじゃあ2つに分かれたらどうかな?」

「2つ?」

「うん。私と青葉くんと葵ちゃんはホラーハウスに行く側で、一真くんと結衣ちゃんは別のとこに行くの。テーマパークなら他のアトラクションだってあるよね?」

「えっと、うん、うん!そうそう! 他にも絶叫コースターとか巨大フリーフォールとかいっぱいあるよ!」

「結局絶叫系なのは変わらないんだ……」

「あ、もちろんメリーゴーランドとかコーヒーカップとかもあると思うよ。……あるんじゃないかな」


なんでそこだけ自信なさそうなんだよ。さては絶叫系のものにしか興味が無いからそれしか調べてなかったとか、そういう話か。


ともあれ、華の案は言われてみると名案だ。

確かに5人班で行動しろとは言われたが、5人とも同じもので遊べとは一言も言われていない。

ファナティックランドに行くという共通の行動をした後はその中でならどこで遊ぼうと自由というものだ。

でも何か引っ掛かるような。

何か致命的なことを忘れているような。

うーん……?


「ねえねえ、2人ともそれでどうかな?」

「ジェットコースターぐらいなら構わんぞ」

「正直ボクはどっちも遠慮したいけど、ひとまずホラーハウスに入らなくていいならそれに越したことはないよ」

「よかったぁ~。それじゃそれで決まりで! みんなありがとー」


うん、良かった良かった。

これで万事解決、皆が笑顔でハッピーに終われる。

仲良き事は美しき哉。

昔の偉人もいいこと言うもんだ。




俺がその致命的な事実に気付いたのは、次の時間のホームルームも終わり班分けが決定してからだった。


これ、華と2人きりになれなくね?

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