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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第一章
3/67

非同一性

ネイティブとデザイナーズチルドレンのお話

一目見た瞬間から気付いていた。


何もネイティブとデザインドは仲良くなってはいけない、などという決まりはない。

大昔に存在したカースト制度じゃあるまいし、生まれで人を差別することなど不合理極まりない。

そもそもそんな差別が存在しているなら同じ学校で学ぶことなど出来やしないだろう。

法の上でネイティブとデザインドは平等だ。


だが、人々の意識はまた別の話だ。

少数のネイティブに対する差別意識はどうしようもなく存在しているし、ネイティブにだって少なからず選民思想が息づいている。

理屈を超えて相容れないのだ。

それに、デザイナーズチルドレンが恋愛を忌み嫌うのと同じくらいネイティブは恋愛を神聖視している。

恋愛が一つの疾患として制定された時だって、ネイティブの団体が激しい反対をしたのだった。

最初は法律で恋愛自体を規制しようという動きもあったらしい。

だが、余りに激しい反対運動にそれは断念された。

彼らが次に目をつけたのは医学だった。

医学は法曹ほどに開かれておらず、疾患としての認定に対して、それほど激しい反対は起こらなかった。

勿論何もなかったわけではない。

一部の精神科医は「人間の思考を制限する悪意ある疾患認定だ」として猛烈に反対した。

だが、既に人口の圧倒的多数を占めるようになったデザイナーズチルドレンに対して、その反対はあまりに無力だった。


「いや、ネイティブを差別するつもりはねえけどさ。でも、ネイティブだぜ」

「そうだな」

「恋愛自体は向こうも歓迎だと思う。だってネイティブだしな」

「だよな」


疾患の制定を進めていた人々は、反対運動に対して一つの落とし所を用意した。

それは「ネイティブは恋愛をしても問題ない」というものだった。

そもそも病気とは正常ではない状況を指すものだ。

賛成派のデザイナーズチルドレンには「ネイティブは原始的なため、恋愛は彼らの中では正常である」と。

反対派のネイティブには「あくまでデザイナーズチルドレンが自主的に認定したものである」と。

そう解釈するように委ねた形となった。

結果として、疾患は制定された。


「でもさ、お前が恋愛ってのは、無理だろ? だって、お前デザインドじゃねえか」


しかし、それはネイティブとデザインドの溝を更に深めるものだった。

ネイティブはネイティブ同士で恋愛をして子供を作り、

デザイナーズチルドレンはデザイナーズチルドレン同士でよりよい遺伝子を求めて子供を作る。

両者が交わることは、決してない。


その日、彼女に話しかけることはできなかった。

後ろからぼんやりと眺めるばかりで、何か話しかけようという気も起きない。

彼女がネイティブであることに怖気づいた、とは違う、と自分では思っている。

確かにネイティブと付き合いがある、というだけで眉をひそめるデザイナーズチルドレンも少なくない。

けれどこうしてクラスメイトとして仲間になった以上、ネイティブであろうがどうだろうが、対等に付き合っていくべきだと俺は思う。

きっと、クラスの奴らもほとんどがそう思っているはずだが。

しかし物事はそう単純じゃない。

何せ彼女は転校生だ。その事実がネイティブという特異性をより一層際立たせる。


何を話しかけるべきか言葉が見つからなかったと。

気軽に話しかけていいのかわからなかった。

下手に話しかけて変に目をつけられたくなかった。


理由〈言い訳〉を探せばいくらでも出てくる。

だがそれは俺だけではない。

クラスメイトにも、彼女に話しかけようという勇気のある人はほとんどいなかった。

中には何人か、責任感のある人が会話をしようと試みた。

しかしそれはすげなく断られ、後には気まずい空気だけが残った。

ネイティブからもデザインドとは仲良く出来ない、ということなのだろうか。


それにしては当の本人はさして不機嫌そうな様子もなく、周りの空気など何処吹く風だ。

デザイナーズチャイルドが苦手というよりは、そもそも誰かとコミュニケーションをする気がないのではないか。

周囲の様子など我関せずといったその態度は、そんな風にすら見える。

それはそれで俺にとっては好都合なのかもしれない。

だって、恋愛ってのは二人でやるものだ。

彼女と仲良くなれないのなら、この恋愛症候群だってそのうち消えてしまうかもしれないじゃないか。

違う人間同士ってなかなかうまく行かないですね

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