砂粒小体
「なあ芽衣、別にそこまでしなくてもいいんだぞ」
「勘違いしないように言っておくけど、私この話にはそれなりに興味があるの」
「というと?」
「いっつもいっつも話聞かされるだけで、実際にはその四条院さんとか橘さんって見たことないし。さすがにそうやってよくわかんない人の話されてもふわっふわでついてけないのよ」
「いやだからってわざわざ会わなくても」
「わたしが会いたいって言ってんの」
「あ、はい」
まあ理屈自体は至極真当だし芽衣の言い分は全く間違っていない。
でも気が進まないなあ……。
「そういやお前一真は会ったことあるっけ」
「何回か兄ちゃんと一緒にいるの見たけど、挨拶くらいで話したことはないかも」
「一真と会うのまでは別にいいんだけどなあ……」
「じゃあ他の二人はダメなの?」
「華は、まあまだマシか。でもお前が先に会うのはダメ」
「なんで?」
「兄妹なのに兄と妹がそれぞれネイティブとデザイナーズチルドレンっておかしいだろ」
「あー、そういえばそういうめんどくさい話になってたんだ」
こいつは何を聞いていたんだ。
俺がどうやってカミングアウトしようって話なのに、先にバラしてどうする。
「じゃあ橘さんのほうは?」
「それは……お前が悪影響を受けそうな気がする」
「そんな悪い人なの?」
「犯罪とかしてるわけじゃないけど、芽衣はあいつの真似しそうで嫌なんだよ」
「つまりわたしと気が合いそうってことだ」
「そうなる、のか?」
「きっとそうだよ。これは是非とも会わなきゃいけなくなってきたね」
うーん、これは言っても聞かない気がする。
だからといって引きあわせたくないというのも本当だし、もし出会ってしまった場合の惨状が容易に想像できてしまう。
これ以上面倒事は増やしたくないぞ。
「でもさすがに橘と一真だけ連れてくるってのも不自然だぞ」
「いいじゃんいいじゃん、これを機会にパパーッともう全部四条院さんに話しちゃってごめんなさいって言えばきっと許してくれるって!」
「お前面倒くさくなってぶん投げただろ」
「じゃーどうすんのさ。とりあえずごめんなさいって言うしかないっしょ」
「それは、まあ……」
そう言われると反論のしようがない。
そもそもうまい話が思いつかなかったから芽衣に相談したのだし、素直に謝る以上の最適解もなさそうだ。
まあそうなるよなあ。誠意を見せなければ。
言葉を尽くせば誠意になるのだろうか。
しかし誠意とは言葉でなく金額なんていう話も……いやいやいやいや、中学生に何を求めてんだ。
そういういやらしい話は余計事態をややこしくするだけだ。
シンプルにいこうシンプルに。
「なあ芽衣」
「なにさ」
「紹介してやってもいいけど条件がある」
「私が何かするってのはやなんだけど」
「ちゃんと俺がネイティブじゃないって華に言えるまで待ってくれない?」
「やだ」
即答だった。
えぇ……。
「いやいやさっき話した通り、お前が俺の妹だって言ったら俺がネイティブじゃないって一瞬でバレるじゃん! だからちょっと待てって言ってるだろ」
「別に妹じゃなくても従姉妹とか言って紹介すればよくない?」
「変わんねーよ!」
ほんとにこいつは何を聞いていたのだろう。
「じゃわたしが代わりに兄ちゃんが嘘ついてましたごめんなさいーって言う?」
「いやそれはさすがに……」
さすがにそれは元々砂粒のようだった兄の威厳がいよいよどこかへ消え去ってしまう。
「もう何なの? あれもダメこれもダメで何にも出来ないじゃん。私に何をさせたくて相談したのさ。もうこれ以上はさすがに付き合ってらんないんだけど」
自分の行動を省みれば、まさに芽衣の言うとおりだった。
芽衣は芽衣で自分なりになんとか解決策を考えてくれていたのだろう。
半分くらいは自分の好奇心もあったかもしれないが、そうやって無理矢理にでも優柔不断な俺を突き動かそうとした気持ちに嘘はないだろう。
ダメな兄でごめんな。
「わかった」
「お、じゃあ紹介してくれるの? ひとまず橘さんと岸さんどっちかでいいよ。個人的には橘さんがいいんだけど」
「いやそれはない」
「ぶーぶー」
「代わりに華を紹介してやる」
「お、おー、お?」
「なんだ変な声だして」
「ってことはつまり?」
「ああ、ちゃんと言おうと思う」
「そう」
俺の言葉と顔を見比べて芽衣は満足そうに頷いたっきり、こちらを振り返ることはなかった。
悪い事したと思ったらさっさと謝った方が拗れなくていいですよね




