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恋愛症候群  作者: 真殿悠
幕間
26/67

握雪


冬。

街がより深い眠りにつく季節。


そんな真冬の12月に、夜道を歩く一人の少女がいた。

年の頃は7つか8つほどだろうか。

ピンクに染まった上着を着込み、右手に何かの箱を抱えて歩いている。

夜道といっても時刻は5時を回ったばかりであり、人通りはチラホラと見受けられる。

その道行く誰もがどこかせわしなく、師走の忙しさをその体で表しているようである。

人々が雪を踏み固めるキシキシという音も、既に降り積もった雪が吸い込んでいく。

おかげで彼らがいつもよりも早める歩みですら、静かな街を目覚めさせるほどには至らない。


しかしピンクに包まれた少女はそんな大人たちの都合など何処吹く風、上機嫌に肩で風を切り歩いていた。


「楽しみだなークリスマス!」


そう、少女はこれから少し早めのクリスマス会へと出席する予定なのだ。

紅潮した頬は雪に照り返された街灯によりあたかも瑞々しい果物のように輝いている。

街を白く染める雪は、まるで彼女をステージへと誘うスポットライトのように光の道を作り出す。

今、この瞬間、少女は、この世界でたった一人の主演女優であった。



「おじゃましまーす!」

「あらいらっしゃい! うちの環も楽しそうに待ってたのよ」

「これ、おじゃまするときに渡しなさいってお父さんからです」

「まあ! ありがとうね。後で俺のお電話しなくちゃ」


手に持った箱をさっさと渡してしまうと、少女はすぐに友人の部屋へと駆け上がる。

もうこの家には何度遊びに来たことか。

勝手知ったる我が家と言っても間違いじゃないかもしれない。

勿論少女がその年でそんな言い回しをするわけもないのだが、あたかもそう言い出さんばかりに遠慮無く家を駆けまわる。

子供特有の無邪気さ故許されているからそんなことが出来るのだ、と付け加えても良いが。

そして少女はそのまま自分を待っているであろう友人の部屋を開け放った。


「タマちゃんメリークリスマース! それとお誕生日おめでとー!」

「えー」


せっかくお祝いの言葉をもらったというのに不満気な部屋の主。

ノックもなしにドアを開けられたのが不満だったのだろうか?


「どうしたのタマちゃん。クリスマスだよお祝いだよ! しかも今日はタマちゃんの誕生日だよすっごいお祝いだよ!」

「クリスマスが近いとすぐそうやって誕生日とクリスマス一緒にされちゃうんだもん。ちゃんと別々にしてほしいなあ」


12月生まれ、特にその後半に生まれた子供にはとてもよくある話である。

わざわざ2回もパーティーをするのも手間なので、一緒くたに祝われてしまう。

祝うほうからすれば楽でよいのだが、祝われるほうからすればどこか損した気分になる。

大抵は「その分ちゃんとプレゼント奮発するから!」という決まり文句でなだめすかされるのだが、そういう問題ではないということもお互いわかっている。

しかしわかっているからこそままならぬ時もあるのだ。

こうやって子供は少しずつ大人になっていく。


「でもそれってサンタさんから誕生日プレゼントもらえるってことでしょ!? うらやましいなあ。私のサンタさんそんなに良い物くれないんだ」

「あ、ああ、サンタさんね。そうそう。でも私のところはそろそろサンタさんも引退時かなーって……」

「え! サンタさん辞めちゃうの!? えぇぇ……」

「ああ、違う違う、うちはもうサンタさん来ないかも、ってこと。あくまでうちだけのお話」

「よかった~。もうサンタさん居なくなっちゃうのかと思ったー。もうタマちゃんびっくりさせないでよぉ」

「ごめんごめん」

「でもそうすると、タマちゃんはもうサンタさんからプレゼントもらえないの!? えぇ~」

「ほらそんな泣きそうな顔しないの。まあ、うちは去年色々あったし、今年からは代わりにパパがプレゼントくれるから」

「そっか~よかった~」


心底安心したように笑顔を取り戻した少女と、その顔を見て複雑な顔をする少女。

対照的な二人の間には、一段の段差があった。

それはたった一段ではあるが果てしなく高く、登った先には少し寂しい現実が待っている、いわゆる大人の階段という奴だった。

この子に本当のことは教えられないな。

そう心に誓う部屋の主であった。






………………

「っていうのが私のクリスマスの思い出かな」

「純粋な子供だったんだね」

「そうだね。純粋、だったね」


教室の窓から雪が吹きすさぶ外の景色を見る2人。

予報ではこれからさらに積雪が重なり、1メートルを超えるらしい。


年の暮れ、もう冬休みに入ろうかというところで、2人はクリスマスの思い出について語らっていた。

そしてそんな思い出語りで不意に懐かしくなったのだろうか、先程まで語っていたほうが電子端末を取り出した。


「久しぶりにメールしなきゃっ」


そう言ってアドレス帳にある「タマちゃん」という欄をタップする。

何を書こうか。

はやる指先はとりとめのないことを書こうとウズウズしているが、少女の心は既に書くべき内容を決めていた。




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