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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第二章
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コンタミネーション

世の中短時間で何かが劇的に変わるとしたら、それは悪い方向でしかない。

事故や災害は当然のこと、病気や怪我なんかはその最たる例だ。

良い方向へもっていくのはゆっくりゆっくり時間をかけないければいけないのに、その逆はあっという間。

だからこそ皆少しずつでも良い方向へ良い方向へと進めていかなければいけないのだろう。


この身に降って湧いた恋愛症候群もきっとそうで、焦ってどうにかしようとしてもどうにもならない。

日々の生活の中でどうにかこうにか病気と付き合っていかなくちゃいけない。




「青葉くーん、お昼食べよ―」


昼休み、活気に満ちた声がかけられる。

朗々たる大きな声だが、決して耳に障るほどの大きさや高さではなく、それでいて心の奥底に響いてくる、そんな声だ。


「華か。昼は先生に呼ばれてたんじゃなかったっけ」

「もう行ってきたんだよ」

「早いな。何の用だったの」

「よくわかんない。お説教? って感じじゃなかったけど、褒められてるわけじゃあなかったしなあ」

「そんなんでいいのかよ……」

「いいのいいの。一真くんは?」

「あいつは弁当忘れたとかで学食」

「へー珍しい。じゃあ今日は2人か」

「あ、ああ。そうだな」


言われてみると2人きりだ。

あ、なんか意識したら緊張してきた。

だがそんな俺の気も知らず脳天気に「今日のおべんとなんだろなー」とか鼻歌交じりに笑顔を振りまいている華。

知られちゃ困るんだけどさ。

いやここは集中だ。

心頭滅却すれば火もまた涼し、集中すれば恋もまたなし。

……………………

だいぶ落ち着いてきた。


頭が冷静になったことで一旦視界がクリアになる。

すると視界の端に奇妙な上下運動をする物体が目に入った。

その不思議な動きに思わず目を奪われる。

まさかこの学校にクリーチャーでも現れたのか。


だが何の事はない、ちゃんと見ると誰かが必死に体を動かしているだけだ。

それはそれで相当に奇妙なのだが、その顔を見ればさもありなん、と頷けてしまう。


「…っく、ぷっ……くく……」


もうこの数日で俺の天敵とみなすことに何ら疑問を持たなくなった相手、橘結衣だ。

天敵と言っても犬と猿のような並び立つ関係ではなく、蛇と蛙のような一方的な関係だ。

どうやらあいつは必死に笑いを堪えているようで、それでも抑え切れない衝動が体を震わせているというわけだ。

しかし比喩表現でもなんでもなく実際に体を震わせて笑いをこらえる奴なんて初めて見たな。

あ、目が合った。


「やあ、これから2人で昼食かい?」

「うん、そうだけど。えーっと、橘さん!」

「正解。覚えていてくれて光栄だよ」

「みんなすごい頭いいって言ってたから名前だけ知ってたんだー。よろしくねっ」

「よろしく」


華と橘。2人ともに笑顔を浮かべているが、その笑顔は対照的だ。

華のほうは先ほどと変わらずニコニコと満面の笑みだ。可愛い。

初対面の相手にこれだけ物怖じせず喋れるなら友達ができるのなんてあっという間だろう。

あれだけデザイナーズチルドレンに怖がっていたのも、蓋を開けてみればただの食わず嫌いみたいなものだったということか。

一方橘はといえばその笑顔は明らかに裏が透けて見えていて、ニヤニヤという言葉がぴったりと当てはまる。

やだなーこわいなー関わりたくないなーと思っていると、華が追い打ちをかけるかようにとんでもないことを言い出した。


「ねえねえ、橘さんもうお昼ごはん食べた?」

「ううん、まだだけど」

「お弁当?」

「そうだよ」

「じゃあさ、私達と一緒に食べない?」


なんてこと言うのだこの子は!


「せっかくだから一緒に食べたほうがほんとご飯もおいしいよ」

「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」


より一層口角が引き上がる橘。

どうみても新しいおもちゃを見つけた時のいたずらっ子そのものの邪悪な笑顔だ。

みんなで食べるとおいしいなんて嘘っぱちで、味や香りに差が出るわけじゃない。

それは会話の楽しみであり食事の楽しみではない、分けて考えるべきだ、と何度思ったことか。

今はそんな詮ないことを言っても仕方ないし、華の楽しそうな様子を邪魔するのも忍びないから口に出すことはないけど。

まあこうやって誰かと食事を一緒にすることは友達ができるチャンスだと前向きに捉えることもできないわけじゃないしな。

でも橘、てめーはダメだ。


橘の乱入をちょっとだけ前向きに評価するというのなら、俺が華と2人きりにならないで済むという利点が挙げられる。

別に2人じゃ会話が続かないとかそういう意味ではなくて、あんまり2人の時間が続くと恋愛症候群の治療に差し支えるという、そういう意味だ。

だからって別に橘じゃなくてもいいだろう、というか他の誰かなら誰でもいいんだけどそこのところどうにかならなかったのかな。


そして当の橘は先程からチラチラとこちらを見ている。

まあ確かに俺と華の恋愛を観察したいと言っていたし、それを知っている俺がこの乱入にたいそう複雑そうな顔をしていることにも気付いているはずだ。

その上でこのニヤケ顔。


こいつ絶対に性格が悪い。


この感想は何度繰り返しても言い過ぎということはないと確信を持って繰り返す。

こいつは絶対に性格が悪い

だってほら、しまいにはあからさまに俺を横目で見ながらこんなことを言うんだ。


「僕の親友である青葉君もいることだしね」


親友って、なんだったっけな。


橘さん回が続きます

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