予後
設定開陳回のようなものです。
必要な設定はまたその都度復習しますので、今回で全てを把握しなくても大丈夫なようには作ります。
なんとなくでもさらっていただければ。
恋愛症候群について、気になることを先生に聞いてみた。
「恋してしまった相手とはどう接すればいいんでしょうか」
当座の問題として一番気になるところだった。
接触禁止なんて言われたら泣くし、下手すると転校を余儀なくされたりしそうで不安である。
ていうかそこまでする必要がある重い病気だなんて聞いてない。
「相手の方は恋愛症候群だったりしますか?」
「いいえ、違うと思います」
「でしたら特に問題ないかと思います」
いわく俺が積極的に恋愛しようとしない限り、特にどうこうすべきところはないという。
友達付き合い程度なら気にすることはないのだそうだ。
これは非常に朗報と言えた。
仲良くなり過ぎないようにという心配はあるものの、それにさえ気をつけておけば今の生活が崩れることもないのだ。
問題は俺が欲を出して恋人になろうとしてしまうことだが、こればっかりは自制心でどうにかするより他ない。
この面倒な病気にかかったにしては首尾は上々と言えた。
不幸中の幸いといったところだろうか。
「そういえばネイティブは恋愛症候群にならないんですよね?」
帰り際、俺が何気なしに聞いた言葉に、先生は不自然なまでに反応を示した。
「ええ、ええ。そうです。正確には『恋愛症候群と定義しない』と言いますか。例えば女性が思春期になって乳房が膨らんでもそれは正常ですが、男性の乳房が膨らんだら異常です。それと同じでネイティブが恋愛をしたとしてもデザイナーズチルドレンとは違い特に問題のない正常なことです」
「なるほど」
「それで、気になることでもありましたか」
「ネイティブとデザイナーズチルドレンで恋愛が成立することはあるんでしょうか」
「あまり多い話ではありませんが、ないわけではありません」
「その場合も恋愛症候群として治療しなければいけないのでしょうか」
「難しいところです。何せ患者様ご本人もその対象の方も、誰も困っていないわけですから。すぐに治療の必要があるかと聞かれればない、と言えます。ですが勿論それが正常な状態なわけではありませんし何かの切欠でまた治療が必要になることがありますので、そのままでよしとすることはお勧めできません」
「デザイナーズチルドレン同士でもそうなりますか」
「二人ともが恋愛症候群になる可能性がないとも言い切れませんが、まず考えなくて良いかと。もし万が一そうなってしまった場合、さっきのネイティブとデザイナーズチルドレンとの時と違い非常に不安定な状態ですので、そちらは可能な限り早急に治療が必要となります」
「そうですか」
誰も困らないなら何もしなくていいと。
確かにそれはその通りだ。
ということはネイティブである彼女と恋人の関係になれば、わざわざ治療する必要がなくなるということに他ならない。
これはもしかしたらもしかするのでは。
そんな自分に都合の良い皮算用を始めた俺の考えを見透かしたのか、先生から少しだけ張り詰めた声がかけられる。
「そういえば沖君のお相手について詳しく聞いていませんでしたが、同じクラスに転校してきた女性、ということでよいのですね」
「はい、そうです」
「恋愛症候群ではないということは先程お聞きしましたが、その方はネイティブですか」
「そうです。よくわかりましたね」
「……まあ、予想はしていました」
「何かまずいことでも」
「特別そういったことはありません。沖君は先ほど行ったことに気をつけていただければそれで結構です。ですが……」
「ですが?」
「恋愛症候群のことはその方に話さないほうがいいでしょう」
「理由をお聞きしてもいいですか」
「治療が大変困難になります」
新たな事実を聞かされた。
一度恋愛症候群が成立してしまった人は、その後相手がいなくなったとしても別の相手に対してまた恋に落ちることが多くなるという。
そのため予防や早期の治療介入が必要なのだと。
ネイティブに対する恋愛症候群については更に慎重な対応が迫られる。
ネイティブ側は恋愛を否定する理由もないためデザイナーズチルドレン同士よりも遥かに恋愛が成立しやすいのだ。
一度病気が成立してしまえば治る見込みが薄い。
確かにそれは慎重に考えなくてはいけない。
「繰り返しになりますが、もし恋愛が成立してしまったら以降は治療介入の必要性が少なくなります。ですが同時にそれは恋愛症候群が治らないということも意味します。ここまではよろしいですか」
「はい」
「この先ずっと添い遂げたいというならば彼女に病気のことをお話するのも一つの選択肢になります。病気のお話をするということはつまり『私はあなたに恋している』と言っているのも同然ですので。ネイティブの方に対してそれを言えば、言わないより恋人同士となる確率は格段に高いものとなります。私は医師としてそれはお勧めできませんが、強制することもできません。是非ご家族とよく話し合われてください」
要するに、だ。
一緒添い遂げる覚悟がないなら治療に専念しろと言うことだ。
確かにそれは色々と考える必要がある。
しかし、恋愛症候群は存外に重い病気だったのだな。
重いというのは二重の意味で重い。
治らない病気ということもそうだし、たかだか14歳の中学生にこの先の人生を左右する選択をさせるなんて物語の中のヤンデレ少女も真っ青の重さだ。
しかしまた面倒な話だ。
ついさっきまでは恋愛症候群を治してやろうという意気込みで病院に来ていた。
なのに別の選択肢を知ってしまった。
とてもハイリスクでリターンがそれに見合っているかはわからない。
けれどそのリターンは俺にとってとても魅力的に見えてしまった。
恋愛症候群ってのは、本当に面倒臭い。
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