表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛症候群  作者: 真殿悠
第一章
2/67

過剰興奮

四条院華。


その名前を幾度も反芻する。

緊張しているのだろうか、赤みがかった頬と若干の早口が印象的だ。

後ろにまとめられた髪は茶色みがかっており、小さな体とは逆に活発な印象を与える。

奥二重のその目は、よく見ると左右で微妙に色が違っている。

オッドアイという奴か。

噂には聞いたことがあるが実際に見るのは初めてだった。

趣味はランニング。

得意教科は英語。

苦手教科は地理。

部活はバドミントン部、なければ陸上部。

快活な自己紹介が頭の中に響く。

実を言えばそんな反復をしなくても、ただの一度聞いただけで内容は頭に入っていた。

元々記憶力は悪いほうじゃないのだから。

だけどそれ以上に、一目見た瞬間の衝撃という理由のほうが遥かに大きい。

この瞬間は人生で二度と忘れることなどないのだろう。

「席は自由だから、適当に空いてるところ座ってくれな」

教壇のほうで誰かがそんなことを言っていた気がする。

でも全く頭に入って来ない。

視線が一箇所に固定される。


これが恋愛症候群?

これが恋?

いいや、違うね。

だって恋愛って病気なんだろう?

今こうやって彼女と出会った俺は世界の誰よりも幸せものだ。

こんなにも幸せな病気があってたまるものか。

この情動に身を任せたらどれほど幸せなことか。

ああ、世界はこんなにも美しい。



「なあ」


隣の席の男子が話しかけて来る。

岸一真。中学に上がってからの友人の一人だ。


「お前大丈夫か? さっきからすんげーぼーっとしてるけど。保健室でも行くか?」

「あ、ああ……」


どうやら心配してくれているらしい。

俺の様子は傍目に見てもおかしかったようだ。


「昨日夜更かしでもしたか?」

「いや」

「じゃあなんか変なもの食った」

「いや」

「私沖青葉は男子です」

「いや」

「…………相当重症だなこれ」


重症、という言葉にピクリと反応してしまう。

もしこれが恋愛症候群だというのなら、確かに重症だ。

ネットニュースで話題になる症状、それが今の俺にはとてもよく当てはまる。


一つ、特定の人物への強い情動反応。

一つ、その人物への強い興味。

一つ、その人物を想起した時の交感神経系の興奮。


その状態そのものじゃないか。

確か当てはまる数によって重症度が違うんだったか。

とりとめのないことを思う頭の中とは乖離して、視線は一点に刺さったままだ。


「なあ青葉」

「いや」

「それはもうわかったから。お前、本当に大丈夫か? 絶対なんかおかしいぞ」

「なあ一真」

「なんだ」

「俺、病気になったかもしれない」

「マジで!? って、その病気ってまさかお前」

「ああ、多分そのまさか」

「マジかよ……」


はあ、と溜息をつく一真は、あくまで「困ったことになった」風ではあるが、決して嫌悪感は見せていない。

デザイナーズチルドレンには恋愛症候群と聞くだけで露骨に顔をしかめる人すらいる。

こいつはこういうことに理解がある奴だったな。


「でもよ、青葉」

「なんだ」

「いや病気は仕方ない。本人の意志とは別になっちまうのが病気だもんな。それは仕方ない」

「そうだな」

「でもさ、よりによって、なあ。だってこのタイミングってことはつまり、相手はアレなんだろ?」


そう言ってチラチラと四条院のほうを見る。

彼女は教室のど真ん中の席に陣取り、既に周りのクラスメイトに話しかけられている。

やはり転校生という存在は物珍しいのだろう。

だが、それ以上に彼女を目立たせる決定的な要因があった。


「俺も偏見は無くしたいつもりだけどさ、正直お前は茨の道を進んでると思うんだ」

「そうか?」

「そうだよ! だってさ……」


まったく、一真は何を言っているのだろう。

彼女は俺達と何ら変わりない人間だ。

確かにこの病気を発症してしまった以上、俺は相手に如何に感染させないか、ということを考えなくてはならない。

けれどそれは彼女でなくたって同じことじゃないか。

そこまで彼女を特別扱いする必要はあるのか。

ただの転校生じゃないか。



…………いや、茶番はやめよう。

彼女を特別扱いする理由なら確かにある。

だって、


「あの子、ネイティブなんだろ?」


さも当然と言わんばかりの一真の言葉が、こんなにもボディーブローのように響いてくるのだから。


ちなみに学年200人いてネイティブは5人もいません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ