免疫寛容
勢い勇んで決意表面をしたはいいものの、さて具体的にどうしよう。
一真に友達になってもらう。
これは確定事項としていいだろう。
問題はその次だ。
こう言うのもなんだが、俺も一真も友達は多いほうじゃない。
二人とも特に何か活動しているわけでもないし、クラスを引っ張る立ち位置に立ったことなんてあるはずもない。
いわゆる「知り合い」は多くても「友達」は指折り数えても片手に尚余るほどだ。
共通の友人ともなるともういないと表現して差し支えないだろう。
これは早まったか……?
紹介しといて失礼な話だが、最初の友人が俺、次に一真というのは少々問題だ。
二人ともコミュニティが閉鎖的過ぎる。
人見知りを治そうというのにこの2人からスタートでいいのだろうか。
それともだからこその閉鎖的なコミュニティなのだろうか。
しかしうだうだ考えても俺がとれる選択肢が増えるわけじゃない。
とりあえずはまず目の前のことから。
下手の考え休むに似たり、ということわざが頭をよぎる。
「なあ、そもそもの疑問なんだけど」
「どうした」
話が一旦終わって教室に戻る道すがら、一真が口を開いた。
なんだろう、華のスリーサイズとかかな。
それは俺が知りたいくらいだぞ。
なんてバカなことを考えていると、一真は困った顔をしながら質問を続けた。
「あんな人見知りの四条院さんが、俺と喋ってくれんのか?」
しまった。
その考えがすっぽりと抜け落ちていた。
華の周りの環境を整えようと思っていたら、華本人のことを綺麗に忘れていた。
「あー…………」
「おい」
「だ、大丈夫だよ、きっと。悪い子じゃないし、根は優しい子、なんじゃないかな? 多分一真のこともすぐに慣れると思う、よ?」
「不確定型な副詞が大量にくっついてる気がすんのは気のせいか?」
「ごめん、正直保証できない」
「まあ、そんなこったろうとは思ってた」
当然のように見抜かれている。
しかしどうしようか。
一真の懸念ももっともで、あの華がネイティブ以外に対してフレンドリーになる様が微塵も想像出来ない。
話してみればいい子だというのは間違いないのだが、その話してみるまでが高いハードルを越えなければいけないのだ。
しかもそのハードルはこっち側でなく主に華の側にある。
高ければ高い壁のほうが登った時気持ちいいのはわかるけど、そう素直に越えさせてくれない辺りに、華と友達になるということの難易度が伺える。
「じゃあまず挨拶だけでもすっか。青葉、ちゃんと紹介しろよ」
「あ、ああ、勿論。でもいいのか?」
「何がさ」
「その、さっき仲良くなれる保証なんてどこにもないって言ったじゃん。不安だったりとかは……」
「そんなん別に今回に限った話でもねえべ。人付き合いに保証があるほうが珍しいわ」
「おお」
「まずは当たって砕けろ、ってことよ」
「砕けないように俺も頑張るよ」
一真も良いこと言うじゃねえか。
確かに保証ばっかり求めたって友達ができるわけじゃないしな。
全くその通りだ。
そしてそれをわかった上で尚友達になろうという強さ。
なかなか真似できるもんじゃないな。
こいつに友達が少ないってのが信じられなくなってきたぞ。
「というわけで、俺の友達の岸一真。仲良くしような」
「おう、よろしく」
「……っ! あはは、よ、よろしくね」
教室に戻り、早速華に一真を紹介したところ、上記のような反応が返ってきた。
頬はひきつり視線は揺らぎ、作り笑顔の目は全く笑っていない。
右手は俺の裾をギュッと握っている。可愛い。
だからそうじゃない。いや可愛いのは事実なんだけど、そうじゃない。
こいつの「人見知り」がここまでとは思わなかった。
思えば昨日も誰とも目を合わせて喋っていなかった気がする。
ここまでくるともはや自閉症やそっちを疑うレベルだ。
実際は昨日俺と難なく話せていたし、ただ単に極度にネイティブが苦手ってだけなんだろうけど。
だがおそらくこれ以上は持たない。
「じゃあこれで二人は友達ってことで! とりあえず今は授業始まっちゃうから、席につこうか!」
「そ、そだね」
「おお、もうそんな時間か」
強引に話を切り上げて席に座る。
あ、しまった。本日2回目だ。
さっき華と一緒に座る約束をしていたのに、今俺のとなりにいるのは一真一人。
完全にミスった。
見ると華は俺とは反対側にある廊下側の席で一人座っている。
すまん、とジェスチャーをすると手を振って寂しそうな笑顔を向けてくれる。
気にしてないよ、というメッセージととって良さそうだ。
本当に申し訳ないことをしたな。
「そんなに気になるか」
「まあ、多少はね」
「多少、とかいう程度を超えている気はすっけどな」
「いいだろ別に。ていうかどうだったよ」
「どうだったって、四条院のことか」
「それしかないだろ。どうよ、仲良くなれそうか」
「第一印象から言うと、正直難しいな。人見知りが過ぎる」
厳しい感想が返ってきた。
とはいえ覚悟していなかったわけじゃない。
さっきの様子を見れば誰だって結果は芳しくないことくらいわかるはずだ。
「そうか……、じゃあどうするか」
「どうするか、ってどうするつもりよ」
「一真でダメとなると、いよいよ今度こそ本物のネイティブを紹介しなきゃいけないのかなって。確か他のクラスに二人くらいいたよな」
「おめはどしてそう早とちりなんだ」
「え?」
「俺は難しいとは言ったけども、一言も「無理だ」とは言っとらんべ。第一たった一回喋ったぐらいで諦めるって、相手にも失礼じゃろ。こっからスタートだ」
その言葉に俺は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
まったくもって一真の言うとおりだ。
一度よい印象を得られなかったからといって、その程度で諦めていいわけもない。
何が華の友達づくりだ。
結局自分の都合を押し付けていただけじゃないか。
改めて親友の大切さに気付くと同時に、事態がよい方向に傾いた音が聞こえた気がした。
都合上前回と今回でタイトルを変更しました




