アネルギー
正直隠し通せることじゃないとは思っていたが、こんなに早くバレるとは予想外だった。
しかし考えてみるとだ。
別に一真にバレても問題ないのでは?
もっと言うと、華以外にバレても特に困ることがない気がしてきた。
そもそも今だって一真に協力を仰がなければならないのだから、むしろ隠しておくほうが不自然だ。
要するに、俺はいらぬ手間を回したせいで話を拗れさせたというわけか。
「その顔は図星って顔だな」
「正直訂正するところがない」
「なんで訂正しなかったの……ってああいい、わかったわかった。ええとこ見せたかったとか仲良ぐなりだかったとか、そこら辺じゃろ」
「お前エスパーかよ」
「ほったらもん誰が見てもわがんべ」
「そうなのか……」
気が付けば、一真の言葉に随分と地が出てしまっている。
日本語ですら世界じゃマイナーな言語だというのに、更にその中での方言なんて、今じゃあ文化遺産として保護されるレベルだ。
しかし何故か一真はその方言で話すことがたまにある。
家族がよく使うから自然と覚えてしまったのだとか。
普段は出てこないのだが、特定の状況で出て来て、俺が知る限りその状況は二つ。
イライラしている時か家族といるとき。
今回の場合は明らかに前者だ。
まあそうだよな。
誰だってこんな相談持ちかけられたら呆れもする。俺だってそうなる。
こんな自業自得な話に付き合ってやる義理、普通はない。
それでもなんとかイライラを隠し切れない態度を取り繕いながら話を進めてくれようとする。
本当によい親友を持ったものだ。
「じゃあこの話は後にして、四条院さんのとこ行くぞ」
「え、ちょっと待って、いきなり?」
「ひとまず今回のこと謝らんと話進まねっしょ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、それはまだ早い」
「なに、心の準備がまだとかくっちゃべるつもりかい」
「そうじゃなくて、いやそれもちょっとはあるんだけど、やっぱりそうじゃなくて」
「はっきりせい」
親友が怖いんだけど。
とはいえ大本の原因は俺にあるので、文句を言うのもお門違いだ。
「えっと、一真も華の人見知りは見たじゃん?」
「なかなか激しかったな」
「そうそう。それで、あれは転校生ってこともあるかもしれないけど、やっぱりクラスにたった一人のネイティブ、ってのが主な原因なんだ」
「別にネイティブだからって変な目で見たりはせんよ」
「それはわかってる。俺もうちのクラスがそんなクラスだとは思ってない」
「じゃあなんでさ」
「どうも彼女、今までほとんどネイティブとしか付き合ってこなかったらしくてさ」
「どんな田舎だそれ。うちの中学は特別ネイティブが少ないけど、だからって普通のとこでもデザイナーズチルドレンと関わらないって無理っしょ」
「俺もそう思うんだけど、彼女が言うにはそういうことらしい」
「まあ可能性ゼロとは言わんけどなあ……」
実際あれだけの「人見知り」なのに、今までどうしてきたのだろう。
困ったときは例の親友に頼んでなんとかしてもらっていたのだろうか。
「まあその話はまた機会があったらしよう。で、本題」
「おう」
「でも俺とは普通に接してるわけじゃん。俺はネイティブっぽいけど立派なデザイナーズチルドレンなのに」
「確かにな」
「てことはさ、華は別にネイティブとしか話せない、ってわけじゃないと思うんだ。ただ極端にデザイナーズチルドレンが苦手なだけで」
「そうかもな」
「てことで、是非とも一真にも華と友達になってもらいたいんだけど」
「待てい」
キッと鋭い目で睨まれてしまった。
「話をどれだけすっ飛ばすんだ。友達になるのは構わんけど、さっき聞いたことに答えとらんじゃろ」
「なんだっけ」
「鳥頭がこの! なんで勘違いを訂正しないんだって話だ!」
「痛い痛い痛い!! わかった、わかったから!」
頭部を前後から鷲掴みにされ締め付けられる。
どんだけ握力あるんだよ、頭が潰れなかっただけ俺は運がいい。
「はあ、死ぬかと思った。その「人見知り」で華に友達が出来なさそうってのはわかるよな」
「まあこの学校はほとんどネイティブおらんしな」
「だから今俺が『実はネイティブじゃありませんでしたー嘘ついてましたごめんなさいー』とか言ったらさ、あいつ相当ショックを受けると思うんだよ」
「……まあ、一理あるな」
「だからさ、あいつにデザイナーズチルドレンの友達が出来るまで、できれば俺以外で2人か3人。それまではこのことを黙っていようと思うんだ」
「随分都合のいい話だな」
「それはわかってる。けど、あいつがこのクラスでちゃんと居場所が出来たなら、そうしたら後はもう俺がどれだけ嫌われたっていいんだ。とにかくあいつがショックを受け止められる場所を作ってやるまでは、まだこのことは言えない」
一応、考えていることはこれで話し尽くした、と思う。
華があのままじゃ良くないことは、一真もきっとなんとなくは理解してくれているはずだ。
一方で俺がやっていることがどこまでも利己的で不誠実なのもわかっているだろう。
特に一真は俺が恋愛症候群ってことを知っているし、元々嘘が嫌いな男だ。
目の前で難しい顔をして考え込んでいる親友は、何を思っているのだろうか。
「なあ青葉」
「何だ」
「確認のために一つ聞いておきたいことがある」
「なんでもいいよ」
「お前、もし恋愛症候群が関係なかったとして、相手が四条院じゃなくても同じことしたか?」
「わからない、その時になってみないと。でも、少なくとも相手がお前だったら、嘘ついたこと謝って、それでもっかい仲良くなろうって言ったと思う」
「じゃあなんで四条院にそれをせんのよ」
「多分だけど、あいつ泣いちゃうから。俺の勝手な理由かもしれないけど、泣いてる顔、見たくないから」
「…………なるほどな」
はあ、と何かを諦めたように、一真はため息をついた。
「しゃーない、その嘘、少しだけ付き合ってやるわ」
「マジか! マジなのか!?」
「正直気が進まんけどな。別に仲良くするだけなら、向こうにも罪はねえことだし」
「持つべきものは親友だな! ありがとう!」
「なしてその素直さを四条院相手に出来ないんだべな」
再度呆れるようなため息をつく一真。
ほんとこいつには世話になる。
しかし、これで一歩前進だ。
人類にとっては小さな一歩だが、俺にとっては大きな一歩だ。
さあ、華の(本人には知らせていない)友達作りのスタートだ。




