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恋愛症候群  作者: 真殿悠
第一章
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個体識別


あれやこれやとあって翌日。

昨日転校生が来たとはいえ、それ以外は特に変わりのない日常。

俺自身に関して言えばその例に漏れない。

恋愛症候群なんて傍から見てもわからないものだし、昨日今日でどうこうなるものでもない。

ああ、でも担任には言っておいたほうがいいんだろうか。

まあ俺個人に関してだけならそんなところだ。


しかし残念ながらこの社会はそんなにそんなに個々人が独立しちゃいない。

個人が独立していないから社会なんじゃないか、というもっともな意見もあるけれど、それはそれとして。

とにかく俺個人に問題が発生していなくても、俺が作る人間関係に問題が発生することはままあるわけだ。

そこはほら、人間関係なんて相性の問題だから。

何も俺一人が悪いってことじゃないわけですよ。



……まあそんな言い訳をしなくても、今回の件は明らかに俺に原因があるってはっきりしてるんだけどな。


「青葉くんおはよー!」

「おはよ」


昨日までは借りてきた猫だった華が、俺の姿を見るや嬉しそうに挨拶をしてくる。

猫どころか犬だな、これは。

後ろに嬉しそうに振られる尻尾すら幻視してしまいそうだ。


しかし、このやりとりでクラスの空気が変わったことは一目瞭然だった。

魔法使いや猛獣使いを見る目、といえばまだマシだろうか。

それでも精一杯前向きな表現で、悪い言い方をするなら、クラスの視線は不審者に向けるそれだ。

これ以上ないほどに視線が痛い。

それも当然といえば当然だ。

昨日あれだけ孤立していた華が、俺にはまるで旧知の間柄であるかのように話しかけている。

これで注目を集めるなってほうが無理だ。


「ねえねえ、こっちの授業まだよくわかんないからさ、授業隣で教えてもらってもいい?」

「それぐらい別にいいよ」

「よしっ」


小さくガッツポーズをする華。可愛い。

いやいやその姿に見とれている場合じゃない。


この状況に華は気付いているのだろうか。


昨日はクラスメイトの誘いをすげなく断っておきながら、今日は他のクラスメイトにそれを頼む。

贔屓目に見ても気分のいい対応じゃない。

ただの転校生なら、そこでムッとさせるか、少々居心地が悪くなる程度で済んだかもしれない。

だが華はただの転校生というには少々無理がある。

何せクラスに一人しか居ないネイティブだ。

デザイナーズチルドレンには元からネイティブにいい感情を持っていなかった人間だって少なくない。

そんな前提の上でこの状況。

控え目に言って最悪の対応だ。


さて、困ったことになった。

正直これで俺がネイティブじゃない、なんて言い出したら華の孤立は決定的になる。

かと言っていつまでも黙っておくわけにもいかない。

うーん、どうしたものか。


「よう、おはよう青葉。いつの間にか随分仲良くなったみたいだな」

「一真か。おはよ」

「四条院さんもおはよ、って嫌われちゃったかな」


一真の言葉に、背後で小さくなっている気配に気付く。

華が俺を盾にするようにして、一真と距離をとっていた。

うーん、こいつのデザイナーズチルドレン嫌いは本物だな。

嫌いというよりは人見知りの激しい版、といったところか。


しかしこうやって一真も好意的に接してくれているのに、このデザイナーズチルドレン嫌い、略して「人見知り」をどうにかせんことには話が始まらない。

どこをどう略しているんだってツッコミはなしな。


とはいえクラスの全てが華に対して嫌悪の目を向けているわけではない。

単純に仲良くしたいって奴もいるはずだし、勘のいい奴なら俺だけが懐かれている理由もなんとなくは察してくれているはずだ。

中学に上がったばかりの時俺がネイティブに間違われるちょっとした騒動を覚えていない、なんて人は少ないだろう。


そうなると、残る問題は本人の意志、か。


別にこれは今回に限ったことじゃない。

今や生まれる子供のほとんどがデザイナーズチルドレンだ。

現状はネイティブよりデザイナーズチルドレンのほうがやや多い程度だが、この比率はどんどん高まってくる。

俺達が社会に出る頃には7割の人間がデザイナーズチルドレンに、社会に出てこない老人のことを考えると、接する人間の9割がデザイナーズチルドレンであっても何ら不思議はない。

そんな状況下でも、華はこうやって「人見知り」を繰り返すのだろうか。

きっとそれは本人にとってもためにならない。

俺の個人的な都合、ということを差し引いても、どうにかしてやらなければいけない。

そしてその役目は、きっと俺が適任だ。


「なあ一真、ちょっと話がある」


そう言って俺は親友を連れて教室を出た。

この時代になると、身体的に露骨なイジメはさすがにまず起きません。

イジメがない、ということとは違うのですが。

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