【番外編】もしもヒナがSAKURAの社員だったら 5
久々に楽しい時間を過ごした。
話も合うし、俺に"色"を感じさせないこの女なら友人になれるかもしれないと思う。
龍夜がいるせいか、どうやら俺は対象外のようだし。
店を出てタクシーを拾おうと「家はどっち方面?」と尋ねると「○○町方面です。」と上気した顔で答える女。
ぽわんとした感じで潤んだ瞳、ぽてっとした唇・・・ちょっと可愛いと思ったが、ダメダメ龍夜の女だし珍しく友人になれそうだからと頭から追い出す。
俺の方が遠いし、同じ方向だから途中でおろすか。
今日に限ってなかなか流しのタクシーが見つからないな。駅前にでも行くか・・・と思っていると、女が自分の袖口をツンと引っ張った。
「うふふ・・・。」
何がおかしいのか女はクスクス笑っている。
全然酔ってないようで実は酔っていたようだ。
あまりワインは飲んでいなかったように記憶していたが?
「・・・二人になれるところに行きませんか?」
下からうるうるとした瞳でこちらを見つめている女。
おっ、おい?
女は俺の背中に抱きついてくる。
何だ、急に大胆だな。
せっかく友人になろうと思っていたのに・・・。
俺は据え膳はいただく主義だぞ?
そうして二人は流れてきたタクシーに乗り込んだのだった。
タクシーの中でも腕にくっついている女。
猫みたいにすり寄ってくる。
龍夜の女というのはいただけないが、来る者は拒まない。
ま、所詮女は女ということか・・・。
独りで寝るのも寂しいし、まぁいいか。
明日には興味がなくなってしまうかもしれないが、今晩は可愛がってやろう・・・といつものように連れ帰ったのだった。
・・・まさか「にく~」と自分の服を剥がれるとは夢にも思わずに。
<Side ヒナ>
朝目覚めると、そこは知らない部屋でした。
残念ながら「知らない天井」ではなく、「知っている男の顔」が第一目撃箇所です。
隣(というか抱きこまれてました)には、昨晩一緒に食事をした王子・・・もとい橘さんです。
橘さんにキスされて目覚め、「吃驚仰天」とはまさにこのこと!という経験をしました。
なんとか腕から脱出しつつ離れます。
ずいぶんとでっかいベッドをご使用なんですね。
「"女の友人"て言ってました、よ・ね・・・?」
ヒナはプルプルと震えています。
こうなったら何があったのか、想像に難くないです。
「まさか初めてとは思わなかったけど・・・もしかして記憶ないの?」
そうです、初めてだったんですよ!
なのに記憶もなく、朝チュンとは何事でしょうか!
「橘さんは、"女の友人"にこんなことをする方だったんですね・・・。」
どうして自分がここにいるかわからない今、友人てセフレのことですか?!と叫びたくなるのはぐっと堪えました。
ヒナは上掛けを奪ってベッドのそばに落ちている下着や服を拾い集め、死角らしき場所に移動して身につけます。
「で、ここはどこですか?」
そう尋ねると「俺のマンション。」とのお答えです。
察するに、お持ち帰りされてしまったのですね。
いえ、龍夜の時の事もあるのでヒナが強引に押しかけたのかもしれません。
「会社があるので、家に帰ります。」
部屋の時計を見ると出社時刻まで50分を切ったという所です。
髪の毛を手櫛で整え、バッグを探します。
足が覚束ないのは酔っている訳ではございませんよ。
「車で送るよ。」
ベッドから声をかけられましたが「結構です。」とお断りしました。
「結構ってことは"YES"だな?俺も出社の支度するから待ってろ。」
結構=YESって、あなたは悪徳セールスマンですか!
「ちょっ、ちょっと待って下さい。うちに来るつもりですか?!やめてくださいよ。」
ヒナが慌てて止めると「ここどこか知ってるの?」と言われました。
え?
「隣町のはじっこだけど。歩いて帰ってたら遅刻すると思うけど。」
ええっ?
ヒナが走れば・・・ギリギリなんとか間に合いそうですが、そうすると家に帰って着替える時間がありません。
もっと早く起こして下さいよ!
こうなったら背に腹はかえられません。
「じゃあ、ちょっとシャワーを貸して下さいませ。」
もうヤケです!頭を洗っている時間はないので、体だけ洗わせて下さい。
頭は・・・今日は編みこんで誤魔化しましょう。
せめて家に帰って服は着替えないとヒナがさらに危険で危ないことになるでしょう!
昨日の目撃者が多数いるはずです。
そこに同じ服で出社となると、どういうことになるか・・・。
即行でシャワーを借りて、橘さんの車に乗せていただいたのでした。
*
橘さんにはアパートで車から下ろしてもらいました。
今から着替えれば遅刻ギリギリで間に合うはずです。
「ありがとうございました!では!」
車は動き出しません。
まさか、待っているとかないですよね・・・?
橘さんはニッコリ微笑んで「足取りのあやしい子を歩かせるほど、俺は酷くないつもりだけど。」とおっしゃりますが、いえ、一緒に行く方が酷い目に遭うと思いますので是非とも先に行って下さいませ!
「いえっ、お願いですから先に行って下さい。遅刻しても構いませんからお願いします!」
必死になってお願いしても動きません。
朝なので大声で話す訳にもいかず、心では叫んでいますが、実際は小声です・・・。
「・・・俺はこれで終わりにするつもりはないから。」
黒い笑顔でニヤリと笑われてしまいました。
「えっ、会社で話しかけないで下さいよっ。私あなたに何かしましたか?」
「何って、したでしょ?」
慌てて橘さんの口を押さえます。
その件はオフリミットで。しーっ!
「俺と一緒に行くか、一緒に遅刻するかどっちがいい?」
「どっちもイヤです。先に行って下さいってば!」
ああっ、こんなやり取りをしている間に時間が・・・!
橘さんに構うのをやめて部屋へ駆け込んで、下着から全部着替えます。
化粧は道具を持っていけばいいでしょう。
すぐさま部屋を後にすると、そこにまだ橘さんの青い車が待っていました。
「乗らないとずっとついて行くけど?そして会社で口説きまくるよ。」
「おっ、恐ろしいこと言わないで下さいよっ。」
ヒナは流され人生しか生きていけないのでしょうか・・・。
負けました。
こうなったら今さら嫌がらせが一つ二つ増えるくらいどうってことはないです。開き直るしかないでしょう。
「わかりました。乗せて下さいませ。そして口説くなんて冗談でも言わないで下さい・・・。」
「冗談じゃないよ。」と前を向いたまま言った橘さんの整った横顔を思わず凝視してしまったヒナなのでした。
どうしてこうなってしまったのでしょうか・・・。
Side END
やはりここでも鷹臣にいただかれちゃったヒナ。しかも最初の食事で(笑)
そしてどうやっても女友達なんてできなそうにない鷹臣。