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【番外編】もしもヒナがSAKURAの社員だったら 3

次の日、出社すると懲戒解雇の社員が出たという話を聞いた。


龍夜からは今日の午後にでも時間が欲しいと言われていたが、ずいぶん早く手をまわしたものだと思う。





昼休みに階段で休憩していると(外に行くのが面倒だからだ)、下から誰か上がってくる音がした。


まさか昨日の今日で出社したのか?


「あ。」というあの女の声。


えっと名前は・・・。


「黒ブラの・・・」


思わず印象に残っていた事が口から出かかったが、最後まで言うことはできなかった。


「~~~~~っう・・!」


あの女ぁ~!


いきなり脛を蹴ることはないだろ!


女に、いや男にだって脛を蹴られたことは未だかつてない・・・。


「忘れてください。それに私の名前は水無瀬 雛です。」


痛みに耐えていると女は冷たい目でそう言った。


そしてハッとしたように「・・・今度会ったらお詫びをするつもりでしたが・・・、すみません、つい。」と、とってつけたように言ったのだった。


「つい、で蹴るなよ・・・。」


そういえば閉じ込められた時もドアを蹴ってたな。


「あ~・・・内出血だ。」


チラッとめくって見てみると少し痕になっている。


「重ねがさね、すみません!」


思いっきり頭を下げたのか、後ろの髪の毛がしっぽのように跳ねた。


「・・・お詫び、してくれるって?」


女の言葉尻をとって、ニヤリと笑った。


すると女は「うっ。」と言葉につまっている。


どうしてやろうかと考えたが、ぱっと思いつかなかったので「じゃあ、連絡先ちょうだい。」にした。


女は一瞬困った顔をして「内線番号でいいですか?」と切り返す。


「電話とメールで。」


自分の携帯を差し出すと「いっ、今。電話持ってません!」と後ずさった。


絶対、持ってそうな顔をしている。


「自分の番号くらいわかるよな?」


さらに詰め寄ると「うう・・・。***-****-****です。」と心底嫌そうな顔で答える。


目の前でその番号にかけてみると、女からブブー、ブブーとバイブレータの音がする。


「とりあえず嘘は言ってなかったようだな。着拒するなよ。」


女は壁に手をついてガックリしていた。


今まで電話とアドレスを尋ねられることはあっても、教えて嫌な顔をされたことはない。


「何か問題でも?」


「大アリですよ・・・。これがバレたら今度は王子ファンクラブから吊るしあげですよ。ただでさえ、女の子にウケが悪いのに、面倒事を増やさないで下さい。」


俺のファンクラブだと?


女はチラリとこちらを恨みがましそうに眺めてから、壁を向いて「はぁ・・・。」とため息をついた。


「なるべく社内で話しかけないで下さいね。」


「はあ?!」


なんだ、それは。


「じゃあ、私は行きます。」


女はとぼとぼと階段を上りはじめた。


まさか役員フロアまで歩きなのか?


しばらくはポテポテと歩いていた女だが、1フロアほど上がったあたりでゆっくりした足音が別な音に変わった。







龍夜の呼び出し(下に降りてくると目立つからだそうだ)は14時頃という指定だった。


指定された時間の少し前に役員フロアにつく。


専務室は・・・確かこっちだったな・・・と思って部屋の前に来ると、ドアの隙間から声が聞こえた。




「私がカタをつけようと思ってたのに・・・。」


あの女の声だ。


「だめだ。ヒナは甘いから殴ってすませよう程度にしか思ってないだろう?鷹臣まで巻き込んで・・・刑事事件になってもおかしくなかったんだ。それにヒナが手を出したら、相手につけ入るスキを与えかねん。」


「だって・・・。」


「しかしもだってもない。だから出張に一緒に来いって言ったんだ。」


「嫌ですよ。公私混同はしません。」


「・・・何言ってるんだ。私をベッドにひっぱりこんだ女が。」


話してるのは龍夜のようだな。・・・しかし内容が・・・。


「それに・・・お前じゃないとダメなんだ。」


ノックするのに躊躇していると


「ヒナ、上を向け。」


と龍夜の声がした。


「イヤですよ、龍夜。」


「何が嫌だ。ほら、上を向いて口を開けろ。私を待たせるな。」


・・・おいおい。人を呼び出しておいて何やってんだ。


「だから・・・んっ。」


急に静かになる。


・・・俺、どうすればいい?


ノックして知らんぷりで入ればいいか?


それとも出直すか?


その前にちゃんとドア閉めておけよ。




気を取り直して今度こそノックしようとドアに向かうと、急にドアが開いて口を押さえた女が飛び出してきた。


涙目になっている。


一瞬こっちを見て会釈し、走って行った。




ドアの向こうには龍夜がこちらを向いて立っていた。


「ドアくらい閉めておけ。」


そう言うと「何のことかな?」と白々しく笑ったのであった。







<Side ヒナ>




昼から出社して、やっと龍夜に会えたのは14時近くでした。


悪意のある悪戯は、すでに処理が終わってしまったのことです。


「私がカタをつけようと思ってたのに・・・。」


「だめだ。ヒナは甘いから殴ってすませよう程度にしか思ってないだろう?鷹臣まで巻き込んで・・・刑事事件になってもおかしくなかったんだ。それにヒナが手を出したら、相手につけ入るスキを与えかねん。」


龍夜は冷たくそう言ったのでした。


「だって・・・。」


「しかしもだってもない。だから出張に一緒に来いって言ったんだ。」


「嫌ですよ。公私混同はしません。」


出張先に同行する護衛はいますし、ヒナが行っても遊びに行くだけになります。


「・・・何言ってるんだ。私をベッドにひっぱりこんだ女が。」


そ、それは酔っ払った上のことで、他意はなかったんですよ!


結局私たちの間には何もなかったじゃないですか!


「それに・・・お前じゃないとダメなんだ。」


いえいえ、掃除は他の人だってキレイにできますよ。


食事は口に合う合わないがありますから仕方ないですけど・・・。


お前じゃないと・・・と言われるほどでもないと思いますよ?


「ヒナ、上を向け。」


龍夜は先ほどから一個だけ余っている苺大福を手にしています。


それを食べさせてくださるそうですが、自分で食べられますよ・・・と思っていると、何か今回のことの罰っぽいですね。


龍夜的には一個だけ余っているのが嫌なのでしょう。だったらヒナにそのまま下さいよ。


「イヤですよ、龍夜。」


苺大福は好きなのですが、食べさせてくれるというのに抵抗があります。


「何が嫌だ。ほら、上を向いて口を開けろ。私を待たせるな。」


「だから・・・んっ。」


龍夜は一個そのまま口に突っ込みました。


何するんですか!


なんとか咀嚼しようとがんばりましたが、一口には大きすぎました。


喉につまっちゃいますよ!


水、水!


口の中から苺大福を出すわけにもいかず、涙目になりながら口を押さえて部屋から給湯室を目指します。


ドアを開けると、そこに橘さんがいましたが、今は水が先です!


ヒナは会釈して通り過ぎたのでした。




Side END

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