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【番外編】もしもヒナがSAKURAの社員だったら 2

*架空の『もしも』のお話です

何時かわからないが目が覚めると、女はまだ眠っている。


とうとう誰にも気づかれなかったようだ。


これは会社のシステムをちゃんとチェックしてもらわないとダメだな。


夜に警備会社が入るはずだから、資材庫と言えどもここで人が動いたら何か警報が作動するはずだが、どうなってるのだろう。




横になったまま視界に入っている女を眺める。


長い髪の毛はほどけて顔にかかっている。


邪魔じゃないのかな・・・と、這ったまま少し側によって毛を持ち上げて顔から後ろに流した。


お、まつ毛バサバサだな。


けっこう可愛い寝顔じゃないか。


近くで寝顔を見ていると、飴色をした目がパチリと開いた。


「みぎゃっ!」


奇声を発して、一瞬にしてざざざっと後ろに移動した女。


「おお、おは、おはようございますっ。なっ、なんでこんな近くにっ。」


「おはよう。顔に髪がかかってたからちょっと直した。」


にっこり微笑んでみる。


女に笑顔を振りまくと危険なのは承知だが、この女なら大丈夫だろう。


「その顔は至近距離で見たら心臓に悪いですからあまり近づけないで下さい。」


「酷い言い草だな。」


側に寄るなと言われたのは初めてだ。


「あー、ビックリした。」


女はウエットティッシュを無造作に開くと、それで顔を拭きはじめた。


「・・・お風呂入りたい・・・歯磨きが欲しい」とぽつりとつぶやく。


そして髪の毛を束ねると、昨日つけていたシュシュでまとめる。


「会社で遭難するとは思いませんでした。」


俺もそう思う。


「・・・これ、月曜日に発見されたらかなりの噂になりますよ。相手が私ですみませんね。」


「なりそうだな。」


二人でため息をついた。


「死体で発見されないだけマシですけどねぇ。」と呟く女に「縁起でもないこと言うなよ。」と返した。




「じゃあ、食糧を探すか。」


心当たりの場所を探すが、食料と言えるほどのものはなかった。


これは菓子、だな。


小袋に入った豆やらクッキーやらが少々あった。


水分はその菓子が入っていた袋に350ml缶のお茶が3本だけ残っていただけだ。


「あるだけ良かったですよ。」


女は一本だけ缶を取って「今日と明日で大事に飲みましょう。」と微笑んだ。


菓子は「橘さんの方がエネルギーも必要そうですし、いざとなったら力仕事をしてもらいますから食べて下さい。体力がある人が残った方が助かる確率もあがります。」と受け取らない。


「こんな量、食べても食べなくても変わらない。だから半分に分けよう。」と強引に半分渡した。


今日は土曜日だ。最悪でも月曜には見つかるはずだ。


いくらなんでも資材庫に入れない状況のまま放置するとは思えない。


女は茶を少しだけ口にして菓子はとっておき、水分が蒸発しないようにとナイロンと輪ゴムで缶に蓋をしていた。


「誰か知らないけど、御苦労なことですよねぇ。ドアが動かなくなる大荷物を短時間で運んでふさぐなんて。」


壁によりかかった女が、ドアの向こうをみつめている。


「私だけならまだしも、人を巻き込むなんて許せないなぁ・・・。」


ククッと女が笑ったような気がした。


「おい・・。」


何か黒いものを感じて声をかけたが、女は「なんですか?」とタレ目がちな飴色の瞳で上目遣いにこちらを見ている。


たしかに同僚の言う通り、小悪魔的な可愛さがある。


しかし今はそんな場合ではない。


「いや、何でもない。」


そう言うしかなかった。







長い時間二人は座ったまま、ぽつぽつとお互いの話をした。


動くと体力を消耗するし、部屋は窓がないものの昨日よりも少し暑くなっている。


腐るものもないので空調は切られたままだ。


「暑そうだからベスト脱いだら?」


女に見かねて言ってみるが「脱ぎたいのはやまやまですが、汗で中がすごいことになっているし・・・女を捨てる気はありませんので。」と言われた。


景品や販促のTシャツでもあればいいのだが、生憎とそういうものは見つからなかった。


「じゃあ、お互いに見えないところにいるか?」と言っても「見えないところでもできません」首を振る。


「俺ので良かったら着るか?汗臭いだろうけど。」


「いえ、大丈夫です。人さまの服を剥いでまで涼もうと思いませんよ。」ときっちりボタンをとめた状態で汗だくのままそう言った。







日曜日か・・・?


今度から時計はずっとしておこうと心に刻んだ。


茶は一缶を残して空になっている。


残り一缶を半分に分けようと、女の缶を持ち上げてその重さに愕然とした。


全然減ってない!


「私のはまだありますから、そちらは飲んで下さい。」


寝てると思った女は横になったままそう言った。


「バカか!そんなに汗かいて脱水するぞ!」


「・・・自分の汗を舐めて塩分補給するといいそうですよ。」


話が通じていない。


「明日には誰か来るから、気にせず飲め!」


女を抱き起こしてベストを脱がせ胸のボタンを少し外し茶の缶を口にあてる。


「砂漠じゃないですし、太陽もないし、大丈夫ですよ。」


一口だけで茶を飲むのをやめた女はそう言った。


「体力を温存してるだけです。だから気にしないで下さい。」とそのまま目を閉じた。


なんだかまずいんじゃないのか?


昨日は女を捨てる気はないと頑なにベストを脱がなかったが、今は脱がされても何も言わないし。


ブラウスに透ける黒い下着・・・確かにこれじゃあベストを脱ぎにくいだろうと思った。


ちょっとそのボリュームと腰の細さに見入ってしまったが、俺も男だから許してくれ。


「もう少し飲め。」


女を抱いたまま、もう一度缶を口にあてる。


「飲まないと口移しで飲ませるぞ。」


そういうと女は素直に茶を口にした。







結論から言おう。


俺たちは日曜日のうちに助けられた。


日曜になっても龍夜があの女に連絡を取れないことを不審に思い、会社まで調べたからだ。


「月曜にに発見されて噂にならなくてよかったですね」と弱弱しく女は笑っていた。


女と俺は病院に連れて行かれ、二人で点滴をして、女だけ一晩入院してから帰宅だったらしい。




ドアの向こうに龍夜を見た時の・・・あの女の心底ほっとした表情がなぜか俺の中に焼き付いて離れなかった。






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