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【番外編】もしも鷹臣がファンタジーな国の王様だったら 下

「・・・」


・・・トリジー侍従長は無言でドアを閉めました。


「ヒナ、ちょっとずれてくれ。」


ヒナを寝具にくるむと王はなぜか寝台(ベッド)のシーツをはがしました。


そして自分の下ばきを身につけてシーツを持ってドアの外に出ていきます。


・・・


なぜシーツを?


まさかと思いますが、身にまとうんですか?


・・・


ヒナはどうすればいいのでしょう。


王の起床時間を超えているなら・・・仕事も大幅に遅刻ですよね?


ああ・・・ヒナは、この先どの面下げて仕事をすればいいのでしょうか。




しばらくそのままの姿で呆然としていると、女官長が数名の女官と共に血相を変えて飛んできたのでした。







後で聞いた話によると・・・


王の寝所の前を守っている当直(とのい)の方が最初に異変に気づいたそうで・・・。


たぶん、王の寝所を守っている方々はヒナが"お手つき"でなかったことはご存じだと思われます。


夜も寝ないで戸口の前で見張ってますからね。


定時にヒナが出てこないことがおかしいと思っていた所に、王の起床時間になっても王も起きてこないし、ヒナの悲鳴のようなものが聞こえて声をかけるも返事はなし。


中で争っている気配はないので、一人見張りを残し、念のため侍従長を呼び出してもらいに行ったそうです。


ヒナはドキドキバクバクしていて全然声も聞こえませんでしたよ。


見られたのは事後のようでしたので途中よりは良かったですが・・・本当に良かったのかなぁ?







ヒナは今、部屋に軟禁中です。


人生で初めて侍女の皆さんにお風呂場で磨かれてしまいました(涙)


そのまま神輿でかつがれるように、次の場所に運ばれ、香油を塗りこめられたり、髪の手入れをされたり、何が起こっているの状態を経て軟禁状態になってます。


まさかこのまま投獄されたりしないですよね?


高級な服を着せられたのも、最後の晩餐のためにここにいるとか言わないですよね?




女官長の言うことには、今日からは風呂に付き添ったりしなくてもいいそうです。


侍従のアキヒロがその役に就くそうで・・・。いえ、アキヒロはベッドには入りませんよ。お風呂だけです。


・・・どうせなら何年も経ってからでなく、もっと早く言って下さいな。


王を叱れるのは侍従長や女官長、後は古くからの大貴族の方くらいしかいないんですから。


まぁ、確かにあのうなされ方は尋常じゃなかったですから、最初はお目こぼしをしてくれていたのだと思います。


そのうち、言うタイミングを失ったのでしょうね・・・。


ヒナもそうでしたから(汗)







やけに豪華な昼食と夕食に本当に今日が最後の命かも・・・と肝を冷やしたヒナですが、どうやら罪に問われることはないようです。


しかし依然として軟禁状態は続いています。


部屋の外には女兵士が怖い顔をして見張っています。


ヒナは仕事をしなくてもいいのでしょうか・・・。




軟禁状態が一週間に届いた頃、やっと外にでることができました。


女兵士4人の間に挟まれての移動です。


そして遠巻きにしている方々がヒナを見て何やらヒソヒソと噂されている様子はよくわかります。


どこへ・・・と思っていると、牢獄ではなく後宮への門へでした。


えっ、ヒナ・・・お手つきだから問答無用で"お部屋様"になるんですか?


そう思っていると、"お部屋様"の暮らす場所ではないもっと奥に連れてこられました。


一瞬、奥で殺されるのかと思いましたが、その建物を見て息をのみました。




「・・・あの。帰ってもいいですか?」




思わず口をついて出た一言はそれでした。


踵を返そうとしたヒナを潜んでいた女兵士が湧いてきて数で取り押さえます。


「ヒナ様、お戯れを。」


あなたたち目が笑っていませんよ!


「だって、ここ、王の"寵姫さま"の入る場所じゃないですか!」


「いえ、そうではありませんよ。」


女兵士のリーダー格の方がにっこりと・・・やはり笑っていない目でそうおっしゃいました。


「ここは王妃宮です。」


後ろ頭を殴られたようなショックを受けました。


・・・ヒナは激しく眩暈がっ。


「王妃様のお世話の女官に抜擢されたのですよねっ!」


最後の希望にすがりつきますが、女兵士は笑っていない目で「貴方様がこちらの(あるじ)です。」と完膚無きまでに希望を叩きつぶして下さいました。


「そんな馬鹿な・・・。」


ヒナはその場に崩れ落ちました。







「平民出の女官上がりの王妃なんてありえない・・・。」


王の側づきの女官だって、本来なら貴族のしかるべき女性がなるところを先の戦の功労でねじこんでもらったのです。


後宮からは王の許可がないと出られません。


いえ、ヒナ単身ならいくらでも抜け出す方法はありますが、現在は部屋で軟禁中で寝ずの番の女兵士が見張っています。


しかも一回の見張りは2人じゃなくて4人です。


王はヒナのことをよくご存じで(汗)


2人ならなんとかできても4人いれば、必ず誰かが応援を呼べます。


それにしてもヒナが王妃?(しかも一週間で決定とか)どういう魔法を使ったのでしょう。


臣下の方をどうやって納得させたのとか、気になることはたくさんあります。


一回手がついただけとしても、"お部屋様"をすっとばしてこの待遇はありえません。


実は、王妃宮に住むだけで体のいい愛妾とか?


そっちの方が可能性が高いですよ。


本物の王妃宮が必要なら建物は後で建てればいいですしね。




ああ、誰か説明プリーズ!!




毎日ありえない待遇で大勢の女官や侍女に、ヒナは形だけでも「お方さま」と敬われています。


ドレスも宝石もじゃんじゃん届けられます。


この重いドレスを着て体を鍛えろということですか?


コルセットで締め上げようとしているのは、ヒナを肉体的に弱らせてここから逃がさないためですか?


大勢に風呂で洗われて香油を塗りこめられたり、化粧をしたり着せ替え人形にされるのは、ヒナを精神的に弱らせるためですか?


日に何回も召しかえる必要ないですよね?と思いつつ、朝のドレス、昼のドレス、夜のドレスと着せ替え人形状態です。


国費の無駄ではないでしょうか・・・と思っていたら、"まだ予算もついていない今は王の私財"なんだそうです。


内心、『この平民出の女官上がりがうまくやったわね』と、まわりの人間が思っているかもしれないと思うとヒナは怖くて話もできません。


まだ婚姻の宣誓もしていないし、教会で祝福も式も挙げていないし国民にお披露目とかないので本当の王妃ではないはずです。


もしかしたら王の単独の暴走かもしれません。


どうしてこうなった?毎日(こえ)えーよう。・・・という心境です。




「・・・王に会いたい。」


自分の閉じこめられている部屋の窓(しかも体が出ない大きさの窓/バルコニーのある部屋は一人にしてもらえない)から城を見つめて独り言を呟いていると、後ろで控えていた女官に「今夜は王のお渡りがあるそうですよ。」と教えて貰えました。


「本当ですか?」


自分でも笑顔全開であると自覚できるほどの笑顔でした。


女官は「まぁ!」と何故か頬を染めています。


何を勘違いしてるか知りませんが、ヒナは「やっと愛しの王に会える!」とか、乙女ちっくなことで喜んでいるんじゃないのですよ?


王を締め上げてでも色々聞かなければならないことがあるのです・・・フフフ。


腕がなりますよ・・・覚悟して下さいませね?







やっぱり自分の主に王のお渡りがあると聞けば、女官の方も侍女の方も普段よりパワーアップするようです。


ヒナが女官の立場なら同じようにしたでしょう・・・。


普段よりも何割か増しで念入りにお手入れされちゃいました。


お化粧だけは何とか免れましたが、やはり"お部屋様"が身につけるような紐で脱げてしまう夜着です。


冬もこれなんでしょうか・・・寒そうですけど。


そういえば女官時代は最初は綿のふつうの夜着だったのに、最後には(シルク)の紐のついた夜着になってましたね。


あの・・・『さあ、どうぞいただいて下さい!』と言わんばかりのシュチュエーションですが、そんな事は許しません。




何故か今晩は備え付けの燭台の蝋燭をケチられているような気がします。




寝台(ベッド)の上で待つこと約1刻・・・知りませんでしたが、待つ方はずいぶん待たされるのですね。


早く来ないと本気で寝ちゃいますよ。


少しイライラしていると「お渡りです。」とそっと先触れがありました。


自分がしていたようにどこかで誰か見てるんでしょうか。


今になってその可能性に思い至り、キョロキョロと部屋を見渡しますが、よく考えればこの部屋の周りの部屋って全部把握している部屋で、こちらをチェックして控えるような部屋はなかったです。




"お部屋様"はベッドの横で平伏して王をお迎えしていましたが、ヒナはベッドの上で腕を組んでお待ちしておりました。


「ヒナ!」


久々(半月くらいぶり?)に会った王は、やはりというか夜着とガウンを着ています。


「お待ち下さいませ。それ以上近寄らないで下さい。」


王の嬉しそうな顔が落胆に変わりました。


「もしかして・・・怒ってる?」


「半月も放置されて怒らずにいられますかっての!どういうことか、説明していただきましょうか?」


ヒナの中から黒い何かが滲みだしているでしょう。


ヒナはこの数年、基本的には王に従順でした。


王は「頼むから傍に寄らせてくれ!」と土下座です。


王なのに威厳もへったくれもありませんw


その姿を見て少し溜飲が下がったので、ちょっとだけ許すことにしました。


「じゃあ、ベッドの端までなら・・・許します。」


部屋の入り口からベッドまでの距離までかなり進んだのですから、もういいですよね?


不敬と言われようが、ヒナには聞く権利があると思います!




「きちんと説明くらいして下さいよ!説明できないならどうして手紙の一つでも寄こさなかったのですか!」


ヒナの剣幕に「すまん!」と頭を下げる王。


すっかり主従が逆転しています。


「隣国の第7王女との婚姻の話があって、正妃(ヒナ)を娶ることになったからと断るのに手間取ってた。しかもこの休みをひねり出すために働きずくめで・・・」


「怒って戦にならなかったのですか?平民出の王妃を理由に第7とは言え隣国の王女を蹴るなんてって。」


ヒナなら攻め込みますけど。


「ヒナはもう平民じゃない。」


なんですとう?


「褒賞の時にちらっと言ってた"貴族との養子縁組"を勝手に決めちゃったとか言わないですよね?」


王の目がすっと泳ぎます。


やったんですね?!


「もし養子縁組をしたとしても、ヒナが平民だった事実は消えませんよ。それで相手は納得したんですか?」


王はベッドの端から神妙な顔で「ヒナはココノーエ侯爵家の血をひいている。」と言います。


は?


「王の後見についている一人のココノーエ侯爵ですよね?また無理をお願いしてヒナをその家の出にしたんですか?隣国にバレバレじゃないですか。」


ヒナがジト目でそう言うと、王は「そうじゃなくて本当だ。」と言い張ります。


「ミナセ家は何代も前から由緒正しいって言っちゃ変ですけど、平民ですよ。」


首を傾げると、ベッドの端から王が越境してきました。


「ミナセ家じゃなくて、ヒナの母親のアキさんがココノーエ家の出なんだ。かなり前にココノーエ家からヒナを養子にしたいという申し出があってココノーエ家でアキさんの肖像画など確認したことがある。何の力もない俺を後見してくれたのも、生前アキさんが頭を下げてココノーエ家にお願いしたからだそうだ。」


そんなこと知る由もありません。


「母はココノーエ家の実子なんですか?庶子なんですか?」


「実子だ。」


じゃあ、母ってお姫様だったんですかっ?あの鬼母がお姫様とは世も末です。


それでも"自国の侯爵家"と"隣国の王家"とじゃ格が違いますよね?


どうやって矛を収めさせたのでしょう。


「・・・で、どうしてヒナにココノーエ家の話がこなかったのですか?」


普通なら両親亡き後に【おじいさん、おばあさんとの邂逅!】みたいな展開があったはずですが・・・。


「ごめん・・・俺が話を止めてた。」




は・あ ? な・ん・で・す・と・う ?




王はとうとうヒナの隣まで不法侵入を果たしました。


「ヒナがココノーエ家に行ったら、一緒にいられなくなるから延ばしてた。」


ヒナの横で再度土下座したままの王。


「ココノーエ家に申し出て、養子縁組とヒナとの婚姻を認めてもらうまでにも時間がかかった。待たせてすまない。」


待ったには待ちましたが、肝心のヒナを置き去りにして何か大事なことをすべて(・・・)決めてしまいましたね?


「・・・確かにこの時代・・・娘の婚姻は親が決めるようなものですが・・・それにしても・・・。」


ヒナの中でフツフツと怒りが煮えたぎっています。




「教会にも提出してある!」


提出って何をですか?婚姻届?


「ヒナの処女のあか」


ボカッ。


「何してくれるんですかっ!」


涙目で王をポカポカ叩きます。


本気でやると危ないので本気じゃないですけど、それなりに痛い目にあって下さい!


「正妃を娶るための婚姻には必要なんだ!」


処女の証って・・・まさかシーツを持って行ったのって・・・!


ヒナが処女じゃなかったらどうしてたんでしょう・・・って、そういう問題じゃなくて!


それに"お部屋様"たちも当然違いますよね?


「そんな法律撤廃してしまえー!!」


思わず足で王をベッドから蹴り飛ばしてしまいました。


ハッ、と気がついてベッドから降りて一応助け起こします。




「・・・タカオミ様。」


にっこりと微笑んで、顔に手を添えヒナから王の唇にゆっくりと軽く口をつけます。


そして王の手をヒナの夜着の上から胸のあたりへとそっと導きました。


「ヒナ・・・!」


目を見開いて一瞬硬直した王が正気に返ってヒナを抱きしめようと手を動かした瞬間、さっと後ろに飛んで避けます。


「今日はもうこれ以上触んないで下さい。ヒナはすごく怒ってます。」


少し乱れた夜着を直しながらヒナは舌を出して「べー」としました。


「ヒナっ!そんな、殺生なっ!」


ヒナはさっさと寝台(ベッド)に潜り込んで寝具にくるまって寝ることにしました。


本人に無断で勝手に結婚を決めないで下さいよ。


確かにあの朝のゴニョゴニョ・・・は合意の上でしたよ。


まさかあんなに痛い目に合うとは思いませんでしたけど。


でも、正妃ってなんの冗談ですか!




まあ、結局は夜中のうちに許すことになるんでしょうけどね。


ヒナはタカオミ王には甘いですから。






一話ごとに長くなる話・・・しかももう一話おまけがあるという不思議な上・中・下のお話(汗)

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