【番外編】もしも鷹臣がファンタジーな国の王様だったら 中
またもやこれで一本話が書けてしまいそうな感じです。
湯殿で王を清潔な夜着とガウンに着替えを済ませ、ヒナが剣を携え、女兵士の横を通り抜けて後宮の回廊を歩きます。
手燭は必要にないよう回廊には一定間隔ごとに蝋燭が灯されています。
はぁ。
心の中で今日何度目になるかわからない溜息をつきながら、目的の部屋に到着しました。
そう・・・お渡り・・・すなわち、後宮の女性の元に王が通うことです。
ぶっちゃけ場所は一緒でも毎回別の"お部屋様"(寵愛されれば独立した後宮内の宮殿に移動らしい)なのですが、そこはヒナは何も存じません。
今のところご寵愛の方はいらっしゃいません。
王専用の通路で隣の部屋に続く控えの間(いざとなったら飛び出していける場所)は、向こう側からは見えないようになっています。
「お気をつけなされませ。」
ヒナは王が出てくるまで、剣を預かってここで待機になります。
まだ生娘なのに・・・毎回勘弁してくださいませよ。
できれば目も耳を塞いでしまいたですが、万が一があっても困るのでそうもいきません。
王国が落ち着いてきたら次はお世継ぎという流れになって約2年が経過し、ヒナはこの役目が一番つらいです。
最初の日なんて泣いちゃいましたらね。
薄暗い中、ぼんやりとですが見えているし、色々聞こえているけど、ヒナは何も見聞きしていませんよっ!
そう、王が何かの薬を飲む日・・・それは決まって"お渡りの日"なのです。
何の薬か存じませんが、滋養強壮薬とか?なのでしょうか?
毎回ヒナとマサト様も飲んでいるので二人してかなり体が強くなってるかもしれません。
*
室内が静かになってしばらくしてから、王は無言で戻ってこられました。
ヒナは視線を合わさず(というか絶対に合わせられません!)平伏しています。
「戻る」
乱暴にヒナの腕をひっぱり、立たせます。
「戻って湯につかって寝る。」
不機嫌な声で決定事項を告げられ、また風呂か・・・と来た道を戻ります。
そうです。この日はお風呂が二回なのです。
お風呂は庶民には贅沢品だし、気持ちいいのでキライじゃないですけど、王はアノ後なのでいたたまれないというか。
事後のお風呂は他の方担当にしていただけないでしょうかね。
はぁ・・・。
王に気づかれないように、こっそりため息をついたのでした。
*
夜着に着替え寝所に入ります。
こりゃ"お手つき様"って言われても仕方ないですよね。
まるで事を成す前の"お部屋様"が着ているような紐でスルッとほどける白い絹の夜着を素肌の上に着せられました。
最近は毎日これなんですよね。
少し前まではもうちょっと厚手の普通のものだったような気がします。
どなたかが、"お手つき様"に余計な気をまわして下さってるのでしょう。
あ、"月のもの"の一週間だけはこの役目は休みにしてもらってます。
「ヒナ、来い。」
剣を枕元に置いた王が、下ばき一枚で寝台の上で待っています。
ヒナは抱き枕、ヒナは抱き枕、ヒナは抱き枕・・・と心の中で三回呪文を唱えて寝台の中にお邪魔します。
コレ、絶対女官の仕事じゃないですからっ。
こんな状態がまわりにばれているので、もう嫁入りは無理でしょうね。
そもそも戦の時の傷があちこちに残っているし、年齢も適齢期(16~18)をとっくに越えているし、よくよく考えてみれば今の状態がなくてもフツウの女性として嫁ぐのも難しい状態・・・。
両親が生きていたらこんなことは絶対に有り得なかったです。
・・・もうヒナは嫁入りは諦めて、一生城勤めしか道は残されていないようです。
王の腕の中で「おやすみなさいませ。」とおやすみのキスをします。
王も「おやすみ。」とキスを返してくれますが、ヒナの親愛のチョンとしたものでなく、呼吸がつまるほど激しいものでした。
こうすると悪夢を見なかったそうなので、いつの日からか習慣になってしまいました。
そういうのは"お部屋様"として下さいよ~。
だーかーらー、"お手つき様"って・・・以下同文・・・・・・ぐう。
*
女官の朝はすごく早いです。
これが他の貴族の方ならもう少し遅く行動できますが、タカオミ王は仕事好きですから・・・。
王もそれなりに早いですが、ヒナはもっともっと早いです。
王の腕の中からそっと起き出そうとすると、何回かは引き戻されてしまいます。
いつも予定の時間より早目に起きて、諦めてくれるまで抜け出す攻防を繰り返すのです。
一国の王がこの状態とは他国には知られたくありません。
王が孤独なのはわかりますが、乳兄妹に甘えるのにも限度がありますよ?
「・・・タカオミ様。そろそろヒナは行かねばなりません。」
寝台の中で、ヒナの乱れた夜着(寝ぞうが悪いみたいです)を整えようとしますが、後ろからわざと乱して遊ぶ人がいるのです。
あっ、紐はひかないで下さいっ。
肩がでちゃいましたよっ。
「そんな薄いの。着ても着なくても変わらない。だったら脱げ。」
露わになった左肩に唇をつけた王は、何故か吸いついています。
左肩には矢傷があるので、じっくり見ないで下さい。
「なにやってんですか、もう。」
くすぐったいのでやめて下さいよ。
「聞いた話だと肌に吸いつくと痕が残るそうだけど、ヒナはできる?」
ヒナをくるんと自分の方へ向かせ、悪戯そうな瞳で王はそう問いました。
「やったことないですし、聞いたこともありません。」
今、そういうのが流行ってるのでしょうか。
「ちょっとやってみてよ。」
えっ?
「って、どうやって?」
すると王は自分の首のあたりを指さして「この辺をちょっとキツメに吸ってみて。」と言っています。
「本当ですか~?」
疑いの目で見ていると「だからやってみせてよ。」と笑っています。
「じゃあ、ちょっと失礼して・・・。」
指をさされた辺りをそのままチュッと吸ってみます。
「全然つきませんよ?」
「吸いが足りないんじゃないか?」
真面目に言われたので、もう一度チャレンジしてみます。
何回かチュッと音を立てて吸いますが、ピンクっぽくなったような気がしますが、なかなか痕はつきません。
「ガセなんじゃないですか?」
ヒナが疑いの目で見ていると「うーん。じゃあ、交替。」と、起き上ってこちらをジロジロと見ています。
「硬い所より柔らかい場所の方がいいかも。」と夜着の紐に手をかけます。
「ちょっ・・。」
「あ、動かないで。」
夜着のあわせを少しだけ広げると「ここがいいかも」と、ニヤリとして胸のふくらみをツンツンと指でつつきました。
「だっ、ダメですよっ。」
「うーん、じゃあ吸いやすそうな所でやっぱり首かな。」
王は覆いかぶさってきて、そのまま首にくいつきました。
「すっ、吸うんじゃないんですかっ?」
ヒナの言葉に王は首を吸ったり緩めたりを繰り返します。
「ん、ついたよ。」
満足げな笑顔の王にほっとしていると「じゃあ他にも。」と今度は胸と肩の間くらいを吸いはじめます。
チュッという音がして口が肌から離れます。
さすがに胸に近い肌を吸われて恥ずかしくて動悸がしてきました。
動悸のせいで顔を赤くしていると、王は今度はおやすみなさいのキスのような激しいキスを口にしてきました。
「んっ」
その間にもはだけた夜着の間から手を差し入れていてゆっくり肌を撫でたりさすったりしています。
こ、これって・・・。
さすがに胸の頂に触れられた時にはわかりました。
よく見たことはないけどお部屋様となさっているアレよね・・・?
依然として上から離れない王が「・・・もう我慢できない。」と耳元で囁きました。
えっ、ええ~?
「なっ、なんで急にっ。」
ヒナが驚いて、逃げようと身じろぎをしましたが、上からがっちり体を押さえられて逃げるに逃げられません。
「急じゃない・・・。ずっと前から我慢してた。」
首元に口づけていた王がヒナに顔を寄せると、妖しく濡れた黒い瞳にヒナは硬直します。
「お、王・・・。」
「今はタカオミと呼べ。」
心もとない夜着の紐を引かれ、肌が全開になりました。
王はヒナの足の間に体を割り入れ、下ばきを片手でほどいています。
「・・・え。」
この2年、一度も想像すらしなかった展開です。
王には視界の悪い浴場ですべてを見られていますが、こんな明るい時間に体をさらすのは初めてです。
「この傷・・・。」
王はヒナの内腿の古い傷を指でつっと触りました。
ひいっ。
触られると何故かぞくぞくっとしたものが体に走ります。
「そ、それは・・・矢がかすっただけです。」
男だったら場所的にアウトだったかもしれませんが、幸いヒナは運よく足の間をかすっただけで済みました。
一歩でも違っていればブッスリだったと思います。あの時はけっこう出血しましたね・・・。縫ってもらって・・・あれで医師に女だとバレたんでしたっけ。
王はその傷に唇を落としました。
ぎゃあっ!
なんてところにっ。
そのまま、人には言えない場所まで唇が・・・!
顔だけでなく頭の中も沸騰してきました。
言葉がうまく操れません。
この先に何が起こるのかはよく知っているはずですが、ヒナはそのまま王のなすがままに従ってしまったのでした。
*
「あっ、あああああっ!!」
イタイイタイイタイイタイっ!
思わずあげてしまった悲鳴に口を自分で押さえます。
痛いとしか言いようがないですっ。
ヒナは痛みに強い方だし、戦の時の傷の方が痛かったはずなのに、今の方が我慢がききませんでした。
"お部屋様"たちは毎回こんな痛い思いをされているのでしょうか。
噂では気持ちいいらしいと聞いていたので、ちょっとは期待して・・・げふんげふん・・・嘘じゃないですかっ。
皆さん・・・そんなに痛そうな声ではなかったですが・・・、痛みにお強いのですね、きっと。
もしかして王も苦しそうだし痛いのでしょうか。
だから毎回帰る時に不機嫌なの?
痛みから逃れるために現実逃避を試みましたが、痛みで現実に引き戻されるし、王は「くっ・・もう・・・少しだ。」と非情な宣言をして、体が上に逃げそうになるのを許しません。
まだなんですかっ?
あまりの痛さに涙がにじんできました。
「っ、力を入れるなっ・・・。」
そんなこと言われても!
体の中を圧迫してくるものに息が詰まりそうになります。
・・・でも・・・その責め苦がそれで終わりではなかったことを知るのは・・・もう少し後の事でした。
*
「・・・本当に"お手つき様"になっちゃいましたね。」
王は裸のまま、ヒナを抱きしめています。
「だからこのまま妃になれ。」
王がヒナにまた深い口づけをしてきます
脱力した体のまま、口づけを受け入れましたが、ふとそれに気づきました。
唇をふさがれて首を振りながら、んーんーー唸っていると、王は名残惜しげにやっと唇を解放してくれました。
「どうした?」
やさしげな瞳で尋ねてくれましたが、それどころではないのです!
「・・・じっ・・侍従長・・が・・・。」
顔を羞恥の色に染めて、ぱくぱくしていた口でやっと言葉にできた時には、寝所のドアを開けた侍従長の後ろに剣を持って硬直している人々の影が見てとれたのでした。
ヒナ・・・裸。
王・・・・裸。
場所・・・乱れた寝台の上。
一体・・・どこまで公開しちゃったんですかー?!
「上」の次に「下」じゃなくて「中」が来た時点で長くなりそうなのがバレバレです。