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【番外編】もしも鷹臣がファンタジーな国の王様だったら 上

またまたまた本編とは関係のない架空の【もしも】のお話です・・・って、思いついたものをついそのまま書いてしまう作者なのでありました。




「王、ヒナはいかがいたしましょうか。」


王の執務を終えた後、タカオミ王の側に控えていたヒナは、王から呼ばれて数歩離れた場所で膝をつこうとしましたが視線で止められたのでそのまま言葉を待ちました。


「そろそろマサトが来る。」


・・・はぁ、今日はそういう日なんですね。


内心のイヤな顔を表に出さずににこやかな表情を保つようにしなければなりません。


ヒナは薄い紅色の女官服の裾をさばきながら入口の側で待機することにしました。


この女官服、布が多くてズルズルして動きづらいんですけど、市井(しせい)じゃないから時代がかって長い服でも仕方ないですよね。


水に落ちたら服のせいで溺れそうになるくらい普段から重いのです。




「マサトさまがおこしになられました。」


先触れを侍従が伝えてまいります。


「お伝えいたします。」


たぶん王には聞こえていると思いますが、いちいち面倒なやり取りを介して会話をしなければなりません。


ヒナは王のそばに侍り「参られるそうです。」とお伝えしました。


王は不機嫌そうに「普通に話せ。」とおっしゃいます。


普通ならここで「御意に」と従うものですが、ヒナは王に口答えしても許される権利(二人の時限定)をいただいているので「なりません。」とにっこり微笑んでかわします。


不敬を問われても文句の言えない状況で、この前シゲ女官長とトリジー侍従長にWでお説教をいただいたばかりなのです。


「王はもう市井で暮らす"タカオミ"ではなく、この国の王なのです。ご容赦を。」


たぶんこの態度が更に王を不機嫌にさせるのは頭ではわかっていますが、一生乳兄妹のヒナとして対等な口をきくのは難しいと感じるようになってきました。




むかし・・・シズマ王がこの国を治めていた頃・・・王族であるタカオミ様は命を狙われ、ヒナの両親(脅威の事実!城勤めで乳母でした!とその時知りました)に匿われ一緒に暮らしていたことがあります。


その後、シズマ王がこの国を追われ亡くなるまで長い戦いがありました。


その戦いで両親を亡くしたヒナですが、王位を継承した時に一緒に城に上がることになったのです。


当初は両親の功績とヒナが男装して小姓となり戦にも侍った功績?とで、"()"(のたぶん一人)として召し上げると言われたのですが、平民のヒナには畏れ多いと辞退したのであります。


ヒナが男装の小姓でなく、本当の男なら報奨金や準男爵位(その後に功績がない限りは一代限り)でも賜って丸く収まったと思いますが、なまじ身分が平民で更に女だったために現場は大混乱をきたしたのです。


これからなみいる大貴族や他国の姫を妃として迎える王には、平民の娘は邪魔となりましょう。


それに女の戦いうずまく後宮で、何の後ろ盾もない平民の女がやっていけるでしょうか。


タカオミ様は大事な方です。


ですからヒナも身を(わきま)えなければならないと思います。


いっそのこと妥協して「愛妾」という身分(ヒナ的には名ばかりで)をいただいて、功績のあったどなたかに妻として与えられれば良かったのかもしれません。


戦場を共にした軍の方には幾人かからお声をかけていただいたんですけどね。


あ、ヒナの名誉のためにも言っておきますが、今だってたまに声をかけられますよ?


決して、ただの軽口じゃないと信じたい・・・いえ、婚期を逃してるからってからかわれてなんていませんから!たぶん。


ゴタゴタの後に結局ヒナは女官として働くことになったのです。




「タカオミ様。」


ヒナが考え事をしている間もマサト様は臣下の礼をとっています。


「よい。人払いを。」


部屋からヒナとマサト様と王以外の人がいなくなると、王はとたんに砕けた態度になりました。


「ああもう、毎日毎日疲れる。全部マサトに譲るから逃げ出したいよ。」


首のまわりをゆるめながら、ドカッと椅子に腰かけます。


ヒナは直立不動のままその様子をみつめていました。


マサト様は苦笑しながら「譲るといわれても困りますよ。私は今の暮らしに十分満足しておりますので。」と懐から錠剤の入った小瓶を取り出します。


「ヒナ。」


王に声をかけられ、ヒナは瓶の中から無作為に3錠をマサト様に渡し、3錠を自分で服用しました。


これはいわゆる毒見もかねています。


ヒナとマサト様がグルなら成り立たない方法ですが、マサト様は王を害することはないでしょう。


そして王に3錠を手渡すと瓶をマサト様にお返しします。


瓶を全部貰わないのは、その全部に蓄積するような毒が混入された場合や、そのどれかに致死性の毒があった場合に危険だからです。


食事の時もまずは毒見係が毒見し、さらに王の前でヒナが毒見をし、王の口に入るという念の入れようです。


王は服従を誓った人物でも、どこか心の中で信用できなくなってしまったのだと思います。


「ご苦労だった。」


マサト様は頭を下げて退出しました。


はあ・・・。


心の中でため息をつきながら、ヒナは次の指示を待ちます。


「湯の支度をせよ。」


やっぱりね。


「かしこまりました。」


頭を下げて湯の用意をするように伝えます。


あたりは暗いので手燭(てしょく)を持って王を湯殿まで先導し、見張りの女兵士に頭を下げ、脱衣場へと入りました。


本来ならここには王を清める係がいたのですが、信用できないとヒナ以外は入れてもらえません。


「武器がないか示せ。」


・・・。


蝋燭の明かりの中、少し離れて王の目の前で自ら衣類をすべて脱ぎます。


もう慣れてしまって無垢な乙女に何させるんですか!とも思いません。


すごく信頼していた人に裏切られているので、ヒナでも完全に信用できないのでしょうね。


王が危険物を持っていないかヒナをじっくりと検分したのを確認してから、ヒナは薄い湯着を身につけました。


今度は王の着衣をゆるめます。


「湯着はいらない。」


内心ゲッと思いながら、それに従います。


王は剣を湯殿に持ち込み、湯のかからない場所に置いていました。


後で手入れしないといけませんね。


「洗え。」


洗ってもらって当然とばかりにヒナに要求します。


これは犬、犬なんだぁ~!と自分をごまかしつつ、ヒナはなるべく体を見ないように洗います。


本来なら女官の仕事じゃないのに・・・。


そう思っていると王とバチっと目が合いました。


「洗ってやる。」


「いっ、いえっご容赦をっ。」


王の手がヒナの手を引きます。


「どうせ湯着は濡れてる。一緒だ。」


透けてるの考えないようにしてたのに~!


スパッと脱いでる時よりも服を着て透けてる方が恥ずかしいってどうなんでしょうね。


「王が手みずから女官を洗うなど・・・あってはなりません。」


「他には誰もいない。」


こうなったら、もう澄ましていられません!


「いないから問題なんですって!ヒナ、外で何て呼ばれてるかご存じですかっ?!【お手つき様】だそうですよっ?」


王は意外そうな顔をしていました。


「口はつけてるが、()はつけていない。」


「口だってマズイですってば!執務以外で四六時中一緒にいて食事も風呂も寝所も一緒で何もない訳がないって勘ぐられても仕方ないでしょーがっ!」


ヒナの抵抗むなしく、結局は王の前に座らされて、頭と体をガッシガシと色気なく洗われてしまいました。


いえ、色気は必要ありませんでした!


ヒナも王にとって(ペット)のようなものですかね?


行軍中の水浴びとかじゃないんですから、乱暴にしないで下さいよ。


それに髪の毛は猫っ毛が絡みますのでできれば自分で手入れしたいです。


「いつか・・・ヒナが褒賞か何かで与えられた相手に"王のお手付きじゃなかったのか"ってビックリされるんですよ・・・。」


ヒナは精神的にガリガリ削られた体を引きずって、王から少し離れた所で湯につかりました。


湯着?とっくに脱がされましたよ(涙)


「寝所は・・・ヒナがいないと眠れない。枕がわりだ。・・・手放せない。」


戦の後から王が酷くうなされ続けてつい絆されてしまったのもありますが、それでもいつまでもという訳にもいかないでしょう。


「その割にはヒナのことも信用なさってませんよね。ヒナがいつか寝首をかくかもって思ってるんですか?」


あんまりぶっちゃけると不敬罪に問われるかもしれません。


王は「ヒナは妃になるのを断った。」とぶっきらぼうに告げました。


はあ?


まだあれを根に持ってるんですか?


「たとえ枕かわりでも、功労や褒賞のためでも、平民の女に妃はやりすぎですから。女官に取り立ててもらっただけでも十分ですよ。」


王を視界に入れないようにして入口の方を見ています。


「・・・」


王の視線を感じましたが、知らないフリをします。


「そろそろ湯から上がった方がよろしくありませんか?"お渡り"の時間が来てしまいますよ。」


「・・・そうだな。」


ヒナの後ろで王がザバッと立ち上がる水音がしました。


そのままザブザブと水をこぐ音がします。


ヒナの後ろで王が止まりました。


「ヒナ。」


重い声です。


「・・・はい。」


「あの頃は楽しかったな。」


まだ田舎のとある街で暮らしていたあの頃・・・。


まさかタカオミが王になるとは思っていなかったあの頃・・・。


ヒナはいつかタカオミのお嫁さんになろうと思っていた・・・無邪気な少女時代のあの頃。


「・・・そうですね。」


でも、"タカオミ"の出自を知った時に、ヒナの初恋は死んでしまったのだと思います。


涙が溢れそうになるのをこらえ、ヒナは湯をすくって顔を洗ったのでした。

タカオミ王、執政以外の自由時間では好き放題やってます。だって架空のファンタジーな国の王ですから。

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