それは凶器ですか?
鷹が自宅に「宝石商を呼ぼうか」と言いだしました。
はい?何か聞きなれないワードがありましたよ?
「宝石商?」
首をかしげると、鷹は「結局婚約指輪も誕生日に買ったヤツのままだし、結婚指輪だってシンプルなのだし、ちゃんとしたのを仕立ててやってないから。」と言います。
ちゃんとしたのですか・・・。
「いりません!」
ヒナは断固としてお断りします!
「何でだよ・・・。」
鷹は不満げですが、かっつんの『ちゃんとした指輪』をみせてもらいましたが、あれは既に凶器です!
「ヒナは日常で身につけられるものがいいんです!鷹からもらったあの指輪がいいので何個もいりませんよ。」
あんなドでかい石の指輪・・・していく場所がありません。
鷹はヒナの様子を見て、諦めたのか「欲がないよな・・・。」とため息をつきました。
どうして今になって急にそんなことを言い出したのでしょうか。
「鷹、何かあったんですか?」
鷹の横まで行って、顔を覗き込みましたが「・・・」と顔をそむけられます。
顔をそむけた方へ回り込むとまた顔をそむけました。
人のことは言えないですが、わかりやすいですね、鷹。
「やっぱり何かあったんですね?」
ヒナの問いかけに知らんぷりをする鷹。
子供ですかい!
「・・・そっか・・・。ヒナに言えない疚しいことでもあったんですね・・・。ショックです。」
ヒナがしょぼんと離れていく(もちろん演技で!)と鷹が「ち、違う!そんなんじゃない!」と慌てています。
フッ、かかりましたね。
「・・・いいんです。だってヒナは元使用人ですから。」
さらに声を小さくして、自室に戻ろうとすると鷹がソファから立ち上がってヒナを追いかけてきます。
鷹が釣れました!
「待って、ヒナ!」
走ってきた鷹が肩を掴んで自分の方へ振り向かせました。
ニヤリ。
「!・・・騙したな!」
鷹は何とも言えない表情で、ニヤリとするヒナの顔を見ています。
「で、何があったんですか?」
鷹に逃げられないように背中に手をまわしてくっつきます。
「急に指輪を買おうなんて、どういう風のふきまわしでしょうか?」
下からじっと鷹の顔を見上げると、鷹は「うう・・・。」と呻きました。
さあ、とっとと白状するのです!
まるでホールドアップのように上がっていた鷹の両手がヒナの背中に降りてきました。
「今まで妻が喜ぶプレゼントをしたことがないって同僚に言ったら『そういう時はやっぱり光りものだろう』って言われて・・・。」
ぎゅうっとされているので鷹の顔は見えませんが、きっと照れくさそうな顔をしてるんでしょうね。
「ヒナが"光りもの"が好きそうに見えますか?」
そりゃあ、たまにキレイとか可愛いと思いますけどね。
「あんまり・・・。」
そうです、正解です。
「どうして急に?」
鷹の抱きしめる力が少し強くなりました。
「この前・・・。」
この前って?
そう疑問に思っていると「秋浩から手袋をもらって喜んでたじゃないか。」と硬い声で言われました。
・・・確かに喜んでました。
でも、鷹には"手袋"としか言ってませんでしたが、あの手袋は手袋でも普通の手袋ではないのです。
U.S.ARMYも使っているというナックルガードのついた手袋です。
ナックルガードは殴るためじゃなくてでっぱりを保護するためですよ!
兵士が銃を構えている時に銃弾を受けてプロテクター部分ではじいて無事だったとかとヒロさんから聞いて、その辺で買えるものでもないし、単に珍しくて喜んでただけです。
それにしても、ヒロさん、何のためにあれを買ったのでしょう・・・?
何かのマニアなんですかね。
「アレはヒロさんがサイズを間違って注文して返品するのが面倒でくれたんですよ。唯さんはけっこう指が長いからヒナにまわってきただけですって。」
「・・・でも喜んでた。・・・俺はそういうプレゼントをしたことがない。」
うっ、確かに!
いつも鷹はちょっと先走りすぎですからねぇ。
「ヒナは物をいただかなくても、鷹と一緒にいるだけで幸せなんですよ?」
少し息が苦しいですが、ぎゅうぎゅうに抱きしめる鷹の背中をヒナもぎゅっと抱きしめました。
「こうしているのが、一番のプレゼントです。」
下手にケーキをうれしいと言った日にはしばらくケーキ責めが続いたので、ヒナは抱擁で十分ですよ?
モノはいりませんて。
「ヒナがおばさんになっても、おばあさんになっても抱擁したり手をつないで下さいね。」
「そんなことでいいなら、いつでも。」
少し背中に回る力が緩んだのを感じて今のうちに酸素を肺に送っておきます。
胸にくっつけていた顔をゆっくりあげると、鷹の顔が・・・
ぐはあっ!
めちゃくちゃ嬉しそうにキラキラと輝いていましたっ!
思いがけず直視してしまったので、赤面して視線を戻してしまいました。
・・・素敵な笑顔、ごちそうさまです。
ヒナの脳内にばっちり焼き付けましたよ!
そうじゃなくてっ!
「ん?どうしたヒナ?」
キラキラしい顔のまま、ヒナをのぞきこむ鷹。
結婚して夫になったはずなのに、やっぱりいまだにキラキラには慣れていないヒナなのでありました。
その笑顔・・・妖しい雰囲気の時もそうですけど・・・ヒナにはじゅうぶんに凶器ですよっ!
それでも懲りずに高価なプレゼント(ヒナ的に)をつい贈ってしまう鷹臣でした。
7/2 誤字訂正