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昼下がりのヒミツ

その日たまたま俺は家に立ち寄ったのだった。


外回りというほどではないが取引のある会社に出た後に、少し遅い昼休みを自宅で過ごそうと思ったのが事の発端だった。




ヒナを驚かそうとこっそり帰宅する。


玄関をみると、男物の靴があった。




・・・誰だ?




今日は来客の予定はなかったはずだ。


悟さん(ヒナの父)の靴にしては若い男が好みそうなヤツだし。




この時、俺は声をかければ良かったのだ。


なのに、こっそりと様子を窺うことにしたのだ。




そっとリビングの方へ近寄って聞き耳をたてる。




「ヒロさん。シャワー浴びていいですよ。」


ヒナの声だ。


ヒロさん・・・秋浩か!


「ああ、借りる。」と秋浩の声が聞こえた。


こっちに来ているとは聞いていないぞ?




少し間があってまた会話が聞こえる。


「まだ余力がありそうですね。もう一回しますか?今度はもっと激・し・くして下さいよ。」


「俺を殺す気か?・・・そこまで言うなら鷹臣にでもしてもらえ。」


「鷹じゃ駄目なのはヒロさんがよく知ってるでしょうに。」と拗ねたようなヒナの声。




な、なんの会話をしてるんだ・・・。


まさか、ヒナに限って。


・・・浮気なのか?




「鷹か帰ってくる前に証拠隠滅しておきます。明日も来られるんでしょう?」


「・・・ああ。また11時に来る。」


「楽しみにしてますね。」


「ヒナ、いい加減シャワー使わせてくれ。自分は先に入ったからスッキリしただろうけど、俺はベタベタだ。」




頭が真っ白になる。


いつの間にか俺は家を出て会社に戻っていた。




ヒナと秋浩が・・・?


その後も自分が何をしていたかよく覚えていない。


なのに、いつの間にか明日の有給だけはとっていた。




明日、ずっと家にいるか?


それじゃあ先延ばしになるだけか?


現場を押さえるか?


・・・もしヒナが浮気じゃなくて本気だったら?


いつもはヒナに強引すぎると言われる自分も、弱点(ヒナ)のこととなると途端に弱くなる。




考え事をしているうちに、いつの間にか自分の家の玄関に戻ってきていた。


「ただいま。」


玄関に入ると奥からヒナが走ってくる。


「おかえりなさい、鷹。」


いつもと変わらぬ笑顔だった。


鞄を廊下に置いてヒナを抱きしめてただいまのキスをする。


「・・・いい匂いがする。風呂に入った?」


ヒナの首のあたりに顔を寄せると「ちょっと運動しましたので。」とくすぐったそうに首をそらした。


「今日何か変わったことあった?」


いつもと変わらない様子を装って尋ねてみる。


「特になかったですよ?」


屈託のない笑顔。


その笑顔の下に、俺を裏切る別の女の(かお)があるのか?


俺の胸の深いところで(くら)い炎が(とも)ったような気がした。




その夜・・・いや朝方まで、俺はヒナの意識を何回も飛ばすほどしつこくヒナを求めたのだった。


体のいたる所にある小さな(キスマーク)らしきもの・・・それを見る度に嫉妬で(くら)い欲望の(たぎ)りをヒナにぶつけることを繰り返す。







「・・・鷹、いってらっしゃい。」


ヒナはふらふらしながらも玄関まで見送りに来た。


「行ってくる。」


ヒナの唇に行ってきますのキスをして、いつも通りに会社へ向かう。


実のところ、今日は休みなので行ったフリだ。


とうとうヒナを問いただすことはできなかった。


俺はダメな男だな・・・と自嘲する。


昨日はとうとう一睡もできなかった。・・・と言っても朝方になってからも目が冴えて眠れなかっただけだが。


少し時間をつぶしてから家に踏み込もう。


その後・・・俺はどうしたいんだ?




答えを出すことができずに時間だけが過ぎていく。


時計をみると11時15分だった。


・・・とにかく家に戻ろう。


車庫に車を置いて、秋浩の靴を確認し、またこっそりと家に入る。




昨日あれだけヒナを啼かせたから最中ということはないだろう・・・。


そう思って、寝室かリビングか迷っていると、リビングから秋浩の荒々しい声が聞こえた。




「やる気あんのかよ!昨日"激しく"って言ってたからそのつもりで来たのに!」


そして「・・・ごめんなさい。」という弱々しいヒナの声。


最悪のことを考えながら、ドアをバンと開ける。




目に入ったのは、リビングの床の上で秋浩に組み敷かれたヒナだった。




二人は俺の登場に固まっている。


「・・・鷹、どうして?」


俺はヒナと秋浩を冷たい目で見下ろして「どういうことか説明してもらおうか?」と説明を求めた。


秋浩はヒナから飛びのき、両手をホールドアップの態勢にして「まて、冷静になれ。」と言っている。


ヒナは床に転がったまま、「今日はどこか具合でも悪くて早退でもしてきたんですか?」と悪びれずに言ったのだった。




「ヒナ、他に何か言いたいことは?」


なおも冷たい目を向ける俺に、ヒナは起き上って「何か怒ってます?」と首をかしげた。


秋浩は「おい、ヒナ。何かじゃない。ぜったい誤解されてる!」と後ろからヒナに伝えている。


誤解?言い逃れするつもりか?


「秋浩は、何か言うことはあるか?昨日から俺の留守中にコソコソと・・・。」


「だから誤解だってば!」


秋浩はなおも焦りながらそう言った。


「組み手だ、組み手!見ろ、二人ともトレーニングウェアだ!家具も片づけてある!」


ほう?そうきたか。


ヒナの方を見ると、確かにヒナも朝と違って体にピタッとしたトレーニングウェア姿ではある。


「タオルとスポーツドリンク用意して、こんな格好で浮気するかよ!」


「うわき?!」


ヒナが素っ頓狂な声をあげた。


「誰が誰って、・・・まさかヒナとヒロさんとですかぁ?!」


ヒナは秋浩を見てから俺をみつめた。


「ヒロさんとはそんな関係じゃないですよ?」


まっすぐな目でそう言われても・・・。


「いまのヒロさんは本家の厨房の和食部門にいる仲本さんがお好みなんですよ。あとは調査部の紅一点の吉田さんとか、下級使用人の伊藤さんですね。」


「なんでそこまでヒナが知ってる!」


秋浩が反射で答えてしまったという顔をした。


「唯さん情報です。」


ヒナは秋浩にニヤリと笑う。


「・・・あの女。」


秋浩はこめかみを押さえて小さく呟いた。







ヒナと秋浩が俺の前に正座した。


「黙って家にあがりこんで・・・誤解させてすまなかった。」


「いえ、ヒナが頼みこんだんです。すみません、鷹。」


二人で頭を下げる。


完全に疑いが晴れたわけではないが、たぶん浮気ではないのだろう・・・そう思いたい。


「唯さんに・・・ずっと本家にいるヒロさんが伸びてきたから相手してもらえって。最近のヒナは鈍ってるって言われて・・・。」


ヒナは下を向いて肩を落としている。


「伸びてるってホントか?」


対照的にうれしそうな秋浩。


ヒナは秋浩を見てコクンと頷いた。


「男の人だけあってまだまだ伸び代がありますよ。それに比べてヒナはもうピークを過ぎてるんじゃないでしょうか。体調に左右されますし・・・。」


「それにしても今日は酷すぎだ。やる気あんのかよ。」


そこ!二人だけの空気を醸し出すなよ。


咳払いをすると二人はこちらに視線を戻す。


「何度も言うが、二人とも軽率すぎる。ヒナはもう人妻だし、よく考えて行動するように。」


「「すみません」」


この二人は一体何回やらかせば気が済むんだろうか。


実は血のつながった兄妹とかなんじゃないか?




「で、肝心の"組み手"って?」と尋ねると、「今日はヒナがダメすぎるから、ゆっくりなら見せられるけど・・・」と秋浩が言った。


そういえば、鳥じいの小屋に閉じ込められた時に、秋浩が俺に相手にならないと言ってたな。


ヒナは「いま激烈に眠いんですけど・・・。」とフラフラしている。


「・・・昨日はちらっと何発かもらいましたよね。腕とか脇とか足腰でちょっと内出血してましたよ。」

「俺なんてあちこちすごいことになってるぞ。」


二人の応酬に心当たりがあった。




あれ、キスマークじゃなかったんだ!


変なところにもついてると思ってたら、自分が嫉妬したのは打ち身だったのか?!


そのせいでヒナにたくさん(キスマーク)をつけちまったぞ。




空間の空いた場所でヒナと秋浩は向いあって礼をした。




最初は何かの型のようにゆっくりと・・・そしてだんだん早くなってくる。


お前らカンフー映画の主人公か?!というほど早くなってきた。


その時、ヒナがふらっとよろける。


そして秋浩が足を払ってヒナを床に縫いつけた。


フローリングがものすごい音を立てた。


ヒナは大丈夫かっ?と思ったが、ちゃんと受け身をとっていたようだ。


「さっきはこのへんで鷹臣(おまえ)が踏み込んで来た。」とヒナの喉に手を当てたまま秋浩は言う。


ヒナは「もうダメです・・・。」と秋浩に組み敷かれたままガクッとして目を閉じた。




「昨日とはうって変わって、ヒナはずいぶんお疲れ(・・・)のようだな?」


秋浩はニヤリとしてヒナを抱き上げる俺の方を見た。


何が言いたいか察したが、知らんぷりで「組み手のことはだいたいわかった。」と言っておく。


「ちょっとゆっくりしすぎて不完全燃焼だな。せっかく酒も飲まずにコンディションを整えてきたのに。汗もかかなかった。」


そう言って秋浩は自分のものらしいスポーツバッグから服を取り出して風呂場の方へ消えた。




ゆっくりしすぎ?!




思わず秋浩を背中を見てしまったが、秋浩はそれ以上何も語らなかった。




秋浩を帰した後、ヒナと二人して食事もとらずに翌日まで爆睡したのは当然と言えば当然の成り行きだったのかもしれない。




その日から、俺はヒナとは絶対に喧嘩をしないようにしようと心に誓った。







数日経って、寝る準備をしているヒナの耳元で「俺にも"激・し・くして"って言ってみてくれる?」と悪戯心で言ってみた。




ヒナは毛を逆立てた猫のようになって「あれ(・・)以上がまだあるんですか?!」と瞬間移動のように一瞬にして遠くまで逃げたのだった。










もちろん修羅場にはなりませんでした。


(フローリング)・・・ダメになるのが早そうです。


無垢材にしなかったのは、リフォーム費用が高額にならないようにヒナの希望です。

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