【番外編】もしもヒナがSAKURAの社員だったら おわり
<Side 龍夜>
「あんの女、逃げたのか?」
目の前で鷹臣が怒り狂っている。
「前々から本家に戻る予定だった。それを告げなかったのはヒナの判断だろう。」
「お前の婚約者だろう?どうして戻した?」
おい、人の婚約者(名目上でも)と知った上でちょっかいをかけるつもりなのか?
鷹臣に詰め寄られて「今は"元"・婚約者だ。」と訂正しておく。
「元?!」
鷹臣は婚約破棄の件を知らなかったようだ。
目を見開いて驚きを隠せない様子に「お前に譲ってやった訳ではない。ヒナの希望だ。」と補足しておく。
「本当にフリーなのか?」と疑いのまなざしをむけているが、婚約者でも奪うつもりのお前にはどうでもいいことなんじゃないのか?
「ならば、将人にという話がでたが、ヒナ自身が自分は『総帥の妻』に相応しくない身だと断っている。」
将人を断った今、ヒナの話が行くのは鷹臣か悠兎、乾あたりだが、親切に教えてやる義理はない。
「どこに行けばヒナに会える?」
自分は無表情で「ヒナはSAKURAのヒラ社員が相手にできる女じゃない。」と鷹臣を突き放した。
答えは自分で探せ。
<Side END>
*
<Side ヒナ>
ヒナは進退極っております。
SAKURAの支社を後にして、しばらく再訓練という名のしごきに耐えきった!と思いきや、お見合いでお話を断った将人さまの側近の方の護衛をしろとの命令を受けたのでした。
しかも、この命令・・・断れば、即嫁入りコースが待ち構えております。
嫁入り先は橘家のどなたか・・・。龍夜との話を破棄し、総帥候補の将人さまをお見合いで断った今、もう選択肢は与えてもらえないとのこと。
本家はいったい何時代なのですかー?!
こうなったら、仕事をするしかありません。
仕事はいいですけど、将人さまと顔をあわせるのが気まずいのです。
でもそれも少し我慢すればきっと慣れるでしょう!
今度はTACHIBANAの東京本社に潜入・・・じゃなくて、秘書として配備されます。
地方育ちのヒナが大都会で暮らしていけるのでしょうか。
同じ国内だからそんなに恐れる必要はないんですけどね。
本社のビル・・・思わずぽかんと見上げてしまいそうになります。
なんか遠近法がおかしくなりそうな大きさですね。
こんな所で表向きでも働いていけるのでしょうか・・・。
もし、エレベーターを使うなと言われたら、いくらヒナでも無理そうな気がします。
本社ですから、そんな低俗な事はされないと思いますけど。
お見合いの後、久々に将人さまにお会いしました。
前にSAKURAに身分を偽って出向されてきた時にお世話係になって、さらに専務秘書に抜擢(護衛の仕事があったから)でイヤガラセを受けるようになったんですよね・・・。
それも懐かしい思い出です。
「今回、護衛の対象の方はどういう背景で私が必要なのでしょうか。」
今回は急な話だったので、事前の書類などいただいておりません。
いきなり現地でした。
「ああ、ちょっと静馬大叔父ともめてる人物で、本来なら役職につけると不味いのですけど。その人物の護衛としてヒナは私の第3秘書についてもらいます。」
そこまで話していると秘書の女性の方がノックをして「お見えになりました。」と伝えてきます。
「通して。」
将人さまの声を合図に、その方が部屋に入ってきました。
よく似合うブランドのスーツに身をつつんだ長身の・・・将人さまに似た整った面ざしの・・・
橘・・・さん・・・?
「橘 鷹臣です。よろしく、水無瀬さん。」
えっ、ええ~?
ここ本社ですよ?!
握手を求められて、ヒナは慌てて手を出しました。
『今度は逃がさないからな。』
にっこりと笑顔のまま、橘さんは口の動きだけでそうヒナに伝えたのでした。
「鷹臣はいとこなんだ。叔母の蓉子さんの息子で・・・。」
将人さまの説明がうまく頭で理解できません。
ほとんど橘本家の中枢の人じゃないですか!
ヒナは子供の頃から佐倉家寄りで生活していたので、本家の詳しい家系を勉強していなかったのです。
「同じ橘でややこしいので"鷹臣"で呼んで下さい。」
ヒナが呆然としているのをいいことに、まだ握った手を離さない橘さんなのでした。
<Side END>
*
<Side 鷹臣>
やっと"ヒナ"に手が届く位置までやってきた。
龍夜が言った"SAKURAのヒラ社員に手の届かない女"・・・まさか橘の遠い親族で一族の護衛に所属しているとは思わなかった。
しかも、なぜか橘家と縁組をする女系の一族という。
もし彼女が仕事を断れば、自分との縁組が待っているとも知らずにヒナはこの仕事を受けている。
まあいい。
これから時間は腐るほどある。
将人がいなくなった応接室で二人きりになる。
「この仕事に就いたせいで、静馬にかなり睨まれてるからな。せいぜい守ってくれよ?」
彼女の細腕でどう守ってくれるのかはわからないが、どんな小さなチャンスでもモノにするしかない。
「今日から龍夜の時のように同じマンションで暮らしてもらうからな。」
「ええ?!それは・・・」
かなり自分も無理を通したし、縁組前提だから本家からの後押しもあるのだ。
ヒナが顔色を変えたが、もう自分は引くつもりはない。
できればすぐにでも流されて欲しい。
「食事も作ってくれるんだろう?」
「う・・・。」
ヒナは少したれ気味の飴色の瞳を潤ませている。
「家では"鷹臣"と呼び捨てで。これは命令だ。」
「うう。」
彼女はがっくりと項垂れた。
そして「よろしくお願いいたします、鷹臣さま。」と頭を下げる。
"仕事"を選ばなければ選ばなかったで、即嫁入りという俺にとって楽しい道が拓けたのだが、できれば俺を良く知ってもらってからにしたい。
この後、本格的に交際に至るまで年単位の日数を要するとは自分には想像できず、その間に波乱万丈な日常があるとも予想することも、その時の俺には想像できなかったのである。
ヒナと暮らして、身を持って橘の"護衛の一族"が何なのか知るのはまた別の話だ。
【番外編】もしもヒナがSAKURAの社員だったら おわり
10話で終了するつもりが11話になってしまいました。
うまく話を纏める力が欲しいです・・・。
本編と関係のない架空の【もしも】"ヒナがSAKURAの社員だったら"、これにて終了です。