無邪気少女は彼女にとっては毒のようです。
ひたすら暗いというか、少女が無邪気な少女とその周辺を前にひたすら疲れ果てている話。「気持ち悪い」という単語が大量に出てきます。
というわけで、そういうの苦手な方は読むのをお勧めしません。
「家族は仲良くすべきだ」
気持ち悪い。
「私は貴方のためを思って――」
気持ち悪い。
「今日家族が――」
気持ち悪い。
「彼氏がさー。あいつの事本当好き!」
気持ち悪い。
全部、全部、本当に全部――、気持ち悪い。
世界が気持ち悪い。現実が気持ち悪い。自分が気持ち悪い。あんな家族の血を引いてる自分が気持ち悪い。
ああ、こんな自分滅んでしまえ。
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「桜ちゃん!!」
無邪気に話しかける彼女は、二学期の頭という中途半端な時期にやってきた転入生だ。名前は姫とかそんなのだった気がする。基本的に人に興味はないから覚えていない。
美少女らしい彼女――人の美的感覚は私にはよくわからない――は何だか無邪気な性格でこの学園のほとんどの美形に恋され、同性にも好かれている。
全寮制の学園。
それが此処で、私は実家にいるのが嫌で特待生として此処にきた。
編入試験が難しいはずなのに転入してきた彼女は基本的に何でもできる。それでいて人に愛されなれていて、周りに沢山人がいる。
―――それが、どれだけ私にとって気持ち悪い事か彼女はきっと知らないだろう。
現実は汚いものだ。決して光輝く世界などではない。それを十二分を理解しているからこそ、余計彼女と言う存在が信じられない。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いと心が叫んでる。
信じられないからこそ、気持ち悪い。人が誰かと友情を結んでいる様も、人が誰かと愛情を結んでいる様も「現実」というだけで私には気持ち悪いものだ。
「桜ちゃん、今度は何を書いているの?」
私の机の上におかれたものを覗き込む彼女にひっと悲鳴をあげたくなった。私は人に近づかれるのが好きじゃない。加えて香水の甘ったるい香りも好きじゃない。ああ、気持ち悪い。
私が書いていたのは、ただの暇つぶしの絵だ。
私は昔から絵を描く事が好きだった。この学園にこれたのも、絵の特待を取ったからだ。絵を描く事は好きだ。私が描く、私だけの世界だ。
鬱陶しいものも何もないような世界。
自分で世界を作り出すのが好きなのだ。あらゆるものが気持ち悪い私をこの世界に繋ぎとめているのは書きたいという欲求とあいつだ。
絵を書きながら生きていければそれでいい。
コンクールや、仕事用――画家として活動中――の絵を書くのも好きだけど、ふとした時落書きをするような気分で絵を描くのも好きだ。
「桜ちゃんって本当絵を描くの上手だよね!!」
無邪気な彼女。その周りで彼女を見て、笑っている人達。温かな空間に、酷い吐き気がした。
彼女は周りにとって温かい光なんだそうだ。彼女に関われば危ない人間だって丸くなり、冷めた人間だって笑うようになる。まるで太陽みたいだと誰かが言っていた。
でもだからこそそんな存在が現実に存在している事が気持ち悪かった。
人の愛想劇ほど気持ち悪いものはない。
彼女はよくそれを起こす。吐き気のするような友情とか――。これが映画とかならまだ許せる。でも現実でそんな友情や愛情を見せられるのは精神的に苦痛だ。
他の人にとっては太陽かもしれない。でも彼女は私にとって猛毒だ。
「姫華!」
「姫ちゃーん」
彼女を呼びに幾人かの男子生徒が教室に姿をあらわした。とろけるような顔を彼女に向ける。
気持ち悪さに頭がクラクラしてくる。「気持ち悪い」と叫んでしまいたくなる。それをどうにかしたくて、一心にただシャーペンで絵を描く。
「姫ちゃん、俺と――」
「姫華は俺様と一緒に――」
「ねぇ、姫は――」
「もう、何喧嘩してるのよ!」
ああ、聞こえてくる声に吐き気がます。胃がキリキリする。頭が痛い。
人が沢山居る場所は嫌いだ。それだけでも呆れる事に私にはストレスで、疲労する。そんなただでさえ疲れる教室なんて場所で、どうしてこんなものを聞かされているのだろうか。
今日も夕飯はあまり食べられないかもしれない。
気持ち悪いものを見た後は食欲がなくなる。元からない食欲が二学期に入ってからますますなくなった。体重も減ってしまった。
「ねぇ、桜ちゃんも一緒にいこう!!」
彼女が、私の肩に手を置いてそういった。背筋に何か冷たいものがよぎった。寒気がする。ふれないでほしい。気持ち悪い……!!
それでも面倒事が嫌いだから私は彼女の手を振り払わない。学園で好かれてる彼女にそんな真似をすれば面倒だ。
そして人に関わりたくない、触られたくない、気持ち悪いなんて感情周りからしてみればおかしいだけだ。
「…ごめんなさい。やりたいことがあるから」
私はそういいながらも、愛想笑いをつくって席を立つ。
それに彼女は悲しそうな顔をして、「じゃあまた今度ね」と笑った。
私は教室から出ると人があんまり来ないトイレにかけこんだ。
そして、
「うえ……っ」
吐いた。
私はポケットからスマホを取り出し、電話をかける。かける先は、『柊友哉』という私の幼なじみだ。
『どうした』
「トモ、吐いた。気持ち悪い…っ、気持ち悪い、気持ち悪い!! うえっ」
『…何処?』
「……いつもの所。トモ、ごめん、迎えきて」
此処はあんまり人の来ない旧校舎の方のトイレだ。わざわざ此処に来ているのは、吐いてるのを悟られたくないからだ。
だって知られたら変なおせっかいかけてくるかもしれない。そんなの考えただけで鳥肌立つ。
私に関わるのはトモだけでいい。現実を気持ち悪がってる私を受け入れて、傍にいてくれるあいつだけでいい。トモは私にとって現実の中で唯一、気持ち悪くないものだ。
でもトモと一緒にいるのが心地よいと思っている自分が一番気持ち悪い。友情も愛情もばからしい。気持ち悪いと思ってる癖に、トモに「特別」を抱いてる。私はあいつに依存してる。
私の大嫌いな家族と一緒だ。
また気持ち悪くなっていた。吐き気が止まらず、続けてはいた。
あいつらと同じ生物だってのが気持ち悪い。血がつながってるのが気持ち悪い。
あの無邪気な彼女が来てから余計、こんな気分の悪くなる思いをよく感じるようになった。今までだって気持ち悪いものを見て吐いた事は沢山あった。一ヶ月に一回は吐いてた。でも彼女が来てから毎日のように吐く。調子がいい時は吐かないのに、最近はずっと調子が悪い。
暗い感情を抱えていると気分が悪くなる。きつい。それでもこの思いはというか、私が人を嫌いだというのは一種のアイデンティティだ。私の根本が、性質が、育っていく過程でそうなったのだ。
子供時代で人の性格は作られる。私はそういう性格にもう育っているのだ。おかしかろうとこれが私で、自分でも生きにくい性格していると実感はしてる。
先ほど、彼女に触られた肩の部分を一心にさすってしまう。触られた部分が気持ち悪い。
「…桜」
気持ち悪くてぐるぐると思考がめぐる中で、声がした。トモの声だ。
私はそのままトイレから出る。女子トイレには流石にトモは入ってこれない。気持ち悪さにふらふらしながらトモの前に立つ。
トモの前では無理をする必要はない。気持ち悪いと思ってもそれを隠す必要はない。これはどうしよもない依存だ。
「…ほら、いくぞ」
「…うん」
そのままトモに手を引かれて、歩きだす。
トモは唯一気持ち悪ないから、触れられても平気だ。私は彼女に触られた肩を洗わなきゃ、と思いながらも寮室に向かうのだった。
――――無邪気少女は彼女にとっては毒のようです。
(彼女にとって光のような少女は猛毒にも等しかった。それに無邪気な少女は気付きもしない)
桜。
画家で、絵が上手い。その世界では有名だったりする。
美人で人気があったりするが、告白を必ず断るためと友哉と恋人と周りに見られてるため最近は告白はあまりない。
入学してから告白が続いた頃に気持ち悪さに食事を抜くやら、吐くやらが酷かったため友哉が「付きあってる」と噂を流したのは桜は知らない。
子供時代からの環境で、あらゆるものが気持ち悪くて生きにくい。
幼なじみの友哉だけは気持ち悪くないので、依存してる。
最近、無邪気少女とその周辺の茶番が気持ち悪くて、体調不良気味。というか、精神的に疲れ果てている。自分が一番気持ち悪い。多分絵を書きたいって心や友哉がいなきゃとっくに死んでそうな自分に無頓着な人。
友哉。
桜の幼なじみ。結構危ない人で興味のない人間には態度が酷い。
でも幼なじみだからか知らないが、桜には甘くて世話をやいてる。無邪気少女とその周辺のせいで食事を桜が抜いてどんどん体重が落ちてるため、無邪気少女達は嫌い。
というか、昔から桜が色んなものを気持ち悪がって食事を抜き倒れたりしてたのを見てたために過保護。
姫華。
普通の人達にとっては凄くいい子。でも桜にとっては気持ち悪い対象。
唐突に書きたくなった突発話。
誰にでも無邪気で優しかろうと、気持ち悪いって人もいるよなと思って書いたというか、なんか書きたくなった話。
無邪気少女は何も悪くないけど、気持ち悪がってる主人公なのです。