最高のパートナー
このところの残業続きでへとへとになり、深夜に帰宅すると、妻の幸代はリビングでテレビを見ていた。
「ただいま」
幸代は、くだらないバラエティ番組を無表情で見つめたまま、返事をしようともしない。
「ただいま」
もう一度、少し大きな声で言った。すると幸代は、不機嫌そうにゆっくりと振り向き、一瞥したかと思うとすぐに視線をテレビに向けた。
「おい、飯は?」
幸代は、口を開くのも面倒くさいといった様子で、深いため息をついてから言った。
「飯って、今何時だと思ってるのよ。電話の一本も寄越さないで。用意しておいたって、遅いからいらないなんて言うくせに」
まただ。幸代は、口を開けば文句しか出てこない。どうして、にっこり笑って「あなたお帰り。ご飯は?」ぐらいのことが言えないのだろう。
「専業主婦は飯作るのが仕事だろう。一家の主が仕事から帰って来てくたくただってのに、その言い草はないだろ」
この家で一番えらいのは誰だと思っているんだ。結婚して十年も経つと、女はこうも変わるものなのか。本当は、腹なんて空いていなかったが、幸代にお湯を沸かしてもらって、カップラーメンを食べた。
土曜日。休日出勤が続いていたが、今日は久しぶりにゆっくり休める日だ。
ソファに寝そべってテレビを見ていると、一人息子の修二が、グローブを持ってやってきた。
「お父さん、今日お休み? キャッチボールしに行こうよ!」
小学校三年生の修二は、元気があり余っているのか、近くの公園へ行きたいようだ。しかし、キャッチボールなんて疲れることの相手をしていたら、何のための休日か分からない。
「お父さんは、毎日お仕事で疲れているんだよ。たまのお休みだから、ゆっくり休まないといけないんだ」
諭すように言うと、修二はがっかりした顔で、どこかへ行ってしまった。
幸代が、掃除機を掛け始める。うるさくてテレビの音が聞こえやしない。
「ちょっと。掃除の邪魔だから、どこかへ行っててちょうだい。ああ、トイレの洗剤買ってきてくれる?」
掃除機よりうるさい、妻の声だ。どうしてどいつもこいつも、俺に休息を与えようとは考えないんだ。
「そんなもの、修二に行かせればいいだろう」
「修二はもう少ししたら塾に行かなきゃならないの。暇でごろごろしているのはあなただけなんだから、さっさと行って来てよ」
幸代の言い方にカチンときて、思わず言い返した。
「何だと。一家の主に使い走りをさせる気か!」
……まったく。
俺は、トイレ用洗剤の入った袋を下げていた。結局、幸代の強引さに負けて買い物に出ることになってしまった。まっすぐ家に帰るのも癪なので、途中にあった公園に寄った。
公園では、キャッチボールをする親子の姿がある。
修二は塾だったのか。ほんの短い時間なら相手をしてやればよかった。修二には悪いことをしたと、、少し胸が痛む。
俺は、ベンチに腰掛け、ぼんやりと目の前の噴水を見ながら考え事をしていた。
それにしても、一体いつからこうなってしまったのだろう。家族のために、馬車馬のように働いているのに、妻からも息子からも、俺に対する感謝の気持ちが感じられない。それどころか、幸代は俺のことを明らかに疎んじているようだし、修二だって、遊び相手になってくれない父親には愛想を尽かしているのかもしれない。何もかも、空しくなってきた。
「ここ、よろしいですか?」
声を掛けてきたのは、これといって特徴のないサラリーマン風の男だった。どうぞと答えると、男はベンチの端に、静かに腰を下ろす。
「失礼ながら、お悩み事があるようにお見受けしましたが」
唐突に話しかけられて、一瞬戸惑った。相手にしないでおこうと思ったが、家に帰っても不機嫌な妻の罵倒を浴びせられるだけだ。ぼーっとしているのも退屈だし、見知らぬ男にちょっと愚痴をこぼしてみようかという気になった。
「やっぱり分かりますか」
「ええ、それはもう。何といいますか、あなたからはマイナスのオーラが出て、周囲の空気をよどませています」
しまった、宗教か。俺は、嫌悪感を露わにした。
「あっ、お気に触ったのなら申し訳ありません。私は怪しいものではございません」
男はそう言って、内ポケットから名刺を取り出して差し出した。
バラ色の人生のために、最高のパートナーをお探しします
ラ・ヴィ・アン・ローズ 代表 田中弘
怪しい名刺だが、男の方は、顔だけじゃなく、名前まで印象が薄い。いぶかしげに名刺と男の顔を見比べていると、田中というらしい男が、弁舌滑らかにまくし立てた。
「世の中には、問題を抱えているカップルが大勢いらっしゃいます。この結婚は間違いだった、違う人と人生をやり直せたら――そう思う方は、非常に多いのです。私どもは、皆様がよりよいパートナーを探すお手伝いをさせていただいているのです。世の中の不幸な皆様に、バラ色の人生を送っていただきたいのです。我々は、NPO組織でございますので、紹介料等は一切いただいておりませんし、もし、最高のパートナーではなかった場合、別の方を紹介することもできます。どうです? 試してごらんになりますか」
俺は、この胡散臭い話を頭から信じたわけではなかった。だが、別の女と結婚していたら、ひょっとしたら今よりも幸福なのではないか。その気持ちがなかなか頭から離れなかった。
妻の幸代とは、いわゆるできちゃった結婚というやつだ。二十代前半の遊びたい盛りの時に幸代の妊娠が発覚し、結婚してすぐに修二が生まれたから、甘い新婚生活というものはなかった。当時、まだ給料も安かったから、少しでも残業代を稼ごうと、毎日遅くまで、必死に働いた。なのに今では、口を開けば、俺に対する文句ばかり。可愛げなんかあったものじゃない。最近は、飯も用意してくれないし、俺をまるで邪魔者扱い。息子は、まあかわいいが、遊んでやるのは億劫だ。
もし、別の女と結婚していたら――
「じゃあ、お願いしようかな」
ほとんど無意識のうちに発したその言葉は、自分の意思から出たとは思えないぐらい、空疎に響いた。
何事も無く日曜日が過ぎ、月曜日になり、いつものように会社に行った。
あれから何の音沙汰も無い。やっぱり、胡散臭い男の言うことだ。そんなにうまい話が世の中に転がっているわけがない。下手な冗談を聞いたつもりで、男の存在はすっかり頭から離れていた。
仕事は思ったよりも早く終わったが、家に帰るのは気が重い。本来安らげるはずの家なのに、自分の居場所がない。今日は晩飯あるだろうか、やっぱり電話した方がいいかと思いながら歩いていると、家に着いてしまった。
玄関を開けると、ぱたぱたとスリッパ履きの足で走ってくる音がする。
「お帰りなさい、あなた」
出迎えてくれたのは、髪の長い、見知らぬ若い女だった。妻でさえ、出迎えてくれたことなんかない。幸代の友達だろうか。戸惑っていると、見知らぬ女は、俺のスリッパを出し、当然のように鞄を取って居間に向かう。そして、俺のほうを振り返りながら言った。
「お夕飯、ちょうどできたところよ。冷めないうちに食べて」
なんだか分からないまま、食卓に着いた。テーブルには、見たことも無いような豪華な料理が並んでいる。女は、俺の上着をハンガーに掛け、鼻歌を歌いながらブラシでほこりを落としている。
幸代の姿は見あたらないようだ。それどころか、修二もいない。いったいどういうことなんだ?
「あら、まだ食べていないの? 早くしないと冷めちゃうわ」
女は私のそばに駆け寄ってきて、嬉々として料理の説明を始める。
「今日のはおいしいわよ。まず前菜は牡蠣の泡雪仕立てに、手長海老のスフレ。舌平目の香草焼きに、メインはなんと! 和牛フィレ肉のトルネード!」
よく分からなかったが、うまそうだ。残業続きでコンビニ弁当の毎日だったから、久々に食べるまともな料理を前にして、腹の虫が騒ぎ出した。俺は、一口、手をつけると、あとは無我夢中で食べた。あまりのうまさに、舌や胃袋が驚く。あっという間に、皿がきれいになった。
「わあ! いい食べっぷり! デザートもあるわよ」
少女のように手を叩いてはしゃぐ女。
女と向かい合わせに座って、りんごのタルトを食べながら、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ところで……君は誰?」
今まではしゃいでいた女が、急に表情を曇らせ、今にも泣き出しそうになる。
「あ、い、いや、別に泣くことじゃ……」
「ひどいわ。自分の妻に向かって、『誰?』なんて」
俺が慰めようとすればするほど、女の頬を涙が伝う。
妻? この女が? 幸代はいったいどこに行ったんだ。
不意に、電話が鳴った。いつもなら、幸代が取るまで放っておくのだが、今ここには、泣いている女と俺しかいない。仕方なく受話器を取った。
「お世話になっております。ラ・ヴィ・アン・ローズの田中です。いかがですか? 新しい奥様は」
一瞬、何のことかと思ったが、思い出した。土曜日に公園で会った妙な男だ。
「彼女は、我々のちょっとした知り合いでして、常日頃からかわいいお嫁さんになりたいと口癖のように言っておりますので、相田様にぴったりかと思いました次第でございます。お気に召しましたでしょうか?」
そうか。この女は幸代の代わりに俺のもとへ来た、新しい妻だ。
それなら、ちょっとの間新婚気分を味わってみるのも面白い。改めて女をよく見ると、幸代よりもずっと美人だ。まだ二十代前半だろうが、童顔で、見ようによっては高校生にも見える。体も、やせぎすの幸代と違って、出るところは出ている。こんなに料理上手で気立てもいい女性が来てくれるとは。なんだか得した気分だった。
俺は電話を切ると、女の手を優しく握って、「よろしく」と言った。
女の名前は、麻由美といった。
これからは、楽しい生活になりそうだ――
夜、ベッドに入ってからも、素晴らしかった夕食のメニューを思い出して腹が鳴る。うとうととまどろみかけたとき、布団の中に何かがそろりともぐりこんできた。何だろうと思ってまさぐると、柔らかい何かに触れた。
「あんっ」
女の声がして、俺は驚いて飛び起きた。ベッドには、ネグリジェ姿の麻由美が横たわっている。ベッドは二つあるのに。
俺はパニックになった。これは、つまり、あれだ。そういうのもアリだったのか。頭が混乱して、心臓が爆発しそうだった。俺は、つばを飲み込んだ。
「い……いいのか?」
「だって、私たち夫婦でしょ」
恥ずかしそうにうなずく麻由美を見て、俺の理性は吹っ飛んだ。ええい、ままよ。夢なら覚めないでくれ。
幸代と修二のことが気にならないわけではなかった。だが、向こうからは一切連絡を寄越さないし、こっちから連絡をしようとしても、俺の携帯は着信拒否されているようで、繋がらなかった。
どうせ、俺のことなんかどうでもいいんだろう。向こうがその気なら、俺だって、この生活を思う存分楽しんでやる。
そう吹っ切ると、それからは、文字通りバラ色の毎日だった。
俺はできるだけ残業をしないで、家に帰った。同僚から冷やかされるのも気分がいい。麻由美は毎日毎日、素晴らしい料理を用意して、俺の帰りを待っている。いつも笑顔を絶やさない麻由美は、俺のためにお茶を入れたり、着替えを用意したりと、かいがいしく世話を焼いてくれた。
そして、夜は娼婦のように大胆だった。
麻由美が来てから、一ヶ月が過ぎた。
その間、残業も休日出勤も一切しなかったので、恐ろしいまでに仕事がたまり、上司からも冷ややかな目で見られるようになった。できるだけ長く麻由美と過ごす時間がほしかったが、リストラされては元も子もない。仕事の遅れを取り戻すため、以前のように必死に働かなければならない。
今日は、少し残って仕事をしよう。そう思って、携帯電話を取り出し、家に電話する。すぐに麻由美が出た。
『順ちゃん? どうしたの、電話なんて珍しい』
麻由美の弾むような声を聞くと、言い出しにくい。
『今日の夕飯はねぇ、かぼちゃスープと、真鯛のポアレと、比内地鶏のグリエに季節の温野菜を添えて。すっごくおいしいから、早く帰ってきてね、順ちゃん』
順一だから、順ちゃん。人に聞かれると恥ずかしいが、麻由美の甘ったるい声で言われると、思わず顔が緩んでしまう。早く帰るよ、と言いたくなるのをこらえた。
「あー……、今日は遅くなるよ。だから、先に食べて」
『……』
電話の向こうは、沈黙。早く何か言ってくれ。祈っていると、すすり泣きが聞こえてきた。
『ひっく……、順ちゃんは、うっく、私と一緒にご飯食べてくれないの?』
「違うって。麻由美と食べたくないなんて、そんなわけないだろ。仕事が忙しくて、どうしても帰れないんだよ」
『どうして急に? 今まで毎日早く帰ってきてくれたじゃない。もう私のこと嫌いになっちゃったの? 私、結婚したら、毎日ダンナ様とご飯食べるのが夢だったのに』
完全に泣き声になっている。やばい、泣かせてしまった。どうしていいか分からず、とにかく、今日は遅くなるから待っていなくていい、とだけ言って電話を切った。
麻由美のあの様子では、おそらく食べないで待っているだろう。だが、麻由美はおいしいものを食べるのが大好きだから、飯さえ食べれば、俺がいなくて寂しくても大丈夫だろうと思った。
ちゃんと食べていてくれるよう祈りながら帰宅したが、はたして、麻由美はすっかり冷めてしまった料理とともに、俺を待っていた。
俺が帰ってきたことに気がつくと、目を腫らした顔をくしゃくしゃにしてむしゃぶりついてくる。まるで子犬だ。いじらしくて、可愛くて、思いっきり抱きしめた。
ごめん、と謝ってから、二人で遅い夕食をとった。
次の日も、遅くなると電話をしたが、前日とまったく同じやりとりがなされた。いくら言い聞かせても分かってくれない。いい加減うんざりして、電話を乱暴に切ってしまった。
次第に、麻由美の泣き声を聞くのがいやで、電話もしなくなった。
夜遅くに帰宅すると、明かりもつけない部屋で、麻由美が冷えた料理を前にして座っている。うんざりどころか、背筋が冷えた。
俺の帰宅はますます遅くなった。
そんなことが一週間も続いたある日、家に帰ると、麻由美の姿がなかった。
麻由美がいなくなったというのに、心底ほっとしている自分がいる。
電話が鳴った。
『相田様、お世話になっております。ラ・ヴィ・アン・ローズの田中と申します。麻由美さんから聞きましたが、最高のパートナーにはなれなかったようですね』
「ああ、まさかあんな粘着な女だったとは思いませんでした。そうだ、確か、別の女性を派遣してもらえるんですよね?」
『残念ながら、それはできかねます』
「どうして?」
『相田様は、麻由美さんを幸せにすることができませんでした。しかも、幸代様と同じような不幸な状態です。今後、どなたをご紹介しても、あなたが変わらない限り、悲劇は続くでしょう。相田様と一緒になった方は不幸せになる、ということが分かっているのに、どうして別の女性を紹介することができましょうか』
平気ですらすらと言ってくるが、要は俺に非があるということだろう。この男の滑らかな弁舌は、俺をいらいらさせる。
「もういい。それじゃあ、前の生活に戻してくれよ」
『申し訳ありませんが、それもできかねます』
「できかねます、できかねますって、何でだよ!」
『幸代様にも新しいパートナーをご紹介したところ、大変気に入られたそうです。修二君も、毎日キャッチボールをして、楽しく過ごされていますよ。大変喜ばしいことです。我々も、ご紹介した甲斐があったというものです』
俺は、状況を理解できず、受話器を耳に当てたまま立ち尽くしていた。
『ひょっとすると、まだそちらに届いていませんか、離婚届。昨日お送りしたのですが』
「離婚!? 」
『はい、そうです。幸代様は、最高のパートナーと出会うことができたのです。このまま、現在のパートナーと一生を共にしたいとおっしゃっておられます。もちろん修二君も、新しいお父様となられる方のことを、大変――』
俺は、受話器を叩きつけた。
まるで自分が欠陥人間みたいに言われて、気分が悪かった。どいつもこいつも馬鹿にしやがって。サイドボードからウイスキーを出して、乱暴にグラスに注ぎ、叩きつけるようにテーブルに置いた。
ふと、テーブルの上にあった郵便物が目に入った。離婚届だと? ふざけるな。だが、それらしい封書はなく、代わりにカード会社からの請求書があった。俺は使った覚えがなかったので、封を開けてみる。金額を見て、数字の桁数を数えていく。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん……。目の玉が飛び出た。
「ひっ、ひゃくにじゅうごまん、はっせんえん?」
それが百二十五万八千円だと理解するのに、少々時間がかかった。
何だ、この金額? 明細をみると、超一流ホテルからの請求ばかりだった。
少し考えて、思い当たることが一つあった。そうか、あの料理だ。毎日毎日麻由美が出してきたフレンチのフルコースは、ホテルからのケータリングだったのか。
「あの女! ふざけやがって!!」
俺は、明細書をびりびりに破って、床に叩きつけ、それを何度も何度も踏みつけた。
ひとしきり暴れて、肩で息をしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。麻由美が戻ってきたのだろうか。あいつめ、ただで済むと思うなよ。
俺が乱暴にドアを開けると、中年男が二人立っていた。二人とも体格がよく目つきが鋭い。まったく知らない男だった。予期せぬ訪問に面食らっていると、男のうちの一人が言った。
「夜分すみません。相田順一さんはご在宅でしょうか」
こんな夜遅くに一体何だというのだろう。まさか、さっきの一暴れで、マンションの階下に迷惑を掛けてしまっただろうか。
「……私ですけど?」
「高倉麻由美さんをご存知ですね」
「高倉……? ああ、麻由美のことですか」
麻由美のことなんか、もう思い出したくもなかった。吐き捨てるように言うと、男二人は目配せをして、一人が何か紙切れを俺に見せながら言った。
「あなたに、淫行の容疑で逮捕状が出ています。あなたは、十七歳の高倉麻由美さんと性交した。間違いないですね」
「逮捕? じゅ、十七歳って、き、聞いてない。それに、アレは、夫婦だからやったんであって……」
「お前には、幸代というれっきとした女房がいるだろう! ふざけたこと言ってないで、さっさと署まで来るんだ」
「ち、違う! 何かの間違いだ! そうだ、ラ・ヴィ・アン・ローズに連絡してくれ!」
「なんだそりゃ。弁護士を雇うなら雇え。だがまず、話は署で聞こう」
俺は両腕に手錠を掛けられた。その冷たい感触は、俺を否応なく絶望へと誘う。
車に乗せられて警察署へ行く間、田中の言葉を思い出していた。
――あなたが変わらない限り、悲劇は続くでしょう――
やっぱり、俺には幸代が一番だった。だけど、俺は、どう変わればいいんだろうか――