08.まだ普通のお友達のガール
どことなくワンコっぽい騎士少年と出会った日の夜のことです。
「それでそれで? りっちゃんがその子とどうにかなっちゃったりは?」
「いえいえ、そんなんありませんて」
就寝時間前の大部屋にて。
同部屋の先輩方に昼間の出来事を話したところ、何故だかやけに興味を持たれてしまいました。まあ修道女とはいえ年頃の女子ばかり。話題が同世代の男子との出会いとあっては、何やら面白い方向に関係性が発展しないか気になっても仕方がないというものでしょう。
とはいえ、残念ながら彼女達のお眼鏡に適うような展開はありません。
商人のおじさんの手伝いを終えて、まあ一応の自己紹介らしきことを済ませたら、そのままサヨナラ。わたし的には当初の目論見通りに、手伝ったお礼としておじさんに無償で手紙の配達を頼めたことのほうが重要度が大きいくらいです。
予定外のトラブルで時間を食ってしまったので、本日中の買い食いの野望は叶いませんでしたが、それに関しては日を改めて実行すればいいでしょう。
「まあ、こっちは街外れの修道院住みとはいえ一応はご近所さんですし? また会ったら挨拶くらいはするでしょうけど、多分それ以上どうこうとはなりませんよ」
「うふふ、その方は士官学校の生徒さんなのでしたわね? あの学校の皆さんは元気で礼儀正しい方ばかりですから、きっとそのマークさん、でしたかしら? その方も素敵な方なのでしょうね」
「ああ、うん、マーク君だからマー君ね。たしかにあの子は良い子だったけど、他の人達がそこまで行儀良くしてるのはクーちゃんの前くらいじゃないかな?」
「はい?」
普段から騎士になるための教育を受けているだけあって、士官学校の皆さんが礼儀作法を修めているのは確かなのでしょう。とはいえ、本質的にはヤンチャ盛りの少年達。流石に一見して分かるような不良行為に手を染める学生は見たことがありませんが、わたしがたまに街で見かける彼らの姿は年相応に騒ぎもすれば遊びもする普通の男の子といったご様子でした。
が、その例外となるのが我が友人たるクリア嬢の存在です。
出会った頃から可愛い子ではありましたが、この三年間の歳月は彼女を凄まじいまでの美少女へと変えていました。内面の美しさが見た目の印象にも影響を与えているのか、ソッチの気がないわたしですら見惚れることもしばしばです。モノが違いすぎて妬む気にもなれません。
彼女が神に仕える修道女でさえなかったら、交際や結婚の申し込みが山のように押し寄せてきたことでしょう。件の士官学校の皆さんのみならず、クーちゃんに憧れる若い男性は街中に数多くいるはずです。というか、彼女が興味ありそうな贈り物やら異性のタイプやらを聞かれたことも一度や二度ではありません。
もっとも当の本人は自身がそういう感情の対象になるという発想そのものが欠如しているのか、恐らくは自分がモテるということにすら気付いていないようなのですが。とはいえ、そのぽわぽわと浮世離れした雰囲気が神秘的なイメージを増進して一段と人気を高めているらしいのだから、隣で眺めている身としてはもう笑うしかないでしょう。
「まあ、何も無理矢理に色恋に結びつける必要もないですし? そのマー君とまた会うことがあっても、普通にお友達として仲良くできれば十分ですよ」
実際、この時は本気でこんな風に思っていたのです。
恐らく、向こうだって特別な感情はなかったでしょう。
その関係が変わるキッカケとなったのは、やはりあの事件でしょうか。
まさか、わたしが善良なるワンコ少年に必殺の毒手モドキをしこたま叩き込んで、危うく殺しかけることになろうとは……。
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