59.意外と身近な伝説とガール
悪役の哀しい過去って別に知ったところで今更結果を変えられるわけではないですし、特に今回の元凶さんはとっくの昔にお亡くなりになっているので誰かが同情して心を慰めることすらできませんし、話を聞いた人が微妙にイヤ~な気分になるだけの不毛の極みみたいな感じがしますねぇ。
「父上、彼女と随分話し込んでいたみたいですけど何かあったんですか?」
「ああ、マーク。お前も知っての通り、彼女は随分とユニークな発想の持ち主だからね。この事態に対処するための方策について、お願いしてアドバイスをもらっていたんだよ。おかげで解決の糸口が見えてきたとも」
「なるほど! それなら納得です!」
転生だの異世界だのの会話を他の人に聞かせるわけにはいかないので、今さっきのお話は王様とわたしの二人のみで交わす形になったのですが、そのせいで身に覚えのないお手柄が生えてきたようです。
実際にやったことは『本』に日本語らしき書き込みがあるのを見つけて丸投げしただけなので、全然これっぽっちも大したことはしていないのですけれど。
「そ、それで王様? そろそろ敵の弱点だとか具体的な部分についての説明を他の皆さんにもですね……」
「ああ、急がないとね。そうそう、レイ。キミは先行して大聖女様を止めてきてくれないかな。殺してしまったら巻き込まれた犠牲者を人間に戻すこともできなくなってしまうからね」
「承知しました。直ちに」
ちょっと目を離した隙に、院長先生にシバき上げられた悪魔達はお揃いの仮面を泣き顔の形に歪めて必死で逃げ惑っているような状態に。憑りついている悪魔は別にどうでもいいですけど、元の肉体の持ち主である少年少女があのまま殺されてしまうのは流石に不憫というものです。
だいぶギリギリではありましたが、レイさんが魔法で空を飛んで院長先生を止めに行きましたし多分そこは大丈夫でしょう。
「さて、では今のうちに説明を進めようか。まず、あの悪魔達の弱点は強烈な光。特に魔法や炎による光よりも直射日光を苦手とするようだけど、ああして日の下で動けているのは仮面とローブで全身のほとんどを覆い隠しているからだろうね」
さっき、わたしが仮面にヒビを入れた時に苦しんでいたのは、もしかしたら仮面そのものが弱点だったんじゃなくてヒビ割れから差し込んだ太陽光が中身の顔面に当たったからだったのかな?
あんな小さなヒビであれほど苦しんだということは、身に着けている仮面とローブを強引に剥ぎ取ってから天日干しにしてやれば、まともに動くこともできなくなってしまうでしょう。なんだか、こっちが追い剥ぎみたいに聞こえそうですが。
「それから、特に効果的なのが聖なる武器。神話の時代の英雄に神様から与えられたようなものだね。こんな時に不謹慎だけれど、こういうすごい武器というのは何だか少年心がくすぐられるねぇ」
如何にも効きそうではありますけど、これに関しては望み薄でしょうか。
そんな伝説級のびっくりアイテムが、そこらに転がっているとも思えません。
なんだかワクワクしているらしい王様には残念かもですが、まさか今から皆で冒険の旅に出て探しに行くわけにもいかないでしょうし。
なんだか、どこのご家庭の冷蔵庫にもある材料だけで出来るというお料理番組の謳い文句を信じて手を動かしていたら、いきなりナンプラーを要求されたかのような肩透かし。どこの国の一般のご家庭を想定しているのかと文句の一つも言ってやりたいところです。
「父上、それなら確か」
「ああ、ちょうど城の宝物庫に納められていたのがあったはずだね。聖剣と聖槍、それから武器ではないけど聖盾なんていうのも。誰か騎士の中で武具の扱いが達者な者に使ってもらうのがいいかな?」
あったよ、聖剣が!
いえ、ナンプラーではないんですけど流石は王族。
まず自分の家に宝物庫があるのが驚きですし、そんな伝説に出てくるようなアイテムが当然のように収められているのも驚きです。そういえば前世で遊んだRPGゲームでも、序盤に行けるお城の鍵がかかった宝箱を終盤開けてみたら、伝説級の強い装備が入っていたりしたような。アレは意外とリアリティのある設定だったのかもしれませんねぇ。
「それらの弱点を突いて弱らせたところで、この『本』に描かれている魔法陣のページをギュッと押し付ければ、憑りついた人間から離れた悪魔は魔法陣を通って元の世界に帰っていくそうだね。その手順を踏まないと、憑りつかれた犠牲者ごと死んでしまうそうだから気を付けないといけないね」
なるほど、これで大まかな手順は分かりました。
ちょうど弱点を突くまでもなく院長先生が持ち前のゴリラパワーで弱らせた個体もいるようですし、まずはそいつらで実験するのが順当な流れでしょうか。可能性は低そうですけど、もし人間に戻す方法が空振った場合は他の手段を見つけないといけません。
「ここからは『本』を持って試しに行く組と、お城に戻って聖なる武器を確保する組で二手に分かれるのが良さそうですかね」
宝物庫を開くのも腕の立つ騎士の誰かに任せるのも、これは王様ご本人がいないとどうしようもありません。必然的に警護隊長さんもそちらに同行するでしょうし、マー君も一緒に向かうのが自然でしょうか。
だとすると今の話を聞いていて事情を把握している残りの面子は、わたしとクーちゃんとエリーちゃんのみ。元々のエリーちゃんのお友達の数からして、ここから見えている死にかけ以外にも悪魔は残っているはずですし、マトモな戦闘能力のない女三人だけで向かうのに若干の不安はありますが。
「まあ、近くまで行けば先行したレイさん達とも合流できると思いますし」
若干の不安がないこともないですが、さっきみたいに拳なり鈍器なりの不意打ちで仮面を叩き割ってやれば、悪魔相手だろうと抵抗できないこともないでしょう。うん、たぶん平気平気。
「お気を付けください。あの悪魔達は未だ本領を発揮できていないようです。人々の絶望を一定以上に吸収すると、今の状態とは桁違いに強い姿へ変態するとも記されていましたので」
「そうですか、変態しちゃうんですか」
悪魔って昆虫みたいな生態なんでしょうかね。
それにしても、王様。純粋にこちらの身を案じての忠告だということは重々承知していますけど、別れ際にそんなことを言われると何かのフラグにしか聞こえませんよ?
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