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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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52.追いかけるガール


 何故だか大聖堂なんぞに入り込んでいた黒ずくめ。

 昨日ちょっと言葉を交わしただけで別に友人というわけではないですし、そもそも顔すら見ていないので顔見知りですらありません。そんな顔見知り未満の連中が捕まって逮捕されようが正直そこまで気にすることでないとも思うのですが、あの熱心な宗教家グループの輪から離れる口実になるならこの際なんでも構いません。



「ちょっとちょっと、事情は知りませんけど少し待ってくださいよ!」



 いったい何の理由があって彼もしくは彼女が大聖堂にいるのかは不明ですが、昨日の鈍臭い動きを見る限りでは難なく追いつけるだろうと見込んでいました。


 なにしろ裾を引きずるほど丈が長いローブに加え、小さな穴が開いているだけの仮面では視界の確保も困難なはず。必然的に移動は緩やかなものにならざるを得ず、特別に俊足というわけではないわたしの足でもすぐ追いつけるものと思っていたのですけれど。



「あれ、速い?」



 わたしが元いた二階から三階へ、そこから更に四階へと上る足取りは実にスムーズ。こっちの声が聞こえていないのか無視しているのかは分かりませんが、まるで床や階段をスルスルと滑るようにして素早く動き回っています。


 まさか丸一日足らずの間に運動神経が良くなることはないでしょうし、格好が同じなだけで中身は別人なのかもしれません。昨日は不在だったメンバーの中に運動が得意な人がいて、それが今まさに逃げているのだとすれば一応の辻褄は合いますが。



「ここ、四階が最上階ですもんね」



 いくら素早くとも進行方向は進める道がある範囲に限られます。

 わたしとて初めて来た建物の構造などロクに分かりませんが、これ以上は階段を上って上階に行くこともできませんし、ならば追い詰めようもあるでしょう。


 大聖堂の最上階である四階にあるのは、パッと見たところ神官長さんのお部屋や応接室。それから一般の信徒の方や神官さんが教えを学ぶために使われているであろう教室らしき部屋がいくつかと、本棚が並んでいる書庫らしき場所もあるようです。

 このワンフロアに限定してもなかなか広くはありますが、建物の四隅にある階段にさえ近付けさせなければ階下に逃げられる心配はありません。


 本日は式典のために大半の神官さんは出払っているようですが、もし残っている人がいれば不審者が入り込んでいると伝えて助勢を望むことだってできるでしょう。その場合は大事に発展する前に穏当に追い返すという目的は果たせなくなりますが、それに関しては正直わたしの知ったこっちゃありませんし。



「ていうか、さっきから声かけてるんだから反応くらいしてくださいよ!」



 向こうは不法侵入した不審者なわけですし、それを追いかけるわたしから逃げるのは自然といえば自然。ですが、さっきから何度も声をかけているのだから普通は多少なりとも反応くらいするものでしょう。

 潔くお縄に付く気がないのは仕方ないにせよ、普通は焦って足取りが乱れるくらいはしそうなもの。だというのに、目の前の黒ローブは最初からわたしの声が全然聞こえていないかのような無反応を不気味なほどに貫いています。


 ローブのフードや仮面の遮音性がそんなに高いのか。

 いえ、昨日は一応会話くらいはできましたし衣装の問題ではないはず。

 本当に耳が不自由なのだとしたら、デリケートな話題になるので触れづらくなってしまいますけれど。その場合は筆談を試みるべきでしょうか。あるいは、フードを剥ぎ取ってから耳にワンパン入れて治療すべきか。



「あ、止まった。やっと観念しましたか」



 こちらも一般入場が始まるまでに元の位置まで戻っていないとマズいですし、もしこのまま捕まえきれなければ諦めて引き返したほうが賢明かも……なんて考え始めた頃に、黒ずくめの怪人はようやく足を止めました。


 位置的には恐らく四階フロアのちょうど真ん中あたり。

 この足下より更に下、一階には客席がズラリと並んでいるはずです。



「ほらほら、いったい何の用事で来たのかは知らないし興味もないですけど、もし捕まったら大変ですよ。今のうちにコッソリ逃げるなら見逃してあげますから」



 ようやく観念したのか、それとも逃げる体力が尽きたのか。

 意外な俊足で翻弄してくれやがりましたが、黒ローブの背中に向けて改めて忠告を。これでもし大人しく聞き入れてくれなければ、その時はもう本当に知ったこっちゃありません。もし逮捕されて本人や親御さんが罰を受けようが、顔見知り未満の果たす義理としては十分すぎるくらいでしょう。


 相手が人間ならば、そんな考え方も間違ってはいなかったはずです。



「あれ?」



 ここで初めてわたしの声が聞こえたかのように、背中を見せていた黒ローブの怪人はゆっくりとこちらを振り返りました。一見すると、その姿は昨日のそれとまるで変わりありません。


 しかし今ようやく気付きましたが、ローブの布地が少し多めなのか手足の先が完全に隠れるくらい衣装の丈が長くなっています。あんなブカブカのローブを着て、よく転びもせずにあれだけ素早く動けたものです。



「ん……その仮面、どうなってるんです?」



 それ以上に気になるのが、怪人の顔を隠している仮面。

 昨日は目の部分に開いた穴から人間の目が覗いていましたが、目の前の黒ずくめの仮面をいくら凝視しても目玉らしきモノが見当たりません。それだけなら照明の当たり具合や影の落ち方で説明できるかもしれないにせよ……見るからに硬質の素材であろう仮面の口部分が、触れてもないのにグニャリと歪み、気味の悪い笑みの形を作ったのは自然現象で説明するのは無理でしょう。


 混乱するわたしを嘲笑うかの如く、黒ずくめの怪人はそれまで長い袖に隠れていた右手を出しました。自身の背丈の二倍か三倍かになろうかというほど不自然かつ巨大に伸びた、爬虫類のようなウロコに覆われ先端には鋭い鉤爪を有する怪物の手を。


 そして、そんな腕をわたし目がけて思い切り振り下ろしてきたのです。



「お、うおぉぉあ!? っしゃ、ギリセーフ!」



 幸い、咄嗟に横っ飛びに飛んで逃げたので直撃は避けられました。

 とはいえ、自慢ではありませんが今のは完全にマグレです。

 予想外のリーチと速さがありましたし、このまま二度も三度も攻撃されたら確実に身体を切り裂かれてしまっていたでしょう。


 果たして、そうならなかったのは運が良いのか悪いのか。



「おや、何の音です?」



 ピシリ、と硬質な異音が聞こえました。

 音の発生源は、どうやらわたしの足下からのようです。


 その正体に理解が追いつくよりも早く、



「うん? え、ちょっ、嘘でしょ!?」



 先の一撃で深々と切り裂かれていたらしい四階の床は、すなわち三階の天井は形を保つことができずバラバラに。これが三階フロアに落ちるだけなら、すごく痛いだけで済んだのかもしれませんが、生憎とこの大聖堂の中央部分は一階から三階まで風通しの良い吹き抜け構造になっているのです。


 このままでは、わたしの肉体は重力に従って一階の床まで真っ逆さま。

 まず間違いなく無事では済まないでしょう。

 即死すれば毒手モドキによる治癒も望めません。


 四階に開いた大穴の淵に立つ黒ずくめの怪人が、この時になって初めて男とも女ともつかない不快極まる声音でケタケタと、心底愉快そうに落ちるわたしを嘲笑っているのが聞こえました。


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