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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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51.ガチ勢とガール


 オッス、オラ聖女!


 まさか、自分がいつの間にかそんな風に呼ばれる存在になっていようとは。

 王都の大聖堂のトップである神官長さんが直々かつ丁重に出迎えてくださるあたり、その聖女というのは単なる名誉称号以上の重みがあるのかも。こうして顔を繋いでおけば、いざという時に病気や怪我の治療を頼みやすくなるという打算も多少はあるのかもしれませんが。



「じき他の地方からお越しの皆さんも来ると思いますので、お若いお二人はその方々と一緒に一般の参列者の入場前までにこの辺りにいていただければ大丈夫ですので」


「これはこれは、何から何までご丁寧にどうもです」



 大聖堂の建物は地上四階に地下一階。

 そのうち一階から三階までの建物中央部は広い空間を贅沢に使った吹き抜け構造になっており、緩い傾斜の付いた一階部分には長椅子がズラリと並べられています。大雑把な概算になりますが軽く五百人以上、ギュウギュウに詰めて座れば八百人くらいは入れるのではないでしょうか。


 まだ入場時間になっていないのでガランとしたものですが、もう数十分もしたら王様を始めとした国のお偉いさん方や、せっかくのお祭りだというのに遊び歩くよりも聖堂での儀式に出ることを優先する信心深い一般の参列客で座席が埋め尽くされることでしょう。お仕事でなければ間違いなくこんな場所には来ていなかったであろうわたしとしては、その熱心な姿勢に頭が下がるばかりです。



「眺めがいいねぇ。お客さんの顔がよく見えそう」



 現在わたしとクーちゃんがいるのは、聖堂二階の壁に沿って回廊状(内壁に沿って『ロ』の字型の通路があると考えれば想像しやすいでしょうか)になっている場所の建物奥側。一階の座席に座るお客さんとは階を隔てて向き合う形になりますね。大半の注目は我々のすぐ眼下に設えられた演壇に向かうはずですが、それなりに目立つ場所ですし油断して立ったまま居眠りなどしないよう気を付けねば。


 ちなみに院長先生と神官長さんは一階の演壇横に待機する形になるそうで、我々をここに案内したら回廊の四隅にある階段からさっさと下階へ移動してしまいました。



「えっと、他の人達と一緒に待ってればいいんだっけ?」


「ええ。ちょうどいらしたみたいですわね」



 クーちゃんの視線の先を見てみると、わたしと同じ十代半ば頃から少し年上の二十代くらいまでの若人達が次々と階段を上がってくるところでした。

 全員が神官服や修道服を着ていますし、察するに彼ら彼女らが他地方からお越しの下っ端仲間ということなのでしょう。わたしと同じくメインは各々の上司であり、お供で来ているだけの気楽な身というわけです。



「やあやあ、どうもはじめまして。本日はよろしくお願いしますね」



 初対面の相手ばかりではありますが、こういうのは初っ端に礼儀正しく挨拶してこちらに敵意がないことだけ示しておけば、大抵の相手は大人の対応で同じく当たり障りのない態度を返してくれるもの。前世の社会人経験で学んだ数少ない教訓です。



「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」


「はじめまして、わたしは――」



 あとは手短に自己紹介などを。

 明日になれば顔も名前も忘れている可能性が高そうですが、今日この場さえ乗り切れれば当分は会うこともない相手ばかり。この四年で磨きをかけた猫被りテクの見せどころ……なんて、思っていたのですが。



「この国の未来の宗教界を背負って立つ志を同じくする皆さんとお会いでき光栄の至り。どれ、まだ一般の入場が始まるまで時間もあるようです。ここは是非とも、時代に即した教義の解釈について論を交わし合いたいものですな」



 ……なんて?


 そんな重いもの背負ったら、わたしなんてペシャンコに潰れてしまいます。

 それに教義の解釈も何も、こちとら根っからのノンポリ派。気の利いた意見なんぞ出るはずがありません。



「この場に来ることを許されたということは、皆さんも尊敬すべき先達の方々に信仰の在り方を認められたのでしょう。非才の身ではありますが、その一端に加われたことを光栄に思います」


「然り然り! 愚僧も幼少の折から勉学に自信はありましたが、師より同行を許されるまで入門より十年もかかってしまいました」



 ははーん、この方々……さては宗教ガチ勢ですね?


 お気楽な下っ端仲間だとばかり思っていましたが、とてもそんな風には思えません。いえ、うちのクーちゃんも熱心な信仰心をお持ちですし、この場において場違いなのはわたし一人だけなんですが。


 皆さん真面目に信仰の道を歩んでいる人徳者だけあって口ぶりこそ謙虚ですが、ここに集まった面々はいわば若手の宗教エリート。各々の所属組織においては、将来の院長や神殿長候補となり得るような逸材揃いなのでしょう。言うまでもなく、その中にわたしは含まれませんが。



「建国祭の式典に、そんな権威があったとは……」



 うちの院長先生がああいう性格なものですから、観光半分の気楽な旅行みたいな認識が普通なのかと思っていましたが、アレは極めて特異的な例外だったようです。そんなノリで互いの空気感の違いに気付かないまま真面目に宗教家をやっている皆さんと接していたら、不興を買ってトラブルに発展していたかもしれません。


 ですが、まだまだピンチは継続中。

 なにしろ、わたしに小難しい宗教議論などできるわけがありません。


 なので当然のように話題に付いていっているクーちゃんに矢面に立ってもらい、あとは適当に相槌や首肯を挟みながら会話に混ざっている風を装っていたのですが……。



「……あれ?」



 なにやら視界の端に奇妙なものが見えました。

 そして、同時に強烈な既視感もありました。



「りっちゃんさん、どうかなさいました?」


「あ、うん。ほら、昨日の黒ずくめの子達いたでしょ? まあ中身が同じかは分かんないんだけど、それがそこの階段を上っていくのが見えて」



 あの特徴的な黒ローブと仮面は忘れられるはずがありません。

 彼あるいは彼女の目的は分かりませんが、こんな聖堂にはあまりに場違い。

 趣味に熱心なのは結構ですが、今日の式典には国のお偉いさん方も多々出席するのです。あの不審者ぶりでは国の重鎮を狙ったテロリスト扱いされても文句は言えませんし、見つかったら恐らくお説教では済まないでしょう。



「警備の人に捕まって逮捕とかされたら流石に可哀想な気もするし、一般の入場が始まるまでに戻れば大丈夫だろうし……クーちゃん、すぐ戻るからちょっと離れるね!」



 まあ実は綱渡りの宗教議論から逃げる口実として利用させてもらう気もあったりするんですが。昨日の鈍臭い動きを見た限りでは、黒ずくめに追いつくのに大して時間はかからないでしょうし。洒落で済むうちに早く帰るよう忠告して、それから一般客の入場直前まで適当に時間を潰してやり過ごそう、なんて。


 そんな目論見は脆くも崩れ去ることになったのですが。


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