49.嵐の前のガール
奇妙な変人集団のせいで僅かばかり時間を食った感はありますが、まあトラブルという程のことでもありません。気を取り直して食べ歩きを再開し、その後は暗くなってお城に戻るまで楽しいだけの充実した時間を過ごすことができました。
「いやぁ、観光旅行かくあるべしですねぇ。院長先生は朝から見かけませんでしたけど、もしかして昨日からずっと飲み歩いてたんですか?」
「こらこら、馬鹿をお言いでないよ。明日の本番前に大聖堂まで顔を出して、王都の神官共やアタシらと一緒で地方から出てきた馴染みの連中とあれこれ打ち合わせてたのさ。まあ、舌の滑りを良くするために、他の奴らが持ってきた土産を肴にちょいと飲み物が進みすぎたのは確かかもしれんがね」
つまりは、お仕事半分。
もう半分は飲み会だったということですか。
我々が招かれている時点で予想すべきことでしたが、明日の建国祭とやらには国中のあちこちの修道院や神殿から人が呼ばれているのでしょう。
わたしの如き下っ端はいてもいなくても大差ない賑やかし程度のものだとしても、実際に儀式を執り行う上の面々は気を遣うことも相応に多いはず。そこで話し合いを円滑に進めるべく多少のアルコールが入ったとしても、それはきっと仕方のないことなのです。そう思っておきましょう。
「ところで、建国『祭』ってくらいだし、聖堂に国のお偉いさんが集まって何か小難しいことをやって終わりってだけじゃ寂しいですよね。他に何か面白そうな催しはないんです?」
「おいおい、金髪。アンタ、伝統と格式ある建国祭を何だと思ってるんだい。そんなもん……あるに決まってるじゃあないか! あちこちの通りを綺麗に飾り付けて、王都中が朝から晩まで飲めや歌えの大騒ぎってなもんさ」
「やった、そうこなくっちゃ!」
院長先生のお話によると、この日にしか出てこない特別メニューを提供する飲食店や、書き入れ時に合わせて訪れる芸人や楽団なども多々いるようで。そういえば今日の昼間にも色々と準備をしている風の店屋を見かけましたが、明日はただでさえ賑やかな王都がもっと盛り上がるという理解でよいのでしょう。
「アタシも堅苦しい用事が済んだら街に繰り出すつもりだしね。アンタらも聖堂での仕事が済んだ後は好きにしな」
「さっすが、院長先生! 先生のそういう話が分かるとこ好きですよ」
ほとんど所定の位置で突っ立っているだけでいいらしいとはいえ、国家の重鎮が集まる厳かな儀式の場というものに少し緊張していたのですが、終わった後にご褒美が待っているとなれば大した苦労でもありません。
また今日と同じメンバーを誘って四人で遊ぶか、それとも初日と同じくマー君と二人でどこかに行くか。そういえば王族である彼も大聖堂の儀式とやらには参列するのでしょうか。それとも影武者のレイさんが代理で出席するとか?
「ええ、明日はボクも出席する予定です。式典の最中は父上の隣で座っているだけでしょうけど、その前後の時間に来賓の方々との挨拶や顔繫ぎなどもしておきたいですし。これまで健康上の理由で遅れていた分だけ、こういう機会にどんどん取り戻していかないといけませんから」
「なるほど。そういうのも考えないといけないんですねぇ」
マー君も実質的にお仕事のようなものでしょう。
これまでは王子として人前に出る機会がほとんどなかったようですが、将来を考えるなら大貴族や有力な聖職者と縁を繋いでおくに越したことはないはずです。まだまだ貫禄不足なのは否めませんが、他ならぬ国王陛下たるお父上のご紹介とあらばお偉いさん方も決して無下にはできないでしょうし。
「じゃ、遊びに誘えるかどうかは微妙かもですね」
「ええ、残念ですが」
まあ、こればかりは仕方ないでしょう。
レイさんも警護でマー君の近くに貼り付いている予定だそうですし、明日の自由時間はクーちゃんと二人行動となる線が濃厚でしょうか。可能なら、王都を発つ前にもう一日くらい皆で遊びたくはありますが。
等々と、各々明日の予定を話したところで今宵はお開きと相成りました。
そして一晩ぐっすり眠ってから、まだ朝の早い時間に起き出して昨日と同じくひとっ風呂浴びて、それから着慣れた修道服へとお着替えをば。ほんの二日そこら私服を着ていただけなのに、なんだか久しぶりに着るような気がするのが不思議です。
そこから先は昨日と同じくお城の料理人さんが作った朝食を頂いて、それからマー君とレイさんとは別行動で大聖堂まで送迎の馬車で移動して、と。
我が人生最大級のロクでもない思い出となる一日は、こんな具合に後から振り返ったら意外なほど穏やかな立ち上がりを見せたのでありました。
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